その2 下の姉と情熱と私
世の中意外と思いもよらぬ事が起こるようで、さすがにこれはないと、予測もしていなかったことが起ったりする。
予知なんて、凡人の身で出来るはずもないので、有り体に言って、この結果は必然ではあるのだけれど、釈然としないものだ。
とはいえ、予想しない結果となると、慌てふためくのも当たり前。転ばぬ先に着く杖も無く、それはもう盛大に転がるしかなかったのである。
まあ、そんなこんなで、姉に翻弄されつつ、異世界らしき世界で、私、転生三女やってます。
下の姉は、芸術をこよなく愛する人である。そして、その芸術のためとあらば、妹など、十把一絡げで売り渡す。
いや、本当にやると思うけど、今回はちょっと勝手が違う。
「ほぼ平民の男爵とは言え、雑用になるつもりは毛頭無いのですけど」
ぶつぶつと文句を言えば、「口ではなく手を動かしなさい」と、テーブルで優雅に茶を飲みつつ刺繍をしている下の姉が居た。
いや、ちょっと、私もか弱い部類の女なんですけれども。どうしてむさ苦しい男と一緒に、小道具作らなければならないんですか? 女にしては筋が良いとか言われても、欠片も嬉しくないですし、DIYは、平民になってもする気はないんですけど。
こんなもんふんわりとした下書き渡して、設計図引かせて作らせるもんですよ。
散々文句は言ってみたものの、だいたいが私が墓穴を掘ったんですけど。
あの上の姉との話の後、上の姉は下の姉と話し合いをしたらしい。そして、助言通りにしたところ、二人のパトスは噛み合っちゃったらしい。恐ろしいくらいに。
良いんですよ。パトスが噛み合ったって。二人で終わってるなら。
しかし、心優しい姉たちは、自分たちのために助言をしてくれた妹が、この偉業に携わらないなどあってはいけないと、どうでも良いところで意気投合もしたらしい。
しかし、私はまた幼い。
あ、そろそろ十一になりますが、上の姉は、十八、下の姉は十六、ついでに上の兄が十七、下の兄が十五で、私以外全て成人済みである。
そんな成人前の幼い私に出来ることは、雑用しかない。でも、形に残る物に携わらせたい。
と、まあ、そんな欠片もありがたくないことを思った二人の姉の画策の元、何故か、トンカチ持って小道具作りですよ。
子供って思うなら、いっそ、刺繍部隊に入れて欲しい。そして、一針だけ縫って離脱させて欲しい。
うん。まあ。なんとなく話の流れで分かってるかなっては思うんだけど、私、刺繍とか、壊滅的な腕で。
刺繍の先生は、刺繍を刺してぼろ雑巾を作る腕前には感服したと、匙を投げられた。
ちなみに母は、もっと前に諦めて、先生を呼んだ。そして、先生もお手上げだったため、刺繍に関しては、なにもかも諦めたらしい。
と言う、切ない過去を経ているので、姉たちは考えに考え抜き、小道具作りをさせようということになったらしい。
ならなくていい。本当。
別段ストレス発散もする必要が無いので、鈍器の必要性がないんですよ。だいたい、子供用のトンカチもないので、本当、鈍器って感じで重いんですけど。これ、翌日、右腕だけ筋肉痛になったりしない?
