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その4 下の兄と舞踏会と私



 世の中は理不尽に溢れている。人間には得手不得手がはどうしてもあって、不得手を克服するくらいなら、得手を伸ばす方が有意義だと思うが、そうも言っていられないことがままある。

そう、理不尽とは、別名逃げられないとも言うのである。


 まあ、そんなこんなで、逃れられない理不尽に巻き込まれながら、異世界らしき世界で、私、転生三女やってます。



 色々と突っ込みどころの多い兄姉達であるが、基本時には、個人主義であるので、だいたいは我関せず的なことが多い。

ここ重要なんですけど、多いだけで、無いわけじゃないんですよ。

だって、自分の倍はありそうな兄に、額ずくように縋り付かれたら、まあ、逃げらんないですよね。絵面的な意味でも。

 「カティル。もうお前だけが頼りなんだよ」

 「えー。パーティー関係でしたら、アリシアお姉様向けかと思うのですが」

そう。下の兄、どう失敗したのか、大会の主催に任命されたらしい。

 「アリシア姉様には、もう何度もお願いしたので、そろそろ、こう言う簡単な主催を経験しておくものだって言われて」

いや、それ、私に協力頼んじゃダメなやつでは。

 「私、アリシアお姉様に叱られたくないのですけど」

 「大丈夫。カティルは、主催も手伝いもしたことないから、良いって言われた」

下の兄、微妙に手際良いな。とはいえ、私はドレスが嫌いなくらいだから、余所のガーデンパーティーですら、片手で数えられる程度なんですが。

いや、上の姉二人が、適齢期近いし、連れて行くなら二人が中心で、たまに年下の成人前の子供主体のパーティーがあるので、そこに日が合えば潜り込んでるって程度なんだよね。

 「まず、私がこの年で主催をすることはないと思うんですけれど。おそらくアリシアお姉様が言われたのは、お手伝いであって主催ではないかと」

なんといっても、私、成人前なので、主催でお茶会を開くこともないんだよね。もう少ししたら、嗜みとして、主催させられるんだろうけど。

だから、上の姉は、私に補助をして貰え的なことを言ったんだと思うんだよね。

いやね、主催って、まず、どんなパーティーをするのかを決めて、セッティングに必要なものの発注、そして、招待客への招待状の作成、当日までは、とにかく準備、そして、当日は、ホストとして、周りに気を配り、退屈させないように話題を振ったりし、終わりにはおみやを渡して、お見送り。

私の就寝時間を大幅オーバーなわけなので、パーティー会場には行けないんだよね。

まず、それを上の姉が許すはずがないので、私のお手伝いはコンセプトと準備のみ。後は、招待状の文言くらいまでかな。

正直、コンセプトでも、付き合いたくない。

なぜなら、コンセプトに関わるってことは、当日の会場準備を私がしなきゃならなくなるから。

確実にその未来しか見えないんだよね。下の兄のパーティーに付き合うってなると。

 「カティルぅ」

 「今更、エイダー兄様に言っても仕方ないとは思うのですけれど、まず、私、成人前だと理解してます?」

 「そりゃあ」

 「では、夜のパーティーに私が出席できないのも、理解していました?」

そうなのだ。直前までの準備まで借り出されたとしても、私は当日フォローは出来ないのである。

 「あっ」

うん。完璧に忘れていたって言うか、考えないようにしてたな。

 「私を巻き込みたいのでしたら、昼のガーデンパーティーにすれば良ろしかったのに」

 「閣下に頼まれたのが、舞踏会だったので、無理」

うわー、大物出てきたわ。下の兄は、サロンの住人だから、人脈が上から下まで半端ないんだよね。

下は、商人から、上は大公閣下まで。そう、大公閣下が混ざってんだよ。恐ろしい。そして、今回、主催してねって言ってきたのは、大公閣下で、下の兄が断れるはずもなく。そのとばっちりが私にきたと。

そりゃあ、上の姉も、私にお手伝いしろって言うわ。

でも、そう言う人に関わるのは、下の兄だから、今回はさすがに、全面協力しないで、下の兄にほぼ手を尽くせと言いつつ、どうなるか分からないので、私を補佐に付けて、どうにもならなくなる前に、強制介入するつもり、かな。

