第一頁 私が転生した日
文屋彩音は、今日も図書館にあるたくさんの本たちに囲まれながら文豪たちの物語である文章を貪っていた。
「……ふぅ」
うっとりと息を吐いて、私は読み終えた本を閉じる。
今日も本の文章を吸収して、私の世界がまた一つ知識として増えていくことに喜びを感じた。
大学でのサークルでの知り合いやネットのSNSなどで知り合った読書仲間から勧められている本は大抵一日で読破できるようになっていっている自分は、本当に本の虫と言えるだろう。
「……さぁて、明日は何の本を読もうかなぁ」
私は椅子に座りながら体を伸ばす。
大学での図書館の本はもう全部読み終えてしまったし、後は他の図書館に眠っている作品たちでも紐解いていこうか。そういえば、確か最近話題のとある一般小説が発売されると言っていたっけ。
「タイトル、なんだっけなぁ」
まあいい。ネット検索で一般小説、話題作とかってスマホにでも打って検索でもすれば自然と検索結果に表示されるだろう。
私は席から立ち上がり、鞄を肩にかける。
図書館の二階にいた自分は、スマホにタップしながら作品のタイトル名を検索する。
ネットにはアニメ化されたラノベ小説とかの広告が出てきて苦笑いした。
そういえばこの前買ったラノベ小説、魔女関連の話だったっけ。
ハーレム物じゃないラノベ作品ばかり読み漁っている自分としては、スローライフとかの小説も好きだし悪役令嬢物ももちろん好きだ。
基本的に海外のSF小説も好きだから、そういう類の小説も嗜む自分としては色々なタイプのものが出てきていることに大変好ましい。
「あ、思い出した確か、あの小説のタイトルは――――」
階段をゆっくり歩きながら手すりに手を付けて降りていこうとした、その時だった。
ドン―――――!!
「え?」
体が背中に押し出されるのを感じた瞬間、私は階段から落ちて行っていた。
頭に一度、ものすごい衝撃が走る。
その一瞬の出来事に、私は脳処理できる時間などなかった。
階段から落ちて死亡なんて、その時の私には理解など到底できるものなどではなかったのだから。
◇ ◇ ◇
「ああ、愛しい子。とっても可愛いわ」
聞いたことのない美声が聞こえた。
なんだろう、ウィスパーボイスって奴かな。私の周りにそんな声の持ち主、いなかったはずなんだけどな。私は目蓋を開けると、金髪の美しい女性に抱きしめられていた。
……誰だこの人。私、外国人の知り合いなんていないんだけど。
「あぁ、あー」
ん!? ちょ、ちょっと待って。
今の、私の声か!? どう聞いても赤ちゃんの声にしか聞こえなかったんだけど……!?
どこぞの子供姿の名探偵みたいに、縮んでしまったとか!?
「ハリー、抱きしめてあげて」
「いいのか? ミランダ」
は、ハリー? ポッターの方ですか?
いや、DVDであの映画は全部見たことがあるし、声も違うから同姓同名って奴か? ……姓のほうはわかんないけど。
「ああ、本当に愛らしいな」
茶髪で金色の瞳をしたイケメン男性が、頬擦りしてくる。
俳優レベルの顔面とアニメ声優みたいなイケメンボイス……そんな完璧なイケメンが世の中にいるのかと、私の世界の狭さに気づかされた。
でも、それより私の脳内はスペースキャット状態で、全然状況が読み取れない。
「そうだ、この子の名前はフィーリスっていうのはどうだ?」
「素敵な名前ね」
いや、旦那さんと奥さん。
私の名前、ギリシア神話のデーモポーンの恋人というか奥さんの人の名前伸ばした感じの奴なんですか。いや、そんなこと別にいいけど、いいんだけども!!
……赤ちゃんみたいな声で、しかも夫婦らしき人から名前を命名されるってさ。
その時点どころか、建物の中を見て普通の海外のようには思えない物も見えたから、余計思うんだけどさ。
――――私、転生しちゃったの……?
文屋彩音、享年19歳。
見知らぬ土地に、私は転生をしてしまったと齢0歳で悟るのだった。