愛の告白を振ったが、それを利用して色々させてる美少女がいつの間にか本当に惚れてしまっていた話
「み、三月さん、ずっと前から好きでした! 僕とお付き合いをしてくださいッ!!」
腰は直角90度曲げ、右手をピシッと前に差し出す。
人気のない校舎裏。僕はここで、同学年のとある女の子に告白をしているのだ。
僕の目の前にいる女の子――三月葵音さんだ。
艶がある綺麗な黒髪で、猫耳のように左右に跳ねている髪がチャーミングだ。目は蒼玉のように美しい青で、クリクリとしている。
新雪のように綺麗な肌と、笑った時に見える八重歯も素敵だ。
そんな彼女は中高一緒で、そのどちらでも莫大な人気を得ているのだ。現に今の高校では『学園二大美少女』と謳われている。
その一人である三月さんは、ボーイッシュで天真爛漫、けれど可愛い顔というのが人気の理由らしい。
そんな三月さんに告白したが結果は――
「んー、無理」
三月さんは息を吐くように、たった二文字で断られてしまった。それもそうだと理解していた自分もいる。
なぜなら、三月さんは中学校の頃からモテていて、告白されている回数は数え切れないほど。
対して僕――霧下悠介は、特に目立たず教室の隅でラノベを読んでいる陰キャだ。しかも、告白しようと決めたのは中学一年生の時で、ようやく腹をくくったのが数年経った今だ。
陰キャでチキンで、まるでいいことがない男だし仕方ないことだ。
「そ、そうだよね……。ご、ごめん、僕はこれで……」
「……待てよ? お前は確か色々と……」
三月さんが何やらブツブツと呟きだしていたけれど、『ワンチャン告白したら三月さんと付き合えるのでは?』という浅はかな思考をした己に恥じており、一刻も早く立ち去るべく小走りでこの場を後にしようとする。
まだ茹だるような夏は来ていないというのに、僕の顔は真っ赤だ。
「ちょっと待て!」
「ひゃいっ!?」
後ろ聞こえた三月の声で僕の動きは止まる。
ギギギと音を鳴らしながら踵を返し、三月さんの方に顔を向けた。
「なぁ霧下、これ何かわかる?」
「それはスマホですね……ってまさか……!」
スマホ片手に、八重歯を見せてくる三月さん。まさかそれでさっきのを……。
「さ、さっきのを録音した……とか、でしたりしませんよね……?」
「大正解〜♪」
「そ、そんな……」
「ちょっと手伝って欲しいことあるからついてこいや〜」
まさか告白をしたらそれを利用されて脅されるとは思ってもいなかった……。
ビクビクと怯えながらも三月さんの背中を追いながら歩くこと数分、目的地に到着したみたいだ。
そこは普通の一軒家より少し大きいぐらいの豪邸だった。
「ここは?」
「あたしの家。おら、さっさと入れ」
「あ、はい」
急かされたので、僕はその中に入る。
内装はというと――
「ひ、酷いですね……」
床に散乱する本やしわしわな服、乱雑に積まれている教科書。お世辞にも綺麗なんて言えない部屋だった。
「これを掃除してもらいたいんだ」
「家族とかは今いらっしゃらない感じなんですか?」
「ああ、パ……父さんはいつもら海外出張していないけど、今母さんも国内の出張中だからあたしが全部家事しなきゃいけねぇんだ。
なんとかなると思ってたが、無理だった」
「成る程……」
勉強以外だったらなんでもできるイメージがあったけど、掃除も苦手だったんだなぁ。
「んじゃ後はよろしく。あたしソファで寝るわ」
「えぇっ!? 一緒に掃除するんじゃないんですか!?」
「いやぁ……あたしがやると多分どっかの壁壊れるから」
「壁を違う意味で掃除しようとしてるんですか!? それに、僕だって一応男の子ですよ? 寝ないで手伝ってくださいよ」
もうソファに移動してぐでぇっと転がる三月さん。
「あたしの特技の中に、一目見ただけでそいつがどんなやつかわかるってのがあるんだ。それでお前は、チキンでヘタレで童貞と見た。だからお前をここに呼んで手伝わせようとしたんだよ」
「ひどい信頼のされ方……」
「んじゃおやすみん。後はヨロ」
そして数秒が経つと、すぐに寝息が聞こえてきた。
……ああ、そうですよ。僕はヘタレなチキンでこんなに無防備に寝てても手は出しませんよ!
