第4話 俺の罪
主人公の性格が安定していない気が…
とうとうやってしまったか…
俺は大きな扉の前でため息を吐いた。
ちなみにその先にあるのは生徒会室である。
「…まだ学校が始まってから1ヶ月も経ってないんだぞ?」
俺がここにいるのには理由がもちろんある。
この学校の規則として、問題のある生徒は一定以上の問題を起こした場合、生徒会から注意を受けることになるのだ。生徒会室で。
つまり俺は一定以上の問題をもう起こしたということなのだ。ちなみに今年度は俺が最速です。
「…遅刻はしなかったんだがな…」
朱里のおかげで遅刻だけはせずに済んだ。しかし補習課題の延期提出1回、小テスト0点9回、授業サボり10回以上、掃除サボリ2回…とまあいつの間にか結構な量になっていた。
しかしこれで後が無くなったということだ。どういうことかというと、生徒会に2度目の注意を受けることになると、停学になってしまうのだ。ちなみに俺は去年4回注意されたので、停学を2回経験している。3回停学だと退学になるので、さすがにそれ以降はかなり注意して踏ん張った。
まあサボリはしないに越したことは無いのだが。
俺は大きく息を吸った。何回来てもここは緊張する。
コンコン
俺は小さくノックする。
「2年の鎌倉涼平です。失礼します」
俺は扉を開けた。するとそこには生徒会長、副会長、風紀委員長までもが勢ぞろいであった。
「また君か。もう驚かないな」
生徒会長の春宮経明が俺に向かって多少笑いながら言った。
この人はそこまで厳しくはなく、いつも笑っている。
「経明。お前が甘やかすからコイツは更正しないんだ」
俺に鋭い視線をぶつけるのは風紀委員長の弁慶次。
この人は俺を目の仇にしている。
「…進歩しないな」
もう一人俺に鋭い視線をぶつけてくるのは生徒会副会長の同級生、西岡静である。
ちなみに去年同じクラスで、俺との相性も良くはなかった。
「まあ何をするかは分かっていると思うけど…とりあえず学生手帳を出してくれる?」
「はい」
俺は生徒会長に慣れた手つきで学生手帳を渡す。
こんなことに慣れる必要なんて無いんだけど、慣れてしまったものは仕方がない。
「はい、判子を押したから。次注意受けたら停学だからね。分かっていると思うけど」
「はい」
「経明。まだ注意をしていない」
しかし、やはり風紀委員長は俺をタダで見逃してくれるはずがなかった。
「お前、いつになれば問題を起こさなくなる」
「…すいません」
「まあまあ、彼の起こした問題はどれも他人に迷惑がかからない問題だからさ、温かい目で見守ってもいいんじゃない?」
「甘いぞ。だいたいこの学校の校則は甘すぎる。何故停学を2回まで認めている。それに1年経ったら前科取り消しっていうのは納得がいかない」
俺をすごい目で睨みながら風紀委員長は生徒会長に自論を言う。
確かにこの学校の校則が甘いと思うのは同感なのだが…
「そ、それは僕に言われてもさ…」
「生徒会長が校則を変えろ」
「む、無茶だよ…!」
結局今回もこの二人のコントで終わりそうだ。俺はこれ幸いにと、部屋から出ることにする。
「待ちなさいよ」
「…」
まだ一人残っていたか。いや、一番面倒くさいのは彼女だ。
「アンタ、急にだよね。去年の2学期からさ。急に問題児になったよね」
「そうか?」
彼女の記憶は正しい。俺の去年の手帳に、生徒会の警告印が押されたのは9月以降だ。
「アンタ、何かあったの?」
「俺のことをそんなに知りたいのか?」
「んな訳ないでしょ!!」
こいつは風紀委員長と違い、とにかくしつこいのだ。
悪にも理由をつけようとする困ったやつ。まあ正義感が強すぎるのか、好奇心が強いのか…
「だっておかしいでしょ!1学期の頃はあんなに…」
「あんなに?」
「な、何でもない…」
そう言って彼女は黙ってしまったので、俺は退室することにする。
「じゃ…失礼しました」
俺は部屋を出るときにお辞儀をした。何に対してなのかはよく分からないけど。
そして、扉を閉めた後すぐに俺は左胸を抑えた。
古傷が抉られたそんな感じがした。あいつの悪い癖だ。人の思い出したくないことを思い出させる…
俺はそのまま保健室に直行した。…サボリじゃないぞ。
「あ〜あ…とうとうやっちまったな」
教室に戻ると仁たちが俺に駆け寄ってきた。
