第7話 恋心と傷心と
ちょっと暗くなりますか。
あ、あっしじゃなくてこの話ですよ?!
俺が今よりもまだ真面目だったとき、いや、正確に言うと俺にはそこまで面倒くさがりじゃ無かったときがあった。
高校入学直前にこっちに引越しをし、まだ右も左も分からないとき、彼女と出会った。
「あれ?ここはどこだ?」
俺は妹が書いてくれた地図を片手に首を捻る。
地図どおり歩いてきたつもりであったのだが、どこをどう間違えたのか、俺は迷子になっていた。
さすがにこの年で迷子はちょっと…
「まずいな…交番もないし…適当に訊くしかないのか…?」
都会育ちの純都会っ子の俺は、今まで閉鎖社会で生きていたせいか、かなりの人見知りである。
朱里は先に行っちゃってるし…どうすりゃいいんだ?
俺がさまよう先に着いた場所はとある公園だった。
「少し休むか」
俺がベンチに腰掛けて休んでいると、一人の少女が目に映った。
彼女は必死に公園で何かを探しているみたいだ。
俺はいつも通り知らないフリをして寝る態勢に入った。
が…
「すいません。ここらへんにコンタクトレンズ落ちてませんでした?」
「え…」
それは完全に不意打ちだった。前いた場所ではありえない光景。
他人に無関心な社会の中でこういう人はほとんどいなかった。
そして何より…彼女はとても美人だった。
「あの…聞こえてますか?」
「あ、はい。コンタクトレンズですか?」
「はい…片方見つからなくて…あれがないとよく見えないんです…」
そんなもののためにわざわざ公園を…
それにコンタクトレンズなんて透明なものが簡単に見つかるわけがない。
「分かりました。一緒に探しましょう!」
って俺何言ってんの?!絶対こういう奴はキモイって言われるって!
それに絶対見つからないって!
「有難うございます!でもいいんですか?」
「別に。ちょうど暇でしたから」
って別に暇じゃないから!俺は今迷子なの!こんなことに付き合ってる暇なんて無いんだってば!
…どうしてだ?調子が崩れる。やはり都会とは違うというのだろうか。
「ありがとうございます!」
そして微笑んだ彼女はとても綺麗で、俺は見とれそうになった。
思えば一目ぼれって奴なのかもしれない。俺の初恋ってやつか。
次に会ったのは学校だ。
同じクラスではなかったものの、彼女は俺を覚えてくれていた。
それが何よりも嬉しく、中学の頃の悲しい思い出や嫌な思い出全てが吹き飛びそうであった。
「お前が今見てたのって木曽彩華だろ?」
「え?」
仁が俺にそんなことを言った。
「見とれる気持ちは分かるぜ〜。彼女、かわいいもんな」
「別に見とれてない」
「まあまあ。聞けよ。彼女って結構モテるんだぜ。まあそれはそうだろ?しかも浮いた噂一つも聞かないんだ。つまり、彼女はフリーってことさ。競争率高いぞ〜」
「だから俺はそんなトトカルチョには参戦しない」
俺は口ではそう言うものの、感心していた。
こいつの女の子についての知識はすごいものがある。
しかしそれよりも彼女だ。俺はそういうレースはダルくてしないのが普通なのだが、このときばかりは久しぶり熱くなった。
「ま、俺も彼女が彼女だったら嬉しいけどな。お前と争うぐらいだったら退くさ」
「何勝手なことをほざきやがる」
俺の心は彼女に奪われつつあった。
そんなこんなで夏休み。
俺は穂、仁、そして付き合い始めた奏とタカの5人でよく遊んでいた。
タカは昔からよくモテていたのだが、奏と付き合い始めてからは大人しくなった。
しかし俺的にはどうしてこの二人が付き合っているのかが不思議なのだが。
まあとにかくそんな夏休みのある日、俺は家でダラダラしていた。
「う〜…熱ぃぜ…熱くて死ぬぜ…」
俺は冷房をガンガン効かせた部屋で倒れていた。
「兄さ〜ん!電話だよ〜!」
「え?俺に?」
扉の向こう側から妹の声が聞こえた。
「マジで…ダルっ…」
「兄さん!」
しかし親切にも、妹は子機を俺の元へと持ってきていた。
「うわ…兄さん、風邪引かないようにしてくださいね」
朱里はあまりの寒さか、少し震えた。
「わあってるわあってる」
俺は妹から電話を受け取った。
妹は用事を済ませたのか、キッチンに戻っていく。
「はい、もしもし」
「もしもし…リョウ君?」
「え…」
声の主は木曽さんだった。
彼女とはそれなりに話すほうだったので、電話がかかってきてもおかしくない。
「あのね…今から出かけない?」
「い、今から?」
結構もう日は高い。つまり外は灼熱だろう。しかし木曽さんの誘いを断るわけには…
「そう、デート…しない?」
「デート…ってぇぇぇぇ?!」
俺は絶叫した。まさか木曽さんが俺にそんなことを言ってくるとは思わなかった。
まさか憧れの木曽さんとデートだなんて…俺は頬をつねってみるが、大丈夫だった。
夢じゃ…ない…だとぉぉぉぉぉ?!