全く……。
「毛布毛布……」
近くにあった埃が付いていない綺麗な毛布を三月さんにかけた。
「さて……まあ脅されてるんだから仕方ない。やるか」
ポケットからヘアピンを取り出し、少し目にかかっている前髪を止め、腕をまくって掃除を始めた。
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「ふぅー……。大体こんなものかな」
二時間ぐらい経った。
汚部屋はすっかり綺麗のなったが、等価交換として僕の体力が根こそぎとられた。
――グーーギュルルルル……
「ん?」
疲れはしたけれど別にお腹は空いていない。ということは今のは……三月さんの?
「み、三月さん?」
「はら、へった……」
三月さんに声をかけると、目を閉じながらそう伝えてきた。
「え、えーっと……。何か作りましょうか?」
「ん……」
「冷蔵庫の中身とかは使ってもよろしいでしょうか?」
「ん、よろすぃ……すー……」
浅い眠りから再び深い眠りへと誘われてしまったようだ。
僕は掃除したてほやほやのキッチンに移動し、冷蔵庫の中身を確認する。
「一応食材はある……。買って満足する人なのかな……」
三月さんに対して考察をしてみたりしながは、僕は料理を進めた。
そして数十分後、もう日が沈んで外が暗い頃。料理が出来上がるとちょうど三月さんがむくりと起き上がった。
「んぁー……?」
「あ、おはようございます三月さん。ご飯もうできましたよ」
「…………まま?」
「ママじゃないです、霧下です」
「あーそっか…………んんっ!?!?」
まだ寝ぼけているみたいだったが、周囲を確認したと同時に目を見開いて驚いていた。
「なっ、えっ!? ここ本当にあたしの家!?」
「そ、そうですけど……」
「すげぇー! 霧下めっちゃ掃除ウメェじゃん!! しかも料理まで作ってくれてんのか!?」
僕がいる机の所まで駆け寄り、目をキラキラと輝かせる三月さん。
「なんであたしがお腹空いてんのわかったの!? サイコーかよ〜!!」
「え? それは三月さんが――」
「まあいいや! 早く食おーぜ!!」
「え? あ、はい」
手を洗い、早速料理を食べる。
「うんまぁ〜! 霧下、これまじウメェ!!」
「あはは、ありがとうございます」
無人島生活から救出された後初めてまともな食事を食べた人みたいにガツガツと僕の料理を食べていた。
こんなに美味しそうに食べてくれるのは、嬉しくないわけがない。
「まじうめ〜。これだったら一週間連続食えるわ〜」
「流石に飽きちゃいますよ。残った分は明日の朝にでも回したらどうですか?」
「そうする! ……あ、そうだ、後もう一つお願いがあるんだが……」
「な、なんでしょうか……」
まさか今度こそやばいお願いだったりして……
「明日の朝……あたしを起こしに来てくんないか?」
「…………え?」
やばいお願いではなく、可愛いお願いだった。
「お、起きれないんですか……?」
「ああ、今まではなんとかアラーム10台くらい置いて起きてたけど、そろそろ耐性がついてきちまったんだよ」
「適応能力半端ないですね。……まあ、それぐらいだったら全然構いませんよ」
「やったー!」
……なんだか、いつも学校で見ている三月さんとは違った感じがする。
学校ではみんなをまとめ上げて天真爛漫な感じだけれど、今では子供みたいに無邪気にはしゃいでる感じだ。
「……あ、そろそろ僕も帰りますね」
「あ、そうだな。お前んちの家族も心配してんじゃねぇか?」
「僕の両親は小さい頃に他界してて、親戚の許可を得て一人暮らししてるので大丈夫ですよ」
「あ……そ、そうか。なんか、悪いな」
三月さんって優しい。けれどわざわざ脅しをしてまで掃除をさせたのは、多分お願いの仕方とかがわからなかったからなのかな、と、自分の中で思った。
「久々に誰かと一緒にご飯を食べれて嬉しかったです、それじゃあ僕はこれで」
「おう! 明日もよろしく頼むぜ!!」
「はい! …………え?」
なんだって??
