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第5話 May〜鎌倉家に泊まろう〜

もうはっちゃけてます。心の中で。

5月になった。

人によっては5月病にかかり、気分が憂鬱になったり、不登校になったりする。

まあ万年5月病の俺にとっては縁の無い病気の一つだ。


「今日もサボリなし、と」


「すげーじゃん!!俺の方がサボリ多いぜ!」


奏と仁が俺に向かって言う。

まあ俺でも驚くことだろう。なぜなら今週一杯俺は一回も授業をサボらなかったのだから。

さすがにこれは友人以外にも…主に先生を中心に驚きを隠せないらしい。


「まあ俺も頑張ればこれくらい出来るんだな」


しかし実際相当な倦怠感をすでに感じている。

別にスタミナ不足というわけじゃないのだろう。ただ単に気力があまりないということだ。

まあHPよりMPが足りないって言った方が分かりやすいか?


「やれば出来るじゃない鎌倉君。うんうん、真面目になったんだね」


委員長が俺を見て満足そうな表情をする。

ていうかだから何でアンタは俺の保護者面してるの?


「でもこれじゃリョウのアイデンティティ無くなっちゃうんじゃない?」


穂が俺に向かってそんな言葉を口にした。


「どういうアイデンティティだ。どういう」


「面倒くさがり」


「それは今も変わらない。それにそんなアイデンティティならいらねえよ!」


「そう?無個性よりはいいと思うけど」


いやまあ確かに個性が無いのはいやだけどさ…

しかし俺はそんなことよりニヤついている仁が気になった。


「オイどうした変態」


「今日さ、みんなでリョウの家に泊まらない?」


コイツ、変態を認めやがった。


「は?」


俺は随分と間抜けな返事をする。

だって唐突にそんなことを言われても…ねぇ?


「だからさ、明日からGWだろ?どうせなら今日の夜から遊びたいぜ〜!とか思うわけ!」


「いい考えね」


奏が真っ先に賛同した。


「俺も異議は無いな」


次に賛同したのはタカ。まあ穂も絶対賛同するであろう。


「しかしな、朱里の許可も取らないと…」


「朱里ちゃんはOK?」


「はい、久しぶり穂さんや奏さんとお話してみたいし」


「いるのかよっ!!」


いつの間にかいた朱里に話しかける穂に俺は驚く。

いや、朱里がここにいちゃいけないと言うわけじゃないけどさ。びっくりしたんだよ。


「じゃあ今日、家に帰ったらお泊りセット持参でリョウの家に集合ね」


奏がそう言うと、みんな了承の返事をした。

今夜は騒がしく…賑やかになりそうだ。


「兄さん、楽しみですね」


「…ある意味でもな」


何も問題が起こらなければいいんだけど…無理かもしれないな。

俺達5人が揃えばきっと何かが起こる…そんな気がする。






「ひゃ〜。本当にデカイ家だな〜」


俺の家に入って仁が叫び声をあげる。


「そうか?別に普通の一軒家だぞ」


一応叔父さんと叔母さんに引き取られた俺達は、前の家を売り払って最近ここに越してきた。

とはいえ高校入学直前なので、すでに1年以上ここに住んでいる。

まあつまり、こいつらと知り合ったのも結構最近という訳だ。あんまりそうは感じられないけど。


「そうね。驚くところなんて特に無いわね」


奏が俺の家の中を眺めながらそんなことを言った。


「兄さん、私は食事の支度をしてきます」


「ああ。でも6人分って大変じゃないのか?」


今日は二人じゃないんだぞ?