なにより、なんでトンカチ使う小物私にやらせようと思った。
「ウィメルお姉様。疲れました。鈍器は重いです」
「そう言う小物は、カティルの方が詳しいでしょう。手伝いながら修正しなさいな」
もの凄い無茶ぶり来た。修正させたいなら、何故トンカチ持たせた。
「柱とか、そう言う様式は分かりますけど。私の任されてる小物は、アリシアお姉様が詳しいですよ。私が分かるのは建物様式です」
それも内装より外観の方ね。歴史書で私が好んで覚えてるのは、どっちかって言うと、建物なんだよね。
いやだって、建物面白いよ。あんまりこの辺り、地揺れはないんだけど、山の噴火が過去あったらしくて。
それを踏まえて、その後の建物様式が、骨組み作るようになったとか。あと、石がズレないように接着剤がだいぶ考案されて良くなったとか。
そう言う時代考証は面白い。
まあ、噴火そのものは、この近くの話ではないので、噴火の被害はそれほどじゃなかったみたいだけど。
灰は降ったらしくて、作物が被害受けて、葉物野菜が高騰したらしい。麦は、王族が価格の急高騰とかがないようにコントロールしてるから、多少の災害ではびくともしないらしいよ。現在も。
でも、おっそろしいことに、王都の被害が多かったらしいんだよね。なんでかって言えば、お家が密集しているから。揺れで崩れて結構な家が倒壊したらしいんだけど、ようは、隣が倒れて、巻き添えで倒れたってのが多かったみたい。
石造りなのと夜中だったので、火事はさほどではなかったみたいなんだけど。ただ、就寝中に起こったので、そのぶん死人は多かったらしい。
過去の人がその時の情景を「平らになった」と書き記していたらしいけど。その言葉だけでも、その当時の惨事が窺えるよね。
「書き割りの家の様式が違う、なら指摘出来ますけど、内装の様式は、美術関係になるので、詳しくはないです。建物は、大きな事件があると、様式が変わったりするので、時代に合わせて指摘は出来ますよ。今更書き直す気力があるのでしたら」
なので、建築様式は分かる。ちなみに震災もそうだけど、戦争でも建物は変わったりする。
一番変わるのは、外壁だけどね。武器とか攻城兵器の開発とかで。
なので、実は、この書き割りの建物、この時代のものではないんだよね。スパイが入り込めてた時代なので、外壁の防御がまだ甘く、今みたいに、数メートル毎に物見台をこしらえて、詰め所が点在してないので、壁登り放題だった感じ。本当はどうだったかわかんないけどね。
「意外に使えないのね」
「歴史などそんなものですよ。今回の題材の話も、歴史書からですよね。長い歴史の一部分だけ抜粋など、著者の興味が無ければ、一行も書かれないですから」
この著者は男女のもつれから、歴史が動いた的な話が大好きっぽくて、女帝が立ったときの話しとか、掘り下げてんだよね。
ちなみに女帝は、旦那が皇帝だったんだけど、盆暗すぎて、侍女に手を出して死んだらしいんだよね。いや、暗殺じゃなくてね。女好きで、侍女を手込めにしようと連れ込んで、抵抗されて死んだらしい。事故で。
で、女帝、盆暗のお陰で甘い汁を吸ってた人間を、盆暗が暗殺されたってことにして、罪を擦り付けての大粛正。子供が大きくなったらあっさり帝位を譲ったんだけど、子供もそれなりに盆暗で、孫の代で攻め込まれてあっけなく陥落して、皇族の歴史は幕を閉じたらしい。
血筋じゃない女帝が治めていたときが、一番華やかだったという皮肉。
まあ、親の背を見て子は育つって考えれば、女帝だけじゃなくて、盆暗皇帝の背も見ていたわけだから、二分の一で盆暗まっしぐらだよね。とは思った。
ちなみに、演目は、女帝の話ではなく、現在続いてる王国の五代前に存在した、辺境伯の隣国の少女とのラブロマンスである。ちなみに現在は国境線が変わり、辺境では無くなっている。
本当は、隣国のスパイのラブトラップに盛大に引っかかったが、辺境伯がおっそろしい程の粘着で、スパイ活動を妨害。逆にスパイの女性に接触した人間を片っ端からアレして、結果的に辺境の地を守ったという話なんだけど。
その辺りは、スパイとして潜入したけど、本当に愛しちゃったので、隣国と愛の狭間で揺れ動く乙女心、みたいな演出になるらしい。
言葉をちょっと変えると、美談になるのって凄いね。
過去の話だから、確かだろうってのは、女性がスパイだったことと、辺境伯が、追加をアレしていったことだけなんだけど。
スパイが確定してるのは、隣国にこのときの資料が残ってたらしくて。いや、結構いっぱいアレされたらしくて、恨みのこもった手記がね、発見されたんだって。
まあ、その辺の話は、舞台には出て来ないんだろうけど。
「ウィメルお姉様。これでお手伝いの義理は果たしたかと」
