11 ヴラウペン
エルサニアとガルグリスタの国境の街、ヴラウペンに到着。
両国共同管理の街で、なかなか活気があるようです。
今は西門の前で、入国審査待ちの列に並んでおります。
結局、徒歩でここまで来ちゃったね。
まあ、俺としては、何かと気を使う馬車便乗より、マーリエラさんとふたりっきりの方がいいんだけどさ。
いえ、マーリエラさんには気遣い無用ってわけじゃ無いですよ。
むしろ使いすぎて叱られちゃうくらいですから。
だって、すげえ可愛らしいんですよ、ぷっくりほっぺ顔で叱ってくれるマーリエラさん。
そりゃあアレコレ構いたくもなりますって。
「……」
そう、そのジト目こそが、最近の俺の大好物。
まさにご褒美、だよね。
「乙女の困り顔を楽しむという所業、騎士として見過ごせんな」
いえ、お構いなく、
って、どなた?
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あー、猛烈に反省しております。
正義感が鎧を纏っているような立派な騎士さまから、
ヴラウペンの衛兵詰め所に連行されて、
お説教の嵐、ですよ。
「親しき仲にも礼儀あり」
「いかに気心知れたパートナーであろうと、守るべき節度はある」
「命を預け合う冒険者ともなれば、尚更」
ごもっともです……
「ふむ、エルサニアからの旅人、騎士を前にしてその振る舞い」
「もしやノアル殿は召喚者、かな」
ご明察です……
「ガルグリスタへは、何用で」
観光です……
「うむ、ここまでの旅路に水を差すようで申し訳ないが、今はこの国には立ち入らぬ方が良かろう」
入国拒否されるほどやらかしましたか、俺……
「いや、ノアル殿のためを思えばこその忠告」
「このまま大人しく帰路に着いてもらえるとありがたい」
事情、教えてもらえませんか?
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このちょっとお節介で真面目一辺倒なイケおじ騎士様は、
ベラルタ騎士団長さん。
正確には騎士ではなく、このヴラウペンの街の一兵卒の衛兵さんなんだけど、
今も、近衛騎士団長だった頃の部下たちから慕われていて、
ここに左遷されてからも団長って呼ばれているそうです。
で、街の人たちも敬意を払って"ベラルタ騎士団長"さんって呼んでいるのです。
元々は、この国最強の近衛騎士として、近隣諸国でも勇名を馳せていた凄い騎士様。
ただ、真面目すぎる性格を例の新王妃から疎まれて、
理不尽な理由で一兵卒に落とされた上、この街に左遷されてしまったそうです。
「王家のためを思えばこその言動が、目障りだったようだ」
そんな目に遭っても国に尽くすという愚直なまでの生真面目さが、
元部下や街のみんなから慕われる理由でしょうね。
「王妃たちのエルサニアかぶれ、目に余るものがある」
「もしノアル殿が召喚者だと知れたら、歓待という名の幽閉生活を強いられるのは間違い無い」
「それほどまでに歪んでしまったのだよ、我が国の王家は」
なるほど、召喚者って、ある意味エルサニア名物の特産品ですものね。
召喚儀式出来る程の魔法使いって、なかなかいないようですし、
採れたての召喚者がノコノコこの国にやってきたら、美味しくいただきますされちゃうよね。
ご忠告、ありがとうございます、ベラルタ騎士団長様。
「いや、こちらこそすまない」
「確かにノアル殿は冒険者だが、それ以前に召喚者でもあるのだな」
「召喚者として譲れない、あちらの世界の流儀もあるのだろう」
いえ、俺に限ってはそんなものはこれっぽっちも無いですよ。
マーリエラさんをイジるのは、大好きだからです!
「……確かに召喚者、だな」
「ただ、相手の気持ちをもっと思いやるべきだぞ」
「パートナーを泣かせるなど言語道断」
うわっ、また泣かせちゃったよっ、
ちょっと、マーリエラさんっ、
どうしちゃったんですかっ。
「私のこと、大好きって……」
えーと、言質でもなんでも良いので、とりあえず泣き止んでくださいっ。
「うむ、召喚者というのは、まさに噂通りのようだ」
「我が国の乙女たちにも警鐘を鳴らさねばならん」