「あ、明日も僕が作るんですか!?」
「あたりめぇだろ! こんなうまい飯食った次の日からレンチン食品なんか食えねぇだろ!」
「は、はぁ……」
「しかも、一人で飯食ってたら、美味い飯も不味いだろ。一緒に食おーぜ」
「! は、はい!!」
はぁぁ……。三月さんに振られたのに、どんどん好きになってしまう。
「あ、で、でもスマホの録音の方は消していただきたいんですけど……」
「スマホの録音? ……あ〜! いやっ、あれはまだ使える! 今週の土曜日に買い物一緒に行くときに利用させてもらう!」
「買い物に行くんですか?」
「ああ、オマエ、荷物持ち」
「大体予想はついてました」
まだ僕は利用され続けられるのか……。
別に僕はMな方ではない。けれど、三月さんの役に立てるのならば嬉しい。いや、振られてるんだけどね!?
「んじゃ明日な〜!」
「はい……」
満面の笑みでお見送りをする三月さんに対し、僕はげんなりとした様子で家に帰るのであった。
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――ピーンポーン
小鳥の囀りが聞こえ、ほんのり肌寒い朝。
「三月さーん、いつも通り来ましたよー!」
そう、僕はいつも通り三月さんの家にやって来て、モーニングコールをしている。
告白してから数十日か経った頃だが、僕は三月さんとの謎の関係を継続させているのだ。
その間、ショッピングモールに行ったり、勉強を教えたりと、色々三月さんに尽くしているが、付き合ってはいないのだ。
悲しいことに。
『ぉはよー……。はいってきて、ごはん……』
インターホン越しから、少し低めの三月さんの声が聞こえて来た。
言われた通り家に入り、床で眠り始めようとしている三月さんを椅子に座らせ、ご飯を食べさせる。
「んん〜♡ やっぱ霧下の飯はうめ〜な〜」
「ご飯零してますよ。ほらちゃんと食べて」
「あーい」
なんというか……母親になった気分だ。
ゆったりと朝ごはんを食べ終えたら、外で三月さんが来るのを待って学校に登校をする。
他の生徒からも見られることがあるが、もうみんな容認している感じだ。『振られた』という事実がわかっているからかな……。
数分かけて学校まで向かい、下駄箱で靴を変えようとしたのだが――
「ん? なにこれ……」
中に何か入っていたのだ。
「なんだなんだ? 死んだネズミでも入ってたか?」
「それが入ってたら発狂してますよ。紙……いや、手紙ですかね? ……え、まさか……」
手紙だった。
封を開け、中を確認するとこんなことが書かれてあった。
『霧下悠介くんへ。今日の放課後、話があるので校舎裏に来てください。お願いします』
「…………」
「ずいぶん古典的だなぁ」
三月さんは呑気なことを言っている。
気にしていないっぽい。
「ま、とりま教室いこーぜ」
「み、三月さん! それ……靴のままですけど」
「…………ちょっとドジした」
手紙は取り敢えずポケットにしまい、教室に向かった。
どことなくソワソワとしてしまう僕に対し、この前席替えで奇跡的に隣の席になった三月さんはいつも通りだった。
授業が始まると、隣から困っているような声が聞こえて来る。
「あ、あれ……?」
「どうしたんですか?」
「しゃ、シャーペンの芯がでない……」
手元を見るが、僕は思わずギョッとする。
「それ……箸ですよ」
「えっ?」
握っているのはシャーペンではなく、箸だった。
「しかもその教科書、逆さになってますよ??」
「あ……ぁぁ……」
さっきから三月さんの様子がおかしいぞ?