まめに上の姉に、情報流しておこう。

 「ガーデンパーティーで、ダンスを踊っても良かったのではないですか」

 「え?」

 「だって、エイダーお兄様の通っているサロンは、そう言うお話もしているのでしょう」

伝統は伝統として、新しいものを取り入れる。だから、下の兄の通うサロンには、平民である商人や、時折職人も出入りしているのだ。

革新派とでも言うんだろうか。まあ、外から見ればそうなのだが、内情的には、しゃっちょこ張ってるのに疲れた上位貴族が、息をし易い場所を作った。というのが、正解らしい。

外には出せないので、ひっそりとやっていたら、いつの間にか大がかりになって、サロンと呼ばれるまでに膨れあがり、そうなってくると、今度は、最初の頃のような気安い雰囲気というのも、難しくなり、その雰囲気を誤魔化すために、こうやって、成果発表のようなパーティーを開くようになったわけだ。

あくまで、下の兄談だが。

そうだったら、下町グルメとか取り入れたら面白かったのに。ちょっと、下町のお祭りっぽく。

 「先にカティルに相談するんだった」

既に夜会で通達してしまっているので、今更デイパーティーには出来ないと。まあ、そうだろうな。

 「それはともかく、ダンスパーティーなのですから、ご婦人方もお呼びするのですよね。早めに招待状と、色などあるのでしたら、そちらをお知らせしませんと」

一ヶ月前とか言ったら、ご婦人方に切れ散らかされますよと、暗に匂わせると、下の兄の表情が一気に悪くなる。

え、もしかして、今の段階で、まだノーコンセプトなんです?

 「カティルーっ」

 「今日中に方向性だけでも決めて、招待状を出さないと、当日、ご婦人方に針の筵にされますよ」

針の筵なら、もしかしたら良い方なのかもだけどね。

下手を打つと、後々までに響き渡る悪評になるし。そうなると、姉の婚期に響くし。

あれ、意外と、責任重大なんじゃ。

 「アリシアお姉様と、ウィメルお姉様にも手伝って貰いましょう。さすがに、招待状を今から書いて、明日までには発送となると、二人では手が足りませんもの」

まだ先があったかのような絶望顔になってますけど、ご婦人方を敵に回したなんて聞いたら、絶望なんて生温かったと思い知ることになりますよ。いや本当に。

 「色、色、色なぁ」

まあ、コンセプト色を決めると、パーティー会場の飾り付けも楽になるので、良いんだけど、そう言えば、ダンスパーティーって言うだけで、他の注意事項は無かったんだろうか。

 「そう言えば、エイダーお兄様。閣下にダンスパーティー以外は何も言われておりませんか?」

 「あー。そう言えば、今年は、国花が狂い咲きしてるから、それを見るのも良いみたいなことを」

 「ぎゃーっ」

思わず叫びましたよ。ちょっと、国花って、確かに安いけど、狂い咲きってことは、季節外れに咲いてるのをどうにかしろってことじゃん。ちょっと、今から花屋に問い合わせして、数って揃えられるの。

いや、もうこれ、お父様案件だよね。

 「えっ。ちょっとカティル」

 「だめです。無理です。家族会議です」

だいたい私では、パーティーに国花を使うってことの意味が分からない。造花で良いのかも分からないし、花をコンセプトにして、ドレスコードの色を国花にするとかで良いのかも分からない。

とりあえず、うちが会場なら、もう、お母様やお姉様に確認だわ。

 「と、とりあえず、最初はアリシア姉様だけにして」

 「分かりました」

さすがに、母含め三人がかりは避けたいと思ったらしく、下の兄は、情けない声を出しながら、必死に妥協案を出す。

 「だいたい、どうして最初にきちんと伝えておかないんですか?」

 「だって、そんな重要と思わなくて」

へどもどと、言い訳をする下の兄を冷ややかに見詰める。分からないから言わなかったとか、本末転倒だろう。

 「重要かどうかも分からないのなら、聞いたこと全部伝えて精査して貰うのが正解だと思うんですけど。そのあたり、どう思われます?」

半ば据わった目で問い詰めれば、下の兄は、これ以上失言したらなにが起こるか分からないと思ったようで、素直に謝罪した。

 「ごめんなさい」

ここで下の兄をとっちめても意味が無いし、時間の無駄だ。うちのパーティーしかも大公閣下のご指名パーティーで、何かあったら、顔向けできない。更に言うなら責任取れない。

