第三頁 新婚かよ、と言いたくなった今日の私です
ミランダお母さんは、タオルを持ってこようとする前に私をじっと見つめる。
「ねえ、フィー……貴方がやったの?」
「………うぅ」
なんと答えても、赤ちゃんには喋れないと思いますよお母さん。
いや、そりゃうちにメイドさんなんていたら? なんとかごまかせたとは思いますよ。
でも、そんな産まれてからまだ数か月単位しかない私が、そう簡単に魔法的な物を発動できたのは驚きと言うか……いや、驚愕物ですよ、はい。
「ごめんねフィー、赤ん坊の貴方が喋られるわけないのはわかってるの」
「う、うー」
いや、お母さんわかってるなら察して私の体拭いてよ。
それに転生系と転移系をあまり多く読んでこなかった自分でも、そう簡単にイメージしたらできるかなーってやったらできるとか、俺TUEEE系作品はストーリーがよい物しか読まない私でもこううまくいくなんて思うわけないじゃないですか。
ミランダお母さんは困った顔で私を微笑んで、目を閉じる。
「…………フィー、ごめんね――――――プラエテリトゥムスペクルム」
「うぅ!?」
ミランダお母さんと私の周りに、金色に輝く魔法陣が現れた。
私はただ、その時のミランダお母さんの顔を思わずじっと見つめてしまった。
だって、光に輝くお母さんが、天使みたいに美しかったから。
「…………うん、よかったぁ! フィーはやっぱり魔女になれるわ!! だって、初級魔法を詠唱無しでこんな大きな水を出せたのだもの、才能はあるわ!!」
「う、う……?」
「よかったわぁ、小さいうちにはあまり魔法を使わせないようにハリーから止められていたから……! フィーが魔法を使えるなら、今から教えても問題ないわよね?」
……ん? な、なんか不穏な単語を聞こえたけど聞き流すべき、じゃないよね。
というか、魔女? ……この世界は、中世ヨーロッパかなーと思った気持ちは、一旦捨てたんだったな。だって、マンドラゴラとか、動く箒とか普通にあったもん。
いや、今から? 今日って意味!?
「うー!!」
「え? 嫌?」
「うー!」
体がびちゃびちゃで気持ち悪いからお風呂に入らせて!!
「……とりあえず先にフィーは一度お風呂に入りましょうか。それから着替えて、晩御飯にお父さんに報告しなくちゃ……でも赤ん坊の頃から使えるなんて、私と同じね! フィー」
ミランダお母さんはとっても嬉しそうに笑った。
いや、いやいや魔法を赤ん坊の頃から使えたとか? それは、別にいいよ。いいんだけどさ。
……絶対、ハリーお父さんは苦労してるだろうなって、すっごく思うの私だけ?
◇ ◇ ◇
「な、なんだって!? フィーが魔法を!?」
「ええ、そうなの! びっくりでしょう?」
「う、うー」
晩御飯を食べる前にミランダお母さんが私を抱き上げて、片腕を触ってガッツポーズをさせる。
お父さんはとっても驚いている、うん、こういう驚きなの。普通の反応ってやっぱりそういうのだよね、フツー。
ちょっとブサイクな顔になってそうだけど、それはしかたないと思ってお父さん。
「ミ、ミランダ……まさか、今日さっそく魔法を教えようとしたりは……」
「ええ、でもフィーが嫌がってお風呂入ったり晩御飯を作ってたら自然と時間が無くなっちゃって……」
「そうか、フィーも体がずぶ濡れだったんだからちょっとは嫌だったろうさ、な?」
「うー!」
お母さんは残念そうに手を頬に当てて、はぁと溜息をつく。
それを見たお父さんは、ほっとした顔で私に向かって親指を見せた。
お父さん、ナイスアシスト!
「とりあえず、魔法を教えるのはもう少し後にしないか?」
「でも……」
「それにもし俺たちに子供が出来たら、のんびり育てて行こうと約束したろう? スローペースって奴さ」
「…………そうね、魔女として約束を違えるのはいただけないもの」
「さすが俺の奥さんだ。そういうところに俺は惚れたんだよ」
「貴方……」
目に見えて、空気がピンクなハートが飛び散っている情景が浮かんでくる。
いや、実際の目ではお母さんとお父さんが手と手を取って、頬を染めているってだけなんだけどね?
あー!! くー! こういうイチャイチャは生で見ると気恥ずかしいなぁ!!
ドラマとかアニメとか、そういうのならドラマチックだとか思ってたけど実際の場面と出くわすとこんなに居心地が悪いだなんて知らなかったな。
全世界の赤ちゃん、こういう体験は実は結構してたり……? な、なんか複雑。
赤ちゃんに自分の記憶が戻るとかじゃなくて、数年経ってからー! みたいなお約束展開の方に期待してたのにな……それこそ、ゲームや漫画の悪役令嬢にでも転生してみたかったよ、ほろり。
でも、魔女ってどういう意味なのかはわかってないんだよな。
後々で知ることができるかな、だと、いいけど。
その日は、一旦私も食事を終わらせて私の部屋で寝かしつけてもらって、健やかな睡眠を堪能した。