「まだ4月でしょ?いくらなんでも早すぎるわ」
「次からは強引にでも授業に出すからな」
「まあアンタのことでアタシのことじゃないから別にいいけどね〜」
口々に俺のことを言ってくる。
こいつらなりの気遣いなのだろう。
「あ!鎌倉くん!これからはちゃんと授業に出なさいよねっ!」
「い、委員長…」
委員長が俺の目の前に来てそう言った。ちなみにこのクラスの委員長は彼女に決まっている。
「まだ大丈夫、まだ大丈夫、じゃダメなんだからねっ!」
「へいへい…」
俺の保護者かアンタは。
「私達よりいいことを言ってるわ。さすがは委員長。尊敬できる」
奏がボソッとそんなことを呟いた。
「尊敬ポイントが上がったってやつか?ハハハ」
仁が笑い転げる。残念だが俺にはそのツボが理解できない。
まあこいつはいろいろと残念なやつだからな。
「ま、とにかくこれからはダルイダルイ言ってられないからな」
「…そうですね」
タカの台詞に脱力気味の返事の俺。
「気合が篭ってないな」
「必要か?」
「是非」
「…そーですね!」
「…悪い、今のは全面的に俺が悪かった」
「そこで謝るな!スベったのが悲しくなるから謝るな!」
俺は心の中で少し焦りながらもまた授業の面倒くささを考えていた。
…いい加減何とかしたいけど…時間がかかるなこりゃ。
隣も隣だし、余計にかかりそうだ。
「ただいま」
「あ、お帰りなさい、お兄ちゃんっ!」
「あ、ああ…ってぇぇぇ?!」
い、妹の姿が変わっとるがな!!
何か目の前にいるのは朱里とは全然違う女の子だ。
「あ、お帰りなさい兄さん」
そんなときリビングから妹が顔を出した。
何だいたのかよ…ってじゃあこの女の子は誰だよ!
「もう…蘭ちゃんも悪ふざけはほどほどにしてよ」
「え?何?朱里の友達?」
俺は目の前にいる朱里より少し身長の低い女の子を見つめた。
う〜ん…朱里の同い年と言えなくもないが…随分幼そうな外見してるな。
「私、石橋蘭です。お兄ちゃんの生き別れの妹だよ!」
「蘭ちゃん!」
「ひゃっ!な、何するの〜朱里ちゃん!」
蘭ちゃんが少し飛び跳ねる。朱里が何か怖い顔をしていた。
「そんな怖い顔して睨まなくてもい〜じゃん」
「え?そんなに怖い顔してた?」
朱里が急にキョトンとする。
何だか心なしか焦っているように見えたが、気のせいか?
「もう…いくらお兄さんが取られたからってヤキモチ焼きすぎ〜」
「そ、そんなわけないでしょ!!」
朱里が力強く否定する。あんまり力強く否定すると逆に怪しまれるぞ。
「じゃあ何で怒ったの〜?」
「そ、それは…」
「まあまあ二人ともそれくらいにして」
俺は二人の仲裁に入った。まあこのまま眺めていてもいいのだが、どう見ても朱里が形勢不利だ。
だからこの判断は適切だと思う。
「に、兄さん…」
「は〜い」
朱里はホッとした表情を俺に浮かべた。
対して蘭ちゃんは残念そうな表情をしていない。きっと彼女は俺が止めてくれると思っていたのだろう。
「それより兄さん…」
「ん?何だ?」
朱里が突然浮かない顔をし始める。何かあったのかな?まさか先生に怒られたとか?いやいや俺じゃあるまいしそれはないな。
「兄さん今日、生徒会に呼び出しくらいましたよね?」
「ああそうだな」
俺はいつものことなので何気なく返す。
「まさかそれって生徒会からの警告なんじゃないですか?」
「…そうだな。どうしてそれを?」
まだ妹には教えていないはずなのだが。それともやはり予想出来てしまう事なのであろうか。
「結構有名なんですよ、鎌倉先輩」
しかし答えは思わぬ方向から来た。もちろん朱里の友達の蘭ちゃんなのであるが。
「俺が有名?どうして?」
「兄さんは…その…問題児として結構噂されているようなんです」
「しかも結構人気あるんだよね〜」
「蘭ちゃん!」
「俺ってそんなに知られてたんだ…」
気づかないうちに俺は学校の有名人なのか…。
まあサボリ癖を直せばいいことなのだが、中々上手くいかない。
「で、兄さん…」
「心配するな。さすがに今回は堪えた。善処するから」
「兄さん…!!」
朱里の顔が喜びにほころぶ。妹の笑顔を見るのは兄として嬉しい限りだ。
「朱里ちゃんって結構ブラコン…」
という後輩少女の呟きは今の俺達の耳に入ることはなかった。