と言うか、私にお鉢を廻したってことは、大公閣下に言われてやることになったってのも、上の姉に伝えてないよな。

修羅場が今から見えそう。

 「アリシアお姉様をよんで来るので、ちゃんとそこで、大公閣下に何を言われたのかつぶさに思い出しておいてください」

侍女を使って呼び出すには、ことが大きすぎる。道すがら、大筋を話しておかないと、叱責で一日終わりかねない。しかし現状その一日は、死活問題の一日なので、その件も伝えないと。





 そんなわけで、圧迫面接再び。上の兄といい、下の兄といい、どうして上の姉と下の姉の神経を逆なですることをしでかすのだろうか。

いや、上の兄は仕方ないか。うといもんな。そういうのに。

 「で」

短い言葉で威圧ばしばしの上の姉。その前には、借りてきた猫よりも酷い有様の下の兄。

 「いや、えっと」

そこで私に助けを求めないでください。だいたい、大公閣下の言った内容なんて、私知らないですから。

 「一応、あらましは伝えましたけど、大公閣下の言葉は私には分からないので、その時の会話を思い出せるだけ思い出してください」

丸投げですから。私にパーティーの細やかなルールなんて分かるわけないじゃないですか。

 「ええ。大公閣下のお言葉で開くことになったなんて、カティルから初めて聞きました」

やっぱり言ってなかったんですね。下の兄よ。重要か重要でないかは、上の姉が判断するから、全部言わないと。

 「いや、その。この間、アリシアが手伝ってくれたパーティー、お褒めの言葉を頂いて、今年は、国花が狂い咲きしていて、素敵だなって話と、もう一度うちの主催でパーティーを開いて欲しいって言う話になって、うら寂しい冬の季節に、国花の狂い咲きとか、華やかで良いじゃないか。たまには冬のパーティーも良いものだと」

あー。これ、大公閣下にうちの足下見られたな。

金かけて、春を思わせるようなパーティー開けよ成金貴族って話だわ。

 「アリシアお姉様。もしかして、これ言われるがままにパーティー開くと、うちの沽券に関わるのではと思うのですけど」

言えば金かけてなんでもやるって思われると困るし、でも下の兄がやるって言っちゃった以上やらないのもまずいって事だ。

 「カティルでも分かるというのに、エイダーはどうして分からないのかしら。大公閣下とは言え、うちを馬鹿にしたのですよ。ヘラヘラと、パーティー開きますなんて言ってくるとはっ」

 「えっ。そんな悪い方じゃないよ」

 「悪くないなら、大公閣下が、阿呆と言うことですよ。エイダーお兄様」

冬に春のようなパーティー開いて欲しいなんて、男爵家に言ったのが、その場の思いつきだって言うなら、ただの阿呆でしかない。

 「そんな」

 「前回のパーティー成功させすぎてしまったんですね」

成功しすぎると、上級貴族が煩いのだ。ちょっと徒傷残した方がいい。徒傷って言うと言いすぎなんだけど、要は、ちょっと時間が足りなくて、お料理手抜きが混じってるとか、セットを揃えられなくて、主催のテーブルセットがちょっと型が違うとか、そう言うのね。

 「テーブルセットを混在させて、一式揃えられなかったようにはしたのだけれど、それが逆によく見えてしまったのね」

溜息を吐く上の姉。

 「もっとあからさまに、主催の一式揃ってなかったの方が良かったのかも知れませんね」

 「それはそれで、侮られすぎるのだけれど、次からは、料理の質を少し落とす方向で考えた方がいいかしら」

食べ物は落とすと経済状況を疑われるから、上の姉もやりたくないだろう。

 「ああ、それなら、デザートに試作を混ぜたらどうでしょう」

 「デザートの、試作?」

 「はい。時折私の渡すレシピを試して貰うことがあるのですけど、大概微妙なのですよ。食べられなくはないけれど、美味しいとも思えないという絶妙なところをつくのです。妹に言われて、過去のレシピを再現した試作を作らせました、なら、妹にちょっと甘い家族と言う演出も可能かと」

なんでか歴史書から発掘されるレシピは、毎回微妙なのだ。レシピ通りに作ると。

そこから試行錯誤して、食べられるものになるのもあるけど、だいたいが、これ過去のお野菜味違ったんじゃない? 疑惑を残す。疑惑は、過去に戻れないし、農家さんも、さすがに最初の野菜の原型を知らないので、こんな味だったという憶測も出来ない。