「大丈夫ですよ。穂さんと奏さんも手伝ってくれますって」


「え?!奏はともかく穂も?!」


「あによ〜。文句あんの〜?」


穂が腕を組んで俺を睨む。こいつの料理の腕前は壊滅的だと仁が言っていたような…


「いえ…」


「別に調理しないし〜。お皿とか並べるだけだから〜。でもアンタの反応はすんごいムカつく」


一応俺達の命の保障はされたものの、穂の機嫌を損ねてしまった。


「悪かった。そんなに怒らないでくれ」


「べっつに〜。自覚してるし〜」


「…」


これは今日1日中謝り倒しておかなきゃマズイな。


「なあ、叔父さんと叔母さん、まだ帰ってこないのか?」


タカが俺に話しかけた。


「そうだな…海外を飛び回るような仕事だからな、1ヶ月に1回は帰ってくる」


「…相変わらずすごい放任主義だな」


「だああああああ!朱里ちゃんと二人暮らしだなんてお前!!羨ましすぎるんだよ〜〜〜〜!!!!」


仁が俺に飛び掛ってきそうなくらいなオーラを発した。


「妹と二人暮らしって…別に普通だぞ」


「チックショ〜!何で俺には妹がいないんだよ!!それにお前と朱里ちゃん全然似てないじゃないか!!く〜〜〜〜!!」


「それはそうだが…でもやっぱり妹だからそんなの意識とかしてないぞ」


仁の発言に冷静に返すのはいつものこと。タカもそれは分かっているのか、俺達を見て噴出しそうになっている。


「仁、俺より彼女持ちのタカを羨むのが普通じゃないか?」


「俺かよ」


「い〜や!奏が彼女でも俺はうれしくないね!だってドMじゃないし」


「オイ。誤解するな」


奏にサドっ気があるのは俺達二人とも知っている。

そんな彼女と付き合っているのだから、タカはドMだろう、というそういう結論に達したらしい。


「ああ見えてもカナは繊細で…」


「ノロケは他でやってくれ」


「こいつら…」


俺と仁に弄られるタカは珍しい。俺もいろいろハイになっているようだ。


「それよりさ、何かゲームやんね?あ!AVある?あるべ?男だもんな?」


そして仁は恥ずかしげもなくそんな発言をする。

一応女子もいるんだけどな。こういうところがモテない理由だろう。


「悪いがあまりにも大切なのでお前には見せられん」


「え〜!ケチ〜!いいじゃんかよ〜!俺とお前の仲だろ?な?」


妙に引っ付いてくる仁。こいつはこういう趣味でもあるのか。


「くっつくな。気色悪い」


「何何?それともあまりにマニアックなビデオなのか?」


「たとえば?」


おいタカ、こういうことを訊くんじゃない。熱く語りだすぞ。


「俺様の予想では…リョウは異常性癖の持ち主だな!例えば近親相姦!」


「…お前の男を見る目は皆無のようだな」


「だって近親相姦プレイが好きなんだろ?!」


「どこをどう解釈してそんな結論に至ったんだ。理由を言え、理由を」


俺はこんな恥ずかしい会話なんてしたくない。もし妹にでも知られたら…


「え…兄さんってそんな趣味が…」


そう、きっとこんな風に言われるに違いない。


「って朱里?!」


いつからいたんだよ?!驚くじゃないか!!つうかさっきの会話聞こえてたっぽくね?


「に、兄さんの趣味に文句は言いませんけど…私、ちょっと恥ずかしいです…」


「だぁぁぁぁぁ!!違う違う!!仁が勝手に言ってるだけで…」


結局俺は説得にかなりの時間を費やしてしまい、夕食もかなり遅れることになってしまった。

仁、後で覚えてろよ?








夕食後、仁を処刑し、俺達は風呂に入るのだが…


「随分と遅くなってしまったわね。一人ずつ入るとすごく遅い時間になってしまうわ」


奏が時計を気にしながら言う。まあ半分以上仁のせいなのだがな。


「しょうがないから二人ずつ入る?」


「ハイハイ!!俺は朱里ちゃんと!!」


「「死ね!!」」


俺と穂は同時に仁を蹴り飛ばした。

こいつ…予想以上にタフガイだぞ…


「で、組み合わせは?」


「6人だから男女の組が一つ出来るわね」


冷静に奏が分析する。


「タカ〜。アンタ、奏と入ろうとか思ったでしょ〜?」


すかさず穂がタカに絡む。


「…だ、男女の組ならリョウと朱里ちゃんでいいんじゃないか?」


さり気なく話を逸らすタカ。ていうか俺と朱里かよ。


「え、え〜〜〜〜〜!!私と兄さんが…い、一緒に〜〜〜?!」


「あら?朱里ちゃんは嫌なのかしら?」


奏が朱里にそんなことを言う。


「わ、私はいいですけど…に、兄さんが…」


いいのかよ。


「そうだな…さすがに全裸ってわけにもいかないだろ。俺達は水着で入る」


「に、兄さん…」


朱里が何だか顔を真っ赤にしながら喜んでいる。

確かに全裸は恥ずかしいだろう、いくら兄とはいえ。もう高校生だ。


「ハイ、じゃあ決まり!タカと仁が最初ね」


「わかった。いくぞ仁」


「何で最初なんだよ〜!」


「アンタが後に入ると何されるかたまったもんじゃないわよ!」


やはり仁は信用されてないな。あいつは変態だし、しょうがないが。







タカと仁が風呂から上がり、とうとう俺達の番になった。


「じゃあ兄さん…よろしくお願いしますね」


「あ、ああ…」


お、おかしいな…妙に緊張する…

俺達は背中合わせで服を脱ぎ始める。

思えば朱里と一緒に風呂に入ったのなんて小学生以来じゃないのか?

