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『SELF』

作者: 梅花空木

キミがいないと不安定で、『自分』が出せない、定まらない。オレがこんな情けない奴だって知ったら、キミはどうするのだろう。

「なぁ、最近どうしたよ?」ぼーっとしていた俺の顔を悪友・名矢なやが覗き込んできた。

「…あ?んー…まぁこれでも一応悩めるお年頃ですから?」わざとおどけて冗談めかして返すが、気持ちは妙に冷めていて、笑顔がぎこちないものになる。しかし、名矢にはそれで充分だったらしく、

「ククッ…なんだそりゃ!でもそうでなきゃピロらしくねぇよな。」俺の肩をバシバシ叩き、満足そうに名矢が笑う。

オレの名前は、仲道なかみち 宇宙ひろし。あだ名は、ピロシキからとってピロ。でも、つくづく名前負けだなぁと思う。たまに、こんな名前をつけた親を恨めしく思ったりもする。だってオレは、『自分』もわかってなくて、偽りの『自分』を振り撒く小さい奴なのに。それにさえ、最近やっと気づいたところなのに。

「俺らしい…ね。俺らしいってのは、どんなだ?」半ば投げやりに聞く。

「ん?そうだなぁ…以前は、もっと明るくて、おもしろかったじゃん?俺がボケてもツッコミ入れてくれたしー。」名矢がいたずらっぽく笑う。

でも名矢が言うオレは全部偽りだ。

「それはそうと!もうすぐだな、パァーッとやろうぜ!!」名矢が待ちきれないという様子で言う。

「何か…あったっけ…?」(まぁ多分オレには関係ないな。)と心の中で片づけようとすると、

「だーかーら!ホントどうしちゃったわけ?ピロの誕生日じゃん!!」名矢が大声を張り上げる。

「誕生日…。」オレの誕生日のこと兎朶うたは覚えていてくれるだろうか。それともオレのこと自体さっぱり忘れているだろうか。

兎朶とは、大学へ入る前までずっと一緒だった幼なじみ。当たり前に隣にいたから、これからもずっとそうなのだと思っていた。離れてみて初めて、兎朶がいないと『自分』が保てないってこともわかったんだ。兎朶、こんなオレをキミは笑うだろうか。

「…ロ…ピロってば!で、何がいいんだ?」名矢の喧しい声で我に返る。

「…や、別にプレゼントとかこの歳でいらねぇし。第一、男同士でプレゼント贈り合うとかキモくね?」大袈裟に溜め息をつきながら言ってやると、

「なんだよっ!ヒトがせっかくさぁ。…でも、確かにそうかもな。」うんうんと名矢が頷く。


誕生日当日。12:00ピッタリに名矢からハデハデデコメのBirthdayMailが着た。それに目を通しつつも、頭の中は兎朶に忘れられているかもしれないという不安でいっぱいだ。

その後も着信もないのに、携帯を開けたり、閉めたり。

(兎朶にとってオレはその程度だったのか。)不安と孤独が交互に押し寄せる。


朝6:00。眠れるはずもなく、携帯を眺めていると、兎朶からのMailが着た。急いで読む。

内容は、近況報告、激励、Happy Bithdayの文字の画像。シンプルだか、名矢のMailなんかよりも、百万倍嬉しくて、何回も何回も読み返す。お礼Mailも忘れない。しかし、こんなに喜んだことは照れ臭いので兎朶には秘密だ。涙が自然に溢れる。


どんなにはなれていても、キミは変わっていなかった。だから、オレも変わらない。今は『自分』がわからないけど、ちゃんとこれがそうだと言える様になる。そして、頑張っているキミに少しでも追いつけたら…。オレのスタートはそこなんだ。

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