いや、たまに野生種が残ってんのもあるんだよ。でもね。歴史の中で、野菜の名前ってたまに変わるんだよ。それを現在では追いきれないので、予測を立てて作ったりするんだけど、そうすると、なんだろう、微妙って言うものが出来上がるんだよね。

おそらく、味が変わったか、名前が一緒なだけで、違う野菜になっているかのどちらかなんだと思う。

 「それは良いわね。カティルはまだ社交に顔をほとんど出していないから、どう言う子供かも分かっていないし。妹が過去にあったレシピを作ってくれとおねだりしたので、試作を作って皆様に意見を聞きたいとか言えば、行けそうね」

うんうん。私が表に出だしても、歴史書好きなのは変わらないので、良いと思う。変なレシピを作ってって言うのも、歴史書からだしね。

手書きの歴史書は面白いよ。脱線するのが。

それはそれとして。

 「春めいたダンスパーティーって、どうすればいいのでしょうね?」

 「お金に上限を付けなければ、温室で育てている春の花をふんだんにと言う手もあるけれど」

それは癪だとアリシアお姉様も思っているようだ。

 「アリシアお姉様。女性は良く花にたとえられるのでしょう。お金は女性に使って頂きましょう」

 「ああ。ドレスコードを春の花にするのね」

 「いえいえ、そんなことではないです。春の妖精をモチーフにして頂くのです」

精霊は居るけど、妖精は居ない。が、伝説上では、妖精も出てくる。その妖精の姿というのが、まあ、なんというか、扇情的なのだ。

それを如何に今のドレスに合わせて、消化するのかって言うことになると、お金が掛かる。

 「ふふふふふ。それを大公閣下のお言葉として、招待状に折り込むのね」

 「そうです。そうです。大公閣下のお言葉ですもの。私たちに他意はございません」

 「うちの女どもは本当怒らせると怖いな」

ぼそりとなにやら言ってますけど、それもこれも下の兄のせいだってこと、忘れかけてますね。

 「エイダー。元を正せばあなたが不用意にパーティーを開くと安請け合いしたのが問題だというのを覚えておきなさい」

私が気付くんだから、上の姉が見逃すはずがない。

 「うちは、春めいた温かさにいたしますって言えば、会場を春にしたってことで面目が立つと思うんですけど」

 「カティルに任せて本当に良かったわ。エイダー一人にさせていたら、どんな惨事になったことか」

そうだね。下の兄だけだったら、趣旨は通ってないわって言う、とんでもダンスパーティーになったよね。

大公閣下にどんな嫌味言われるか分かったもんじゃない。

 「次からは、安請け合いせず、パーティーは苦手で、今までも姉たちに手伝って貰っていたと、正直に言いなさい。その上で、相談するので持ち帰ると言えば、あなたの評判が落ちるだけですみます」

まあ、下の兄の評判は、どうしたって下がるよね。今までのパーティー、下の兄じゃなくて、上の姉と下の姉の手腕だったんだから。いや母も居るのか。

まあ、とりあえず、広間を効率的に暖める方法を考えないとならない。

 「建築関係の歴史を漁ってみます。確か、寒がりな皇帝が、石造りの城をいかに効率よく温めるかと考えて実践していたはずなので」

 「後々も使えるから、費用が嵩むようならお父様にお話しするので、お願いね」

 「はい。あと、招待状を今日明日中に認めて出さないと、ご婦人方から突き上げられると思うので、よろしくお願いします」

私は早めに探し出さないと、工期があるから、お手紙作成には関われないのだ。文字はそれなりに書けるけど、やっぱり上の姉には負けるしね。いや、下の姉にも負けるな。上の兄とは競えると思う。負けるけど。

