06 条件
とりあえず街から離れることは出来たけど、
目的地はともかく、進行方向くらいは決めないとね。
北のケルミシュ村には戻れないし、
南はキルヴァニアなのでもちろんNG。
東か西かの2択ってことで、何となく東に進んじゃおうって感じに。
東に向かうこの道は、道幅のわりには整備が行き届いていない感じなんだけど、
休憩出来そうな集落は街道沿いにそれなりにあるそうだし、
とりあえず南東にあるガルグリスタっていう国を目指すことに。
急がず焦らずの徒歩の旅、途中で馬車に乗れたらラッキー、
てな感じの、いつも通りのぶらり旅開始ですよ。
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「あの件は、首謀者不明のまま捜査は打ち切りとなりました」
「エルサニア司法省の内部監査は問題無しとのことでしたが、キルヴァニア側は明らかに調査に非協力的だったそうです」
「あちらの巡回司法省支部に影響を及ぼせるほどの何者かの企て、だったのでしょうね」
「残念ながらこれ以上の深追いは国家間の溝を深めるだけとの判断が成されたことが、司法省の一員として、とても悔しいです……」
それって、俺たちはこの先ずっと要警戒ってことですか?
「今回新たに定められた約束ごとが遵守される限りは、他国からの来訪者のキルヴァニア国内での安全は保証される、とのことです」
「もちろん、ノアルさんも含めて、ですよ」
こう言っちゃなんですけど、脅迫して要求ゴリ押しってことですよね、それ。
なんか、めっちゃ既視感。
どこの世界だろうと、そういう国はあるんだね。
それで、国の約束ごとって何です?
「キルヴァニア王国への、巡回司法省や各種ギルドなどの超国家組織による内政干渉の禁止」
「キルヴァニア王国への全ての来訪者の、監督責任を有する確実な身元保証」
「キルヴァニア王国の保有する全ての古代遺跡への、無許可での接触行為の禁止」
「以上がキルヴァニア王国側の提示した条件で、一般には未だ非公開ながら正式に締結されました」
でも、結局それって答え合わせですよね。
エルサニア王国や巡回司法省と正面から渡り合える程のキルヴァニアの実力者が、
キルヴァニア国内、特に古代遺跡関係でなんかコソコソやらかしてるので、
今はどこからも邪魔されたくねーんだよ、って白状しちゃってるでしょ、それ。
ってか、俺がケモミミ観光のついでに古代遺跡に寄りたいなって、のんきしてヤブヘビ突いたせいで、国家間の問題になっちゃったんですね。
「……これは、特務司法官として、そしてノアルさんのパートナーとしての私の思いです」
「善行も悪行も、それを成した者がその重さに応じた評価を受けるべきだと、私は先輩方から教わりました」
「地位も、財産も、年齢も、性別も、種族も、そんなのは全く考慮せず、成した行いこそが評価対象であるべきだと」
「今回のノアルさん襲撃の件は特務司法官の監視があったことで事態がこれ程の大事となりましたが、もしそうで無かったのなら、誰にも知られずに闇に葬られていたことでしょう」
「私は、国家間の問題である以前に、命を命とも思わないその邪悪な行為そのものが裁かれるべきだと思います」
「このような中途半端な幕切れを許すほど、巡回司法省は歪んではいない、とも信じております」
「ノアルさんにはこれからも、行動の結果起こる波紋の大きさに惑わされずに、思うがままの人生を送ってほしいのです」
「どうぞ、自由に生きてください」
「そのためでしたら、これまで以上の献身を持ってお仕えする覚悟です」
……重いですよ、マーリエラさん。
俺、そういうのを受け止められるほどの器量なんて無いですよ。
いつもみたいな、あやふやのんきなおっさんのままではダメですかね。
「もちろんこれからも、ノアルさんの思うがままに冒険者として自由に振る舞ってください」
「そんなノアルさんを、監視任務という職務を隠れ蓑としてストーキングするのも自由」
「お互いがお互いを思いやり、尚且つそれぞれが自由に振る舞う、それこそが冒険者パーティーの在り方ですよね」
……えーと、今、ストーキングって言いましたよね。
「お疲れのようですので、今日は早めに野営の準備に入りましょうね」
「もちろん夜番の方は、私が一晩中でも大丈夫ですよ」
……焚き火を囲んで、今後のことを語り合いましょうか、その、いろいろと。