僕が手紙をもらったから動揺している? ……いや、でも三月さんさ別に僕のこと好きでもないし、単純にドジしてるだけなんだろうな。
その後もミスを多々連発する三月さんだったが、時間は過ぎて行った。
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……さっきからあたしの調子がおかしい。
なんか胸がもやもやして、焦り? があるような気がして、色々なミスをしてしまう。
あたしのIQ10000(自称)の頭脳で考えた結果、霧下が手紙を受け取った時からこのもやもやはあると確信した。
「いや、でもこれは……ゔーん……」
キーンコーンカーンコーン
悩みに悩んでいたらあっという間に授業が終わった。四時間目の授業だったので、もう昼放課だ。
「三月さん、今日の昼はどうするんですか?」
霧下が隣から話しかけて来る。
「あー……きょ、今日はちょっと友達と食う予定あるからすまん!」
「わかりました」
学食まで歩き、とある人が座っている場所まで移動する。そいつは、茶髪を鎖骨あたりまで伸ばし、気怠げな目をしている女だった。
「ん、どしたの葵音ちゃん、私をここに呼び出して」
こいつは高校でできた友達の八乙女香織。アニメ好きでめんどくさがり屋な女だ。
「葵音ちゃん、立ってるのもなんだからここ座んなよ。お茶でも飲んで……話でもしようや」
「? おう」
「このアニメネタは通じなかったか……。それで、何故私をここに?」
机を隔てて座り、話を進めることにした。
「実は今日さぁ……なんか変なんだよ、モヤモヤするーってか、ズキズキするーみたいな」
「なんじゃそりゃ。……あ、あ〜はいはい、完全に把握した」
「まじっ!?」
「ズバリかの霧下くんが関与してくるな」
「きり、もと……はっ!? アイツが!? んなわけねぇだろうがーーッ!!」
なぜか顔に熱が集まる感覚がした。
「にしても霧下くんは優しいねぇ。本当は録音されてない告白のことも知らないけどせっせと葵音ちゃんのために働いて。……葵音ちゃん知ってる?」
「な、何をだ……」
「霧下くんって、普段は下向いて本読んでるから顔見えないけど、葵音ちゃんと一緒に行動するようになってから少しアグレシッブに動くようになったりしたじゃん?」
「それがなんだよ」
「実は隠れイケメンということに気がついた他の女子生徒たちが、霧下くん狙ってるらしいよー」
「んなっ!?」
ま、また胸のあたりがズキズキする……。
いや、でもこれは……
「自分でももうわかってるんでしょ、葵音ちゃん」
「は、は〜!? わかんないねぇ! 何がなんだかさっぱりだ……。と、とりあえず話聞いてくれてありがとな! あたしはもう行くわ!」
席を立ち、そそくさとこの場を立ち去ろうとする。
「葵音ちゃん。『その気持ち』を受け止めたときのために助言としてこう言っとく。『もっかい告白させろ』」
なんやかんやで香織の言葉にも耳を傾けていたが、早足でその場を立ち去った。
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――放課後。
あたしはずーーっとモヤモヤな気持ちを抱えながら授業を過ごしていた。
「じゃ、じゃあ僕はちょっと話つけて来ますね」
「…………おう。先帰るわ」
「わかりました」
チッ。デレデレしやがって、バカ下。
……いや待て待て! なんであたしがこんなこと思わなきゃいけないんだ! 全然、気にしてねーし!
「……いやいや、違う違う……。さっさと帰ろ」
…………いや、でもちょっと覗いてくか。こ、これはあれだ、どーせ暇だから時間潰しとしてだ。
誰かに言い訳をぶつぶつと心の中でつぶやきながら、校舎裏まで向かった。
曲がり角から覗くと、名前の知らない別のクラスの女と、霧下が話している様子だった。
(決してあたしは怪しい者ではねぇ……。これはアイツを監視するためだ。……あれ、それって怪しいことじゃね?)
たらーっと汗がこめかみから一滴垂れる。
ぶんぶんと顔を横に振って余計な考え事を振り払い、耳を傾け、じーっと視線を向けた。
「あ、あの! ずっと前から霧下くんのことが好きでした! 付き合ってください!!」
――ズキッ
胸が苦しくなった。
この前、霧下があたしに言ったセリフが、そのまま霧下に返っていたんだ。
どうしようもなく……嫌〜な気持ちだった。
心臓の鼓動が激しくなり、汗が止まらなくなる。どうしょうもない焦りがあたしから込み上げてくる。
もしここで霧下が『はい』って言ったらどうしよう。
もしあたしから離れて行ったらどうしよう。
そこで気づかされた。
あたしとアイツは、いつ切れてもおかしい脆い糸の関係だったんだなって。
「っ……」
両手をギュッ力を込め、痛みで紛らわす。ジワリと視界が歪み始める。
もうこの場から立ち去ろうとした時、霧下の声が響いて来た。
「――ごめんなさい、それはできないです」
(!?)