さすがに中学生になったら恥ずかしくて止めてしまったが。

まあそんな昔のことを妙に考える。


「に、兄さん…は、恥ずかしいですね…」


「そ、そうだな…」


水着に着替えた俺達は一緒に風呂の中に入る。


「じゃ、じゃあお背中流しますから兄さんからどうぞ…」


「お、俺…?ま、まあいいけど…」


何だかぎこちない。俺達二人ってこんなにぎこちなかったか?

いや、そんなはずはない。単に俺達二人とも緊張しているんだろう。

そうして俺達の無言の入浴時間が始まった。


「…」


「…」


「…」


「…」


う…沈黙がイタイ…。朱里も何をしゃべっていいのか分らないのか、顔を上げたり下げたり。

何せ小学生の頃とは違う。俺はかなり大きくなったし、朱里は女らしくなった。

あの頃にはなかった胸のふくらみや女らしさが、俺を正常に働かせてくれない。

…って妹を意識してどうすんだよ!!仁に言ったばっかじゃないかよ!


「「あの…」」


あ、台詞が被った。


「ど、どうした?朱里?」


「に、兄さんからどうぞ…」


「いや、俺は大したことじゃないから…」


「わ、私もです…」


「「…」」


で、結局無言に逆戻りか…

俺は深呼吸をして心を落ち着かせる。


「なあ…」


「…」


「え?」


見ると朱里が湯船の中でグッタリしている。


「朱里っ!!」


俺は急いで朱里を湯船から出して風呂から出た。


「穂!奏!朱里が大変なんだ!!」


俺は精一杯の声で更衣室から叫んだ。


「え?何々?!」


するとすぐに穂と奏がやって来た。


「朱里がのぼせちまった!冷えたタオルとか持ってきてくれるか?!」


「分かったわ。穂は彼女の体を拭いてあげて」


「分かった!」


俺は呆然と立ち尽くしているだけ。こういうとき俺は何をすればいいんだ?

自分の無力さを思い知らされる。今まで朱里に甘えすぎていたツケが回って来たのだろうか。


「はい、リョウ、男なんだから力仕事は任せたわよ。朱里ちゃんをベッドに運んで」


「分かった」


俺は朱里を抱きかかえて朱里の部屋に向かった。








「朱里は大丈夫か?」


「平気よ。もう大丈夫みたい」


俺はリビングで奏にそう言われて胸をなで下ろした。


「良かった…」


「でもどうするよ?今日は各自家に帰るか?」


仁が珍しく真面目な顔でそんなことを提案した。


「いや、今日はもう遅いし泊まっていけよ。それに明日になれば大丈夫だと思うし」


深夜12時過ぎ、俺達は順に割り当てられた部屋に行くことになった。

タカと仁は客間、奏と穂は朱里の部屋の隣の客間へと向かうことになった。


「俺は朱里の様子を見てから寝るよ」


「そうか、じゃ、お休み」


「ああ」


俺は一人、朱里の部屋に入った。


「あ、兄さん」


「あ、起こしちゃったか?」


「いえ、まだ眠っていませんでしたから」


朱里は見た感じ元気そうだ。

多少は疲れがあるのかもしれないが、もう大丈夫そうで何よりだ。


「ゴメンな、俺がついていたのに。俺はお前に何一つしてやれなかった」


「違いますよ、兄さん」


「え?」


朱里はニコニコ笑っていた。


「私、兄さんと久しぶりお風呂に入れて嬉しかったです」


「朱里…」


「でも何お話すればいいのかな?って舞い上がっちゃって…」


朱里は終始ニコニコしながら話す。


「ねえ兄さん」


「何だ?」


「我儘、言っていいかな?」


今度は朱里がちょっと恥ずかしそうに話す。


「ああ、言ってみろ」


「私が眠るまで…手を握ってくれる?」


「そんなのお安い御用だ」


俺は朱里の手を握った。朱里の手は暖かく、俺の心まで温まった気分になった。


「ありがと…ずっと眠れなかったらいいな…」


「おいおい…俺を寝させない気か」


「冗談ですよ。冗談」


「ったく…」


俺は朱里の髪の毛を撫でた。


「おやすみ」


「はい、おやすみなさい、兄さん」


朱里はそういうと目を閉じて眠る態勢に入った。

そしてその数分後、朱里から規則正しい寝息が聞こえてきた。


「随分と強く握られてるな…」


俺は朱里の強い握りにどうすることもできず、そのまま寝てしまったのだった。

翌日、穂たちにシスコンと連呼されたのは言うまでもない。






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