 「そうね。イグナスにも声を掛けて、ウィメルと文面を考えて出すわ」

 「では、私はこれから捜し物をしてまいります」

そそくさと私はその場を退散した。

だって、上の姉が下の兄にお小言言いたくて、たまらないって顔してるんだもん。そりゃ逃げるでしょ。

床暖房とか出来んのかなー。ちょっと、お湯温めて循環するパイプを床下に通せるのか聞いてみよう。

一応、寒がり皇帝の話も探すけど。石造りは確か、パネルヒーターみたいなのを石壁に貼り付けたかなんかだったような気がすんだよね。

そっから下を温めればあったかいかもっていって、床暖を勧めよう。パネルは確か、精霊石だったはずなので、景観悪いし金かかるし。絶対に勧めない。

だから、お風呂温かいし、温かいお湯なら、良いんじゃないかとか、そんな感じで、上手く誘導したい。

と言うか、なんで私、上の兄の時もそうだけど、下の兄に関してまで、物作りに手を出してんだろうな。

可笑しい。私、ただ、歴史書好きで済ますだけだったはずなのに。

いや、上も下も兄が考えなしだからいけないんだよ。通常二桁歳なりたてに、こんな仕事させないよ。

でも、家の評判落ちるのもいやだし。上の姉と下の姉には、幸せに婚活を終わらせて欲しいのだ。後々禍根を残さず。

あと、下手にやり過ぎると、一代男爵じゃ無くなるかもなので。

この匙加減、難しい。

いや、一代男爵なら、子供は貴族じゃ無くなるので、市井に下りやすいし、親は貴族だったけど、私はもう貴族じゃないしですむのだ。

だけど、男爵位固定しちゃうと、商売関係の足がかりになったりするので、市井に下るのも、下手な下り方出来なくなんだよ。

そんな苦労はしたくないので、速やかに、一代で終わってほしいと思う。個人的には。

なにより父は、母のために爵位取っただけなので、子供の代までは考えてないので、それほど酷いことは言ってない、はず。




 そんなわけで、招待状を突貫工事で出し終わった上三名は、下の兄を思い思いに制裁していた。

上の姉に小言を言われつつ、上の兄に文句を言われ、下の姉に関節を決められているという、何ともカオスな状況に、そっと目を逸らすことにした。

いや、喉が渇くだろう上の姉と兄に、水分の差し入れと、おなかが空くだろう下の姉と兄に、ちょっとした軽食の差し入れはした。

おかげで、半日、存分に言いたいだけやりたいだけやりきったようで、実に清々しい顔をしていた。下の兄以外。

そんな制裁行為が終わったら、今度は両親交えての会場作りのお話だ。

で、まあ、パネルを温めたらしい話で、やっぱり床に近い場所に一列だったと書き記しているのを見付け、床に近い部分を温めれば良いのであれば、温かい水を床下に配管して循環させれば良いのではって言う話に持って行った。

そしたら、なんか、床暖房って、結構昔っからあるらしくて。風呂釜みたいに焚いてるようなのとかね。

でも、大広間を全部とか、さすがに薪とか洒落にならないし、そのために床剥ぐだけならまだしも、温めるために石にしなきゃならないわけで。

まあ、工期とか考えると、私が言ったやつの方が現実的だったようだ。

試しに小さな小屋を作って実験し、成功した後、この距離の配管で、水がどれだけの速度で冷えるかのお話になり、そこにくるとまあ、さっぱりなので、お任せした。

仕組みはこんな感じなんじゃないとは言えても、その仕組みを作ることが出来ないのが私である。そう、全て提案だけで、なにもしてないんだよね。私。

だって、担架だって、棒の太さとか布の頑丈さとか考えて作んなきゃならないし。もしかしたら、既存じゃない布を開発って話になるかもしんないし。

口は出すけど金も手も出さないのが一番平和なんだよ。

そんなわけで、概念だけを父に告げ、突貫開発は完全お任せだったんだけど、実に立派な床暖房が出来上がったらしく、貴族の屋敷に売りつけてやろうと、父がほくそ笑んでいた。

床暖房を成功させ、ついでに、春の花のにおいっぽいアロマを作って会場中に香らせた。

ちなみに香水のこともあるので、これは通達済みだ。混ざって凄い匂いになったら目も当てられないしね。

緑の装飾で、森をイメージした会場を作り上げる。装飾で、森っぽくするのは、下の姉の知り合いである舞台関係の人たちが一肌脱いでくれたらしい。

こういうのは専門家に任せるのが一番だねと思える出来で、下の姉は鼻高々だし、父も満足げだった。

そして。

私一微妙なデザートを試作として出して貰うことに成功。

いや、パーティーデザートとして、見た目は優秀なんだよ。でも、見た目を裏切る味なんだよね。甘いと思ったらしょっぱいんだけど、まずいまでは行かないような微妙なラインで、実におすすめ。上の姉も一口食べて、微妙な顔したので、おそらく誰もがそんな顔になるだろう。




