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『万物両断』のTS魔法少女は、絶望すらもぶった切る  作者: 海月 くらげ@書籍色々発売中


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第32話 『腐海』のファテス


 ファテスと名乗った竜騎士が踏み込む。

 慇懃で傲慢な、強者にしか許されない、自分の力に確固たる自信をもった動き。


 それだけで、世界が作り替わったかのような錯覚さえ覚えた。


「なっ――」


 刹那、俺の前に銀色の甲冑が躍り出ていて、あまりの速さに反応が遅れる。

 選択肢が狭まり、これは受けるしかないと左手を剣の腹に当てて防御を図った。


 振り下ろされたハルバードの刃が剣と激突する。

 重すぎる衝撃が痺れと共に伝わってきて、硬質な音を響かせる――かと思いきや、その刃は剣での防御なんて意に介さないかのように透過してくる。


 違う。


 剣が腐って、溶けている?


 このままでは防御は無意味で押し切られると判断した俺は剣を手放し、素早く後ろへ飛びのく。

 それが功を奏し、胸先三寸のところをハルバードの刃が通過して、爆音と共に床に叩きつけられた。


 放射状に広がるヒビ。

 あの威力では建物の方が負けるのは容易に想像できる。


 空いた穴から外へ出て無人の道路へ着地すると、背後でビルが崩れ去る音が耳に入ってきた。

 巻き起こった土煙が煙幕となって立ち込め、吸い込まないように左手を口元に当てての浅い呼吸に留める。


「これ、結界が解除されたら直る……よね?」


 一帯を覆っている結界を張ったのはファテスだろう。

 クーのようなアフターケア機能があるとは期待できない。

 なるべく破壊を抑えて戦いたいところだけど……そんな余裕はなさそうだ。


 さっきの一合でわかったけど、そもそもの地力が違い過ぎる。

 俺は一応Bランク程度の力はあるとされているけど、この竜騎士は遥か上。

 Aランクにしては強すぎる雰囲気があるから、もしかするとSランクに手をかけているのかもしれない。


 そんな相手に勝てるのか?

 勝負に絶対はないにしろ、限りなく勝ち目が薄いことだけは確かだ。


「……だとしても、やるしかないんだけどさ」


 魔力を練り上げ、斬られた剣を生成し直す。

 剣がなくても『切断』の『魔法』を行使できるとはいえ、イメージの補完をするのに便利だからあった方がいい。


「弱いな。所詮は人間。『魔法』の真価をまるで発揮できていない」

「こっちは『魔法少女』になってから半月ちょっとの新参者なんだけど……?」


 腹立つな、こいつ。

 完全に格下だと思って舐めてるのか?


『魔法』を使いこなせていないのは認めるけど、それを敵に指摘されるのは少しばかり癪に障る。


「そういうあんたは『魔法』を使いこなせているのかよ」

「少なくともお前よりは、な。だが、案ずることはない。ここでお前は死ぬからだ」


 殺気。

 生物としての本能が危機を告げる。


「冥途の土産だ。なにも成せぬまま溺れ、腐り、消えゆくがいい――『腐堕海渦(スー・ヴォクス)』」


 ハルバードの石突が硬質な音を奏でる。

 すると、ファテスの身から毒々しい青紫色の波紋が周囲へと放たれた。


 ファテスの『魔法』ならば警戒するに越したことはない。

 身構え、何が起きてもいいようにと注意を巡らせるが――一向に変化が訪れる兆しを感じられない。


 不発か? いいやまさか。

 あれだけの強さを持ったファテスが使った『魔法』だ。

 絶対に何かある。


「『魔法』は成った。もうお前に勝機はない」

「そんなのやってみなきゃわからないだろ」

「いいや。『腐堕海渦(スー・ヴォクス)』はお前の身体を内側から蝕み、侵し、腐らせ、最後には死に至らしめる。その命は保って数十分。死にたくなければ俺を殺すことだが、お前では無理だ」

「……随分と気前がいいんだな。使った『魔法』のことを教えてくれるなんて」

「言ったところで問題にならない。それに、こうしている間にも、お前の身体は腐っていく」


 冷たい声。

 ファテスの言葉を信じるなら恐ろしい『魔法』だ。


 制限時間を設け、その間だけ耐えきれば勝利が確定する『魔法』。

 時間が経てば経つほど俺の戦力は減っていくから長期戦は不利になる。

 なら短期戦で決着を……と考えても、ファテスは近接と『魔法』のどちらでも俺より優れていた。


 端的に言って、かなり分が悪い。


 力推しでも勝てるところをより確実なものとするために盤面を整えられた。

 慎重なのか、はたまた甚振る趣味でもあるのか。

 どちらにせよ厄介なのはこれが手札の一つでしかないこと。


 こんな思考をしている間にも、俺の身体は蝕まれている。

 既に若干の気持ち悪さを覚えていたけど、顔には出さないよう不敵な笑みで誤魔化して剣を構え直す。


「だったら、『魔法』ごと斬ればいい――ッ!!」


 踏み出し、ファテスの懐へ飛び込む。


 極論、全部丸ごと斬り捨てれば解決する。


『切断』を剣に纏わせ、反撃の隙を与えないよう猛攻を始めた。

 横薙ぎ、袈裟、逆袈裟から刺突と、息もつかせぬ連撃を浴びせようと試みるが、対するファテスは紙一重で全ての攻撃を躱し続ける。

 それがギリギリではなく余裕ゆえの紙一重だと示すようにファテスは鼻を鳴らす。


「未熟だな。まるで基礎がなってない。いかに『魔法』が強かろうと使い手がこれではな」

「うる、せえッ!!」


 溜まった熱を追い出すように声を荒げ、剣を振る。


 こんなのと戦うなら、ちゃんとした剣術を学んでおくべきだった。

 俺の剣は付け焼刃。

 とてもじゃないけど一流の武芸者と戦うには心許なく、未熟すぎる。


 剣も、『魔法』も、基礎的な身体能力も、経験も。

 何もかもが足りていない俺がファテスに勝つには、今、この場で進化するしかない。


 ファテスに勝って、生き残るために。


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