驚いたあたしは、再び定位置に戻って角から覗く。
「そう、なんだ……。やっぱり……あの三月さんが好きだから? でも霧下くんは付き合ってないんでしょ? 利用されてて、容姿がいいあの子を選ぶんだ……!」
霧下に告白した女が、子を震わせながら怒り混じりの声で言葉を並べる。
「…………選んでないよ。僕が選びたくても、三月さんは選んでくれなかったから」
「じゃあいいじゃん! 付き合ってないなら私と付き合ってよ! なんでダメなの!?」
「僕が今付き合っても多分、君と幸せを共有できないと思ったから……。
僕は三月さんに惚れてた、今も惚れてる。この気持ちにけじめをつけなきゃ、誰かと付き合って幸せを共有することなんかできないと思う。だから……ごめんなさい」
申し訳なさそうに言葉を吐いた。
「そっ、かぁ……。は〜〜。ここまではっきり断られたら、なんだか逆に清々するね。霧下くんは、本当にみつきさんのことが好きなんだね」
「好きじゃないよ」
爽やかな笑みを浮かべながら、こう言い放った。
「――大好きなんだ」
あたしは、この場から足早に立ち去った。ブツブツと呟きながら校門に向かって歩いている。
「は? なんだし……まじでムカつく。霧下コノヤロー……こんちきしょー……」
ピタッと立ち止まり、先ほど聞いたことが再び脳内で再生された。
『大好きなんだ』
…………。
……。
「……あたしも好きになっちまったじゃねぇかバカ……」
潤んだ瞳、紅潮する顔。
もう、言い逃れはできなかった。
「なんで今更好きになっちまったんだよ〜〜……」
好きになったとしても、『あたしから』振った。だからあたしから告白なんてできない。
おこ禍々しいってやつだ。(○:烏滸がましい)
『もっかい告白させろ』
香織の言葉が刺さる。
「だァ〜〜もうっ!」
ベチーンといい音を立てて両頬を叩いて己を鼓舞する。
「やってやんよ……! 覚悟しとけよ霧下ぉ……!!」
もう一回、全力であたしを好きにさせてやらぁ!
###
んー……。悲しい。
初めて女の子からされた告白を断ってしまい、僕は少しげんなりしていた。
「でもなぁ、あれが本心だったしなぁ、仕方ないよなぁ……」
溜息を吐きながら、僕は帰路を辿ろうとして校門を出ようとしたのだが――
「おせぇよ、霧下」
「み、三月さん!? 先に帰ったんじゃなかったんですか?」
三月さんが、腕を組んで門に体重を預けていた。
「いや……あの……えーっとだな」
「? どうしたんですか?」
なんだか歯切れが悪い?
「一緒に帰りてぇな〜……とか思ったりして……」
「っ!?」
頰を少し赤らめながら、ジト目で僕を見つめてくる。
なんだかいつもと雰囲気が変わっているような気がする。
「は、はぁ、さいですか……。じゃあ帰りましょうか」
「ん」
そう言葉をかけ、並んで一緒に帰ろうとしたが、まるで当たり前のように僕の手を握られた。
驚きすぎて、逆に冷静になっている僕。恐る恐る理由を聞いてみた。
「あ、あのー……。これには一体どういう意味がおありなのでしょうか……?」
「へっ!? ぇあ、あー……あれだよ! 今日あたし、ドジしちゃうから転んだらやだな〜って……」
「そ、そうですか……」
一体全体なんのつもりなんだ!?
可愛いとか思ったりしてる僕がいるけれど、僕はもう、三月さんに『付き合ってください』なんか言わない。
今、登っている山を乗り越え、降りて、新たな山へと登るために僕は、三月さんとけじめをつけるんだ。
(――もっと好きになんてならない)
(――もっと好きにしてやるからな)
――二人の思いが互い伝わるのは、もう少し後のお話。
完
読んでいただきありがとうございました!
よければ下にある★で評価していただければとても嬉しいです!!
連載版は……特に考えてないです。見切り発車で書き始めたものなので……。
好評だったらする……かもしれないです。
カエデウマでした!