 当日、私は参加できないので、パーティーの招待客をこっそりと眺めた後、自室に戻って、寝室で一人先に寝た。

結果が分からないまま、翌日、朝食を食べに行けば、大変いい顔で上の姉が。

 「あの一口食べたときの皆様の顔と言ったら。見た目から想像しなかった味で、大変渋いお顔になっていましたよ」

と今にも高笑いが響きそうな雰囲気で、教えてくれた。

いやー。想像したとおりの反応で実に良かった。

大公閣下は、大変良いお考えでしたね。と、チクチクと嫌味を男性陣に言われたらしい。

ちなみにうちはと言えば、服飾関係もあるので、受注でウハウハだったとのことだ。大変ありがとうございました。

女性陣は、まあ、技術と趣向の粋を懲らせて、妖精っぽい、でも下品じゃない、けどきらびやかと言うドレスを大公閣下という免罪符で作れたため、大公閣下に、またこのような趣向のパーティーを考えて貰いたいですと、お礼を言っていた。

正に賛否両論。

しかし、目論見通り、女性の反感だけは買わなかった。実に良い結末だったと思う。

なにより、今までの下の兄が開いたパーティーは、上の姉の手腕だったとわかり、上の姉に、コーディネートを頼みたいと、帰り際こっそりと耳打ちする人がちらほらいたらしい。

そう言う意味でも、大成功だった。だって、結婚したら、パーティーの采配とかするのは、女主人だからね。上の姉の評判が上がった。結果、寿に繋がる可能性ありなのだ。

あと、地味に床暖房の契約も取れたらしい。お陰で、お小遣いが増えました。いや、さすがに大物だからね。最初に一パーセントをもぎ取りましたよ。

前回のはタダ働きだったしね。

ギャラが出ないなら、今後ネタは出さないって、父に直談判した甲斐があったよね。おそらく前回ので結構儲かったんだろう。

前回のタダ働きを不問にしたので、次回からは絶対金取るって心に決めていたんだよ。父の望むほどのネタは無いかも知れないけど、あったら良いなってのは、そこそこあるんだよね。

しかし、床暖房があっても、土足な生活圏なので、床に転がれないのが実に痛い。いや、自室だけ土足厳禁ルームシューズ着用区域にしようかな。そして、侍女達の目がなくなったら、床に転がるのだ。

まあ、一番の問題は、私の部屋に床暖房を入れて貰えるかなんだけども。





 その後、大公閣下は、ご婦人方に大絶賛を受けたお陰で、奥方に文句を言われたらしい。

いやねぇ。だって、大公閣下が言ってたよって、大公閣下の招待状には書かないからさ。

結果、大公閣下の夫人が一番地味だったようで、周りの奥方に、控えめでいらっしゃるのねって感じのマウント取られまくりだったとか。

上の姉なんて、ざまみろって影で笑っていたらしいけど、主催になった下の兄は、大公閣下の奥方に、後で呼び出し喰らった上で、文句ガンガン言われたらしい。閣下と一緒に。

しかし、パーティーの作法をよく分かっていない下の兄は、それのなにがいけなかったのか分からなかったらしく。

 「服装一つで、そんな目くじら立てるのかー」

と、妙な感心をしていた。

後日、結構がなり立てられていたと、下の兄付きの人からこっそりと聞いたので、下の兄も上の兄と違った方向で、凄まじい鈍感力を発揮しているようだ。

まあ、トラウマになっていないようでなによりだけど、結婚相手は、上の兄以上に難航しそうだなと思った。



 とりあえず、一件落着ってことで、今後のパーティーのために、レシピ探して書き出しとこ。

書いた人の名前付きでまとめて。レシピ本作ったら受けるかな。今度相談してみよう。

問題は、大概微妙なことだけど。

まあ、それもまた醍醐味の一つだよね。



次男は、あー怒られちゃったって感じで後引かない、のれんに腕押しな感じの人です。

ので、長女次女長男が、往々にして、痛みを伴った制裁を加えます。

嫌な思い出として、怒られたことを植え付けるために。

でも、たいして効いてない。

しかし、家族全員圧迫面接は、下手に怒られるより、来るとは思っている。

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