一応ね。お付き合いはしたって程度の成果は残したよ。出来上がっちゃないけどね。
と言うか、なんでトンカチ持たせたのかが、激しく疑問ですよ。小物だったら布張りとか、色々とあると思うんですけど。何故大工道具。
「もう少し……」
やれと続きそうな言葉は、私の冷ややかな目に気付いて、喉の奥で留まったらしい。
「ウィメルお姉様。妹ならどんな無体を強いても良いと思ってるなら、今後付き合いませんから」
別に上の姉にそんなに無体を働かれたとは思わないんだけど、まあ、人の感じ方は、人それぞれだからな。
興味ない話に延々付き合わされるのが下の姉には苦痛だったという可能性はあるし。そこに関しては、何かを言う気はない。
「アリシアお姉様には付き合うのに」
「アリシアお姉様のお話は、貴族として最低限の知識で必要な部分なので聞いています。ウィメルお姉様のものは、全く必要ないので、強い言い方をすれば切り捨てて問題ありませんから」
上の姉の宝飾類や服飾類は、貴族をやっていくのであれば、必要最低限押さえとかなきゃならない部分なんですよね。季節ごとの推奨の色とか、形とか。その際の宝飾品選びとか。
意外に衣装はルールが多い。でも、そのルールを最低限押さえていれば、逆になにを着ても良いって事ではあるんだよ。そう考えると、その際を攻めてみたい気持ちになるのは仕方ないいと思うよね。
よって、たまのガーデンパーティーとか、周りの服装を見ながら、ここまで間引けるのでは、というのを想像して時間を潰している。
で、下の姉の大好き芸術系は、私の大好き歴史書と同類で、人生の色を添えるのに必要だが、生活には、必要ない部分だ。話の話題としては、チョイスされるけど、それは他でも代用できる。
だから、自分の好きなものを考えると、多少は付き合っても良いと思ってるけど、こう言うことされるなら、二度と付き合わないかなと思う程度には、今回はちょっと腹に据えかねている。
「アリシアお姉様に付き合うなら、私にも付き合ってくれて良いじゃない」
「それなら、ウィメルお姉様は、私の歴史書のお話に、これから毎日付き合ってくださるってことですね」
「え?」
「そう言うお話ですよね。一方的に付き合うなんて、そんなこと言わないでしょう。ウィメルお姉様。アリシアお姉様も、長すぎるとお付き合いして貰ってますし」
家の血筋なのか。皆自分の好きなものに熱中しすぎるきらいがある。
熱中するのが一人なら良いんだけど、姉たちは、どうにも私を巻き込みたいらしく、こうやって付き合わされるんだけど、私、趣味は歴史書なので。いや、本当の趣味は娯楽小説なだけど。そろそろ人材発掘出来てないかな。切実に。
まあさておき。
上の姉だって、宝飾品や服飾品の話が、己の好みの押しつけになると、一段落ついたところで、「次は私に付き合ってくれるんですよね」と、にこやかに私の部屋に連行して、歴史書を手渡し、該当ページを確認しつつ、今この時代のこういう所を読んでるんだけど、この将軍の城攻めが面白くってと言う話を小一時間ほどすることにしている。
いや、上の姉は、本当に戦略とか好きじゃないんだよ。五分で死にそうな顔をし始める。ので、一時間と決めている。さすがにあんな死んだ目してる人に、三時間講義はね。私は、三時間くらいお茶飲みながら付き合わされるけど、そのくらいは譲歩している。
あわよくば、興味は持って欲しいとは思っているので、嫌いにはならない程度の意趣返しに留めてるんだよ。
でも、好きそうな話題は決して振らない。いや、歴史書ですからね。美術大系の話とかもあるんですよ。でも、好きでもない話しに付き合ったんだから、上の姉も好きでもない話しに付き合うべきだと思うんだよね。
まあ、好きそうな話を振っていれば、もしかしたら、今頃、上の姉も少し歴史書に興味を持ったのではと思わなくもないけど。
今言ったところで後の祭りってやつなので、今後も、軍事関係のお話で攻めていこうと思っている。意趣返しではあるので。矛盾してるけど。
「もうっ。金槌を持たせたのは、ちょっとしたお遊びだったの。まさかカティルが気にせずやると思わなかったから」
やり始めた私が悪いわけではないだろうが、下の姉としては、私が可愛く癇癪起こしたところで、冗談よって別の仕事を渡す気だったと。
ちょっと自分自身で、その可愛く癇癪起こす姿が思い浮かばないんだけど。いや、正直に言えば、やらない。
「なら、先に種明かしすれば良かったのでは?」
破綻したドッキリは、もうドッキリではない。そしてこれは、強制労働だと思う。
「だって、悔しかったんだもの」
いったい下の姉は、なにと戦ってるんだろう。もう、どっから突っ込んだら良いんだか分からない。
