第五頁 ミランダの告白 2
「最果ての図書館って? 司書……って、なんで?」
私は予想もしていない母の発言に固まる。
いや、魔女だからと聞いていたけどなんで図書館の司書だって話だ。
確かに転生前の私は司書を目指そうとしていたけど……こんなことってあるの?
普通、SF小説なり異世界転生や転移系漫画でも、主人公が司書になる話なんてゼロだなんて言わないけど、あまり多いような印象ではない。
「最果ての図書館は、この世界……マギカループでは、一部の人物しか知らない場所だ」
「一部の人だけ?」
「ああ、人によってはマギカループの理想郷の一つに最果ての図書館は入ってる、他にもいくつか理想郷としている国は別々の国にあるけどな」
「……今まで、他の国のことも二人は教えてくれなかったのは、なんでなの?」
「……ミランダ」
「ええ、わかってる」
お母さんは立ち上がり、私の椅子の前で屈んでそっと両手で私の頬を触れる。
「フィー……いいえ、アヤネちゃん。貴方は、元の世界に帰りたいと思もったことはない?」
「え?」
――――――どうして、その名前を知ってるの? ミランダ、お母さん。
上手く紡がれなかったかもしれないけれどきっとこの人の耳には聞こえている。
ただ口を開けて、この世界にとっての自分の母の瞳を見つめた。
澄んだ空を映したスカイブルーの瞳。
貴方の瞳を、より強く印象を与える白い肌も、肌に這う金髪も。
何もかも、転生前の私のお母さんとも違う姿で。
まるで、夢から覚めろと頭蓋を叩かれている感覚すらする。
「…………アヤネちゃん」
「やだよ、私、きっともう死んでるの。戻りたくなんてない。あんな場所、あんな場所なんてもううんざりだから」
「でも、貴方にはあの世界で夢があったのでしょう?」
ミランダは彩音に眉をハの字にさせながら、困った顔をする。
――――――――やめてよ。
私を、あんな世界に引きずり戻そうとしないで。
二人が私に与えた温もりが、とても愛しいから。
あんな冷め切った空気を吸いたくない。
あんな凍り付く心の感覚をまた味わいたくない。
私が一人で泣いてる時も、ずっと黙って抱きしめてくれたミランダお母さんが好き。
私が一人で眠れない時も、ずっと起きて頭を撫で続けてくれたハリーお父さんが好き。
私を笑顔で支えてくれる二人が、大好き。
こんな、温かい場所から離れたくない。
私は強く、両手でスカートの裾を掴む。
「…………フィー」
ハリーお父さんは隣の席から私をぎゅっと抱きしめてくれた。
私はどんなハリーお父さんがどんな顔をしているかとか、怖くて見れなかった。
きっと、優しいから怒ってるわけではないと思いたいけど、でも、今は恐怖で、胸がいっぱいだ。
「大丈夫、大丈夫だ。フィーがただ、生まれ変わる前の世界に心残りがないかどうか、お母さんは聞きたかっただけなんだ。決して、お前のことを嫌いになったからじゃない」
「…………うん」
「ハリー」
ミランダはハリーを咎めるような視線を送るが、ハリーは首を横に振る。
「ごめんな、唐突だったよな」
「うん……」
お父さんは私の頭を撫でてくれる。
少しずつ、心も落ち着いてきて少し冷静になってきたような気がする。
「でもフィー、お前がお母さんから司書としての仕事を継ぐのは、お父さんとお母さんの約束でもあるんだ」
「……約束?」
私は後ろを向いて、お父さんの顔をじっと見る。
お父さんはとても穏やかにしていて、ホッとした。
「そう、約束。だから、その都合でフィーの昔の記憶をお母さんは見ちゃったんだ、フィーは覚えてないかもしれないけどな」
きっと、赤ん坊の時、私が魔法を使った時だ。
あの時から、私はずっと家にいてどこにもいけなかった。
ミランダお母さんからも、外に出ちゃダメって怒られたし。
「――――――――フィーは嫌だと思うけど、できれば、司書見習いにはなってもらえるか?」