「ダメ…かな?」
「い、いいよ。いつ?」
「今すぐ…じゃダメかな?」
「大丈夫。すぐに着替えるから」
「じゃあリョウ君の家の前で待ってるね」
「あ、ああ…すぐに着替えるから!」
俺はそう言って電話を切った。
…まさかこんな事態になるとは…
「ていうか俺ってデートしたことないんだよ。どうするべきか…」
俺はクローゼットの中を見る。
順番に服を見ていたのだが、さすがに面倒くさくなった。
「いつもと同じで良いか」
俺は結局適当に服を選んで外に行くことにした。
「あれ?兄さん、出かけるんですか?お昼はどうするんですか?」
「いや、遊びに行く約束をしちゃったから夕飯もいらないよ」
「…へえ。さっきのはデートのお誘いということですか」
何故か妹の目が突然冷たくなった。
「分かりました。兄さんは存分に楽しんできてくださいね」
「何か棘あるな〜…」
俺は玄関へと向かって靴を履く。
そしてドアを開けると、すでに彼女はいた。
「あ」
「久しぶり」
彼女はいつもと変わらぬ笑顔を浮かべていた。
「でも突然どうしたの?」
「急に会いたくなったの。さ、行こ?」
彼女は俺の手を引っ張った。
それにしても恥ずかしいことを言ってくれる…
これじゃまるで恋人みたいだ。俺が勘違いしちゃうだろ。
「どこに行くの?」
「まずは服買いに行こう?その服って適当に選んだでしょ?」
「ご名答」
彼女は俺の性格をしっかり理解しているらしい。
こうして俺達は服を買いに行った。
「…ねえ」
「何?」
俺は自分の格好を見て彼女に訊きたくなったことがある。
「この格好って俺に似合うか?」
「大丈夫大丈夫」
彼女に言われて着たこの格好はちょっと恥ずかしい。
「どっちかっていうとタカの方が似合いそうなんだけど…」
「そう思う?」
「ああ」
「ま、いいじゃない」
彼女も随分とアバウトな人だな…
そして俺達は映画を見に行くことになった。
しかし内容はあんまり覚えてない。なぜなら寝てしまったから。
「リョウ君寝てたでしょ?」
「…はい」
彼女は呆れていたがすぐに笑顔になった。
「じゃあ次に行かない?」
「でもちょっとトイレ行ってくる」
「もう…」
俺は彼女のそんな声を後に聞きながらトイレへと向かった。
今はただ、浮かれていたのだ。
しかし、そんなことも長く続かなかった。
俺がトイレから出てきたとき、何やら荒い声が聞こえた。
「どうした?」
俺が声のするほうへ近寄ると、片方は彼女…木曽さんということが分かった。
そして以外にももう片方はタカだった。
「何でタカが…」
俺は首を捻った。しかし何より深刻そうなので、俺は隠れることにした。
今考えればこの行動が悪かったのだと思う。
「だからどういうつもりだ、って訊いてるんだ!」
「あなたには関係ないでしょ。私をフッたんだから」
フッた…?木曽さんはタカのことが好きだったのか…?
「関係大有りだ!アイツを俺の代わりとしてるんだろ?!」
な、何だと…?
「何言っているの?」
「何言ってるじゃないだろうが…アイツに俺の格好させて…」
「見てたの?」
「そりゃ俺はアイツの友達だから気にはなるさ」
「そう…でも別にそれくらいいいでしょ?リョウ君は私の友達なんだから分かってくれる」
「お前…アイツの気持ちを…」
気がつくと俺は走り出していた。何もかもから逃げたかった。
暗に俺はふられたということだ。まあ告白も何もして無いけど。
それでも俺は悲しかったんだ…
「タカ!さっきの話、リョウが…」
「「え?」」
突然その場に来たのは奏。多分ずっといたのだろう。
まあそんなことは後から聞いた話だ。何せ俺はもうこの場にいない。
とにかく俺は走った。わき目もふらず走った。
そしていつの間にか家に帰ってきたんだ。
「あれ?兄さん。早かったですね。夕飯いりますか?」
「いらない」
俺は短く返して自室に帰った。
「にい…さん?」
朱里は不思議そうな顔で俺を見た。
ともかく俺は自室に篭り、一人になりたかった。
期待していただけにショックはでかい。全く…何を期待していたんだか。
過剰に意識した自分も悪い。彼女は友達感覚で俺と接し、俺と傷心デートをしたのだろう。
なのに俺は…バカみてぇ…本当に…バカみてぇ…
ドンドン
「兄さん。兄さん。どうかしたんですか?兄さん」
自室の扉を叩く音が聞こえる。しかし今はそれよりも一人になりたい。
朱里の気持ちも分かるけど、一人になりたいんだ。
「朱里…俺、もう寝るから。悪いけど…」
「え?お風呂にも入らないんですか?」
「ああ。超眠いから、今は寝かせてくれ」
「…分かりました。おやすみなさい。また明日」
「ああ…おやすみ」
こんなに自分が情けなく感じたのは2年…いや、1年ぶりか?
妹にこんなに心配かけさせて…兄として失格だな。
でも、もういいや。何もかも面倒くせぇ。ダルイよ。だるい。
元々俺に希望なんて…夢なんて…叶わないんだよ。
「…」
「どうしたの鎌倉君?」
おっと、今は祭りの最中だった。久しぶり昔のことを鮮明に思い出してしまった。
「いや、それより…」
「あ、兄さん!」
「ん?」
そんなとき、朱里の声が聞こえた。
振り向いてみると、やっぱり朱里であった。
「おう、やっと合流できたな」
「もう…兄さんのこと探してたんですから」
「それはありがとう。で…」
ふと隣を見ると彼女…木曽さんの姿が見当たらなかった。
おかしいな?さっきまで一緒にいたはずなんだけど…
「どうかしたんですか?あっちで穂さんたちが待ってますよ」
「いや、何でもない。行こうか」
俺は朱音と一緒に仁たちのところに戻った。
そして…木曽さんはどうやらはぐれた友達が見つかったようで、そっちにいったらしい。
学校で聞いた話なのだが、あのとき言ってくれればよかったのに。
とにかく俺は木曽さんと再び話す機会が来るとは思わなかったので、驚愕の1日ではあった。
そんな祭りの日の出来事。
誤字脱字には気をつけてるつもりですが、あったら言ってください。