私は、呆れた方が良いのか。それとも、足音も高らかに、帰るって言うべきなのか。もしくは、歴史書の会を発足して、下の姉を強制入会と同時に、三時間コースにご案内すべきなのか。
三時間コースなら、まあ、多少芸術関係突っ込んでも良いけど。
けど、そんな下の姉の言い分を聞く必要は無いので、まるっと無視をする。
「では、これでお暇しますね」
義理も果たしたしね。下の姉は、上の姉と違って、加減を間違うんだよね。まあ、上の姉は、下の姉で練習したってのもあるのかも知れないけど。
そう言う意味では、下の姉は被害者なんだけど、だからと言って、自分の被害を甘んじて受けるつもりはない。
下の姉は、私で加減を覚えて欲しいところだ。なので、私は盛大に下の姉を批難しておくことにする。
「カティル」
「なんでしょう?」
冷ややかな視線を向けると、下の姉は、拗ねた顔をする。私より年上なんですから、もう少しこう。いや、私が少々達観しすぎてるのか。
「もう、私が悪かったわよ。だから一緒に帰りましょう。もう少し待ってちょうだい」
拗ねた顔のまま、謝罪とも言えない謝罪をして、少し甘えるように窺うような視線をくれる。
男だったら、可愛いって思うのかななんて思いつつ、素直じゃない下の姉にとっては、精一杯の謝罪だ。もう少しきちんと謝ることを覚えて欲しいところだけど、下の姉の育成は頑張ってないので、放置する。
きっとこれが可愛いって思ってくれる殿方が現れるはずだ。
まあ、可愛いと思わなくはないし。個人的にはあざといって思っちゃうけど、これ、別に計算してやってるわけじゃないからな。
これがまあ、意外と天然物なんですよ。なので、これが可愛いって思ってくれる人じゃないと、付き合いきれないと思うんだよね。
計算高くやってる方が、相手は見付けられそうな気がするんだけど。姉二人とも、年上相手の方がいいのか。いや年齢じゃないな。包容力だな。誰か、海より深く広い心で、和やかに姉の相手をしてくれる人は居ないものか。
「カティル」
返事をしない私に焦れた姉が、目に涙を溜めてこちらを見ていた。
振り回すわりに打たれ弱いのはなんとかして貰いたい。そして、周りの気配が、私に対して、剣呑なんですけど。
「馬車で待ってます」
アウェイなんだよね。ここ。下の姉が気さくに付き合っちゃってるもんだから、貴族だっての忘れてんだろうな。しかも私が年下だっていうのと、下の姉に対して敬意を払った態度を取ってないというか、同一の仲間って思っているから、私にも簡単に敵意を向ける。
まあ、この場でだけの態度なら良いけど、おそらく誰に対してもアレやるよね。
下の姉は、劇団員を甘やかしすぎたんだな。あれでは、大きな劇場で貴族相手は無理だろう。
うち、父が色々と事業をやっている関係で、上の姉と下の姉は、意外と高位貴族とも付き合いがあり、そこそこ可愛がられていたりするのだ。
それをあの人達が見たら、下の姉に接するように対応するはずだ。良くて、劇団が潰され、悪ければ、全員何かしらの罪に問われて上と下がさよならするかも知れない。
礼儀作法って、自分を守るために必要なんだよね。庶民って思われているから、言葉遣いは不問にされるだろうし、態度もちゃんと敬おうって思っていれば、さほど目くじら立てられないけど、あの態度は駄目だよね。庶民の友達じゃないんだから。
まあ、そんなの注意してあげないけど。
もし、運良く大きな劇場で公演を打てたとしても、一回で終わるか、作家を引き抜かれるか、だろう。大きな劇場で公演できるくらい人が来たなら、作家の腕が良かったってことだろうしね。
このまま三流とも二流ともつかない中堅で行くなら問題ないけど。
ああ、でも上の姉が関わってるのか。上の姉にはそれとなく言っておこう。上の姉の前ではもしかしたら、猫被ってたかも知れないし。下の姉より上の姉は威圧が高いから。
上の姉は、礼儀作法は、そこそこ上流の作法を身につけてるからね。上位貴族のお姉様に気に入られて、ちょっと連れ出すのに、礼儀作法で躓くのはいやだって、三ヶ月くらい教師を派遣してくれたんだよね。
金の使いどころとしてどうなのかとは思ったけど。いや、とばっちりで、私も一緒にレッスン受けることになったんで。
ええ、齢五歳の頃の話ですよ。
子供ながらに、礼儀作法の先生に聞いたよ。本当に五歳でこんな礼儀作法習うのかって。視線逸らされたのが全てを物語っていたよね。
下地のある人間の底上げレッスンにどうして五歳児混ぜたんだろうね。そして、教師もなんで了承したんだろうね。
いや、お陰で下位貴族の礼儀作法を習うってなったときに、楽でしたけどね。だって、とっちゃいけない態度をむしろとっても怒られないし。あと、細かい決まりの幾つかが省かれるんだよ。下流の礼儀作法って。
お辞儀とか、下流だと、そんな深くお辞儀しないんだよね。要はちょっと足引いて、頭を下げる感じ。上流は、足を引いて腰を落とした姿勢でピシッと決めなきゃいけない。そう、頭は下げるけど、いわゆるお辞儀みたいに下げないで、視線を下に向ける感じにするけど、頭の位置は下げなきゃいけないので腰を落とすんだよ。上流は。
むっちゃ辛い。背中吊るかと思ったくらい辛い。
しかも、折角習ったの忘れたら勿体ないよねってことで、週一くらいで上の姉と復習するという地獄が待っている。たまに教師も来てくれるので、地獄が悪化する。
そんなことをつらつらと考えながら、馬車に戻ると、ほっと息を吐いた。
さすがにこういう所なので、護衛と侍女が待機しているから、馬車で待つのは問題ないのだ。
「ウィメルお姉様はもう少し後で来るから」
そう告げて、馬車に乗り込むと、淑女は休業して、ぐでっと延びる。
「疲れた。心底疲れた」
作業もだが、人間に疲れる。執事とか、侍女とかは、私の様子を見ながら相手してくれるから、大人でも楽なんだよね。気遣いって大事。
でも、庶民は、もう私くらいの年齢だと働いてるからね。こき使って当然というか。
いやもう腹立たしいだけなので思い出すのは止めよう。そして、二度と裏には回らない。
公演くらいは観に行くけど。それ以上は、関わらない方が双方のためだよね。
「もうっ。なんで先に行ってしまうのよ」
「ウィメルお姉様。彼らの態度を見て、なにも思わないのですか?」
おう。黙っておこうと思ったけど、疲れたのとイラッとしたので、つい、要らんことを。
「ちょっと気安いな。とは思うけど」
思ってたのかっ。突っ込め。きちんと調教しないと。いや、待って。あの態度で登り詰めようとか思ってないよね。え、思ってたりする?
「ウィメルお姉様は、あの劇団をどうしたいのですか?」
「そりゃあ、いずれは王都の大劇場で」
「私と劇団員の交流をアリシアお姉様にお話ししてください。私からは以上です」
思わず言葉をぶった切ったよ。だってもうそれ、妄言だよ。現実味が欠片もない。現実になるわけがないというか、なったら死ぬよ。
「もうもうっ。カティルは可愛くない」
なにやらお怒りのようですが、私、意外と親切ですよ。ここまで親切にするつもりはなかったんだけど。
その後、私に言われたとおり、私に対する態度を素直に上の姉に話したようだ。変なところで大変素直なんだよね。下の姉。
結果、死ぬほど怒られた上に、上の姉は劇団に乗り込んで、教育的指導を行ったらしい。
上の姉の心底からのお怒りに気が付かなかった劇団員は、なにやら態度が悪すぎたらしく、怒れる上の姉を更に怒らせた。
大激怒の上の姉は、コネを使いまくって大劇場の支配人に約束を取り付け、支配人から礼儀作法の駄目さを突き付けてもらい、さらにはそれによってどうなるかを心の底に焼き付けるまで、徹底的にやったらしい。
本来だったら、私に対する態度とか、下の姉に対する態度で、多少のお咎めがあっても良いんだけど、優しい上の姉は、この厳重注意で済ませてあげたようだ。
あと、下の姉の支援金は、半分以下になった。父と母にもこの話をして、下の姉に割り当てられている資金が激減したからだ。
ついでに下の姉も、舐められてるのに気が付けと、教育的指導と供に、今まで私と上の姉だけだった礼儀作法の復習に、強制参加と相成った。
いや、下の姉はあの頃盛大な反抗期で、上の姉や私と比べられることを嫌悪して、逃げ回ってたんだよね。父も母も、上級作法なんて、習ってたら何かと便利だけど、知らなくても問題ないので放置してた。
しかし、このたび、下の姉は、盛大な夢を語ってしまった。いずれ支援している劇団を大劇場までいけるようにしたいと。
そんな大きな夢を持っているのであれば、あなたが規範とならねばならないでしょうと、それはそれは寒々しいほどの笑みを浮かべた上の姉。
さらには、私が五歳の頃に受けて、出来てしまっているものだから、逃げ場のないことと言ったら。
今、正に泣きながら、上流マナーを学んでいる下の姉。身に付けばいいねと、私はそっと視線を逸らした。
まあ、脱線したけれど、公演そのものは、成功して、そこそこ長く公演を打てたらしい。そして、ちょっとランクの上の劇場でも打てたらしい。
上の姉のスパルタがきいたらしく、劇場からの評判は悪くなかったようだ。
上の姉様様である。
とりあえず、どこでも受けるのは愛憎劇ってのは分かったので、次はまた、愛憎編再編するかな。
下のお姉ちゃんを如何に嫌味少なくダメな人にするかで、本当書き直して書き直して、やっとここまで薄まりました。
姉妹仲を断絶する気はなかったので、本当に、カティルの言動も下の姉の言動も軌道修正かけまくって、それでもこれです。