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番外編07 タカ編 本当に格好いい奴

奏編と少しリンクしています。

実はこの話、本編に入れたほうが良かったかもしれません。


タカと奏が付き合っている理由…それは…

鬱だった期末試験もようやく終わり、俺達に夏が到来した。


「よっしゃ!夏休みだぜ!」


仁が大声を出してはしゃぐ。

まあテストが終わった後の開放感は何にも変えられないくらい素晴らしい。


「で、テストは?」


俺は奏にそんなことを訊かれ、固まる。

お世辞にも出来たとは言えない。だが…


「赤点は回避できる程度の努力した」


「へぇ…リョウが?」


「穂、お前こそどうなんだ?」


妙に勝ち誇った顔の穂にそんな質問をする。


「さ、リョウも夏休み楽しもうね!」


「…」


結論。穂も悪かった。


「でも予定とかみんなあるか?俺はバイトがあるけどな」


「じゃあタカは抜きで」


「おい」


穂が冷たいことを言う。本心じゃないと思うけど。


「リョウ、お前は何か予定あるか?」


「俺?ああ、サッカーの話ね」


しかし俺の思考はそこにではなく、去年の夏休みに移った。

俺とタカ、今では何でも話せるような仲だったが、例の一件の後、俺達は余所余所しくなったことがある。


















ダルイ。すごくダルイ。

夏休み、冷房をガンガン効かせた部屋でそんなことを呟いた。

原因はアレだ。あの木曽さんのアレだ。


「兄さん、あの女性の方とちゃんと話したんですか?」


「あ、朱里〜」


そんな俺の部屋に朱里が入ってきた。


「もう!兄さん!こんな寒くしていると風邪を引きますよ!」


「あー大丈夫大丈夫」


俺は面倒くさそうに返事をして床に寝転がった。


「もう!片付けもしないし!」


朱里は散らばってる雑誌類を一箇所に積み上げ、ゴミは全てゴミ箱に捨てた。

つうか本当に汚い部屋だな。今、改めて思った。


「ああ…」


でもそんな気にはなれない。


「それで、ちゃんと謝る時間は与えたんですか?!」


「ああ。ちゃんと謝ってきたよ。別にいいんだけどな。俺が勝手に勘違いしただけだし」


俺はやっぱりダルそうに言った。

それはさすがに仕方がないだろう?


「…でもアレ以来、兄さんは友達の誰とも会おうとしないじゃないですか」


朱里の言うとおり、俺はアレ以来、全く友達と呼べる人間に会っていない。

タカが俺を気遣ってくれているのか知らないが。

それにしても…やっぱりタカか…

俺はあのとき一瞬でも、いや、結構長くタカに嫉妬した。

タカを初めて憎いと思った。俺の心は予想以上にどす黒く汚れていた。


「兄さん…」


ピンポ〜ン♪


朱里が何か呟いた後、能天気なチャイムの音が響いた。


「何か来たぞ」


「は〜い!」


朱里は急いで玄関に向かっていく。

俺はベッドに横になり、積み上げられた一番上の雑誌を取った。


「…」


何か玄関で話し声が聞こえる。朱里の友達だろうか。

すると何やら誰かが家に上がってきた。


コンコン


そして俺の部屋の前で足音が止まったと思ったら、俺の部屋がノックされた。

まさか俺に用があるのか?!


「はい」


「俺だ、リョウ。話したいことがある。いいか?」


「?!」


なんと、入ってこようとしてきたのは今一番会いたくない人物、タカだった。


「タカ?!」


俺は驚きのあまり、ひっくり返りそうになってしまった。


「ああ。二人で話がしたいんだ」


「…」


何やらアレについて話すようだ。

俺は緊張した面持ちとなる。そして考える。どうするべきか…


「今はまだダメか」


「…いや、いいよ」


俺はさっきのタカの発言に意地になってしまった。

まるで俺が弱いみたいに聞こえたから。


「悪いな」


タカが部屋に入ってきた。初めてと言うわけではない。


「まず、俺を殴りたければ殴れ」


「すまん。意味が分からない」


ウソだ。理解している。タカは敢えて俺に殴られようとしている。

そういう格好いいところが今の俺には癇に障る。


「…分かった。じゃあまず謝る。スマン。俺が軽率にもあんなことを言ったせいで」


「お前は事実を言っただけだろ?別に謝ることじゃない」


俺達にしては妙に距離の開いた会話。

こんなこと、初めてだ。今までに一度も無い。


「それでもお前の心に傷をつけてしまった。悪いと思っている。だからゴメン。間違ってるか?」


「…」


タカの言っていることは正しい。間違っていると思えば謝る。

それは俺も思う。でも今の俺には…ね。


「俺が憎いか?」


「そうお前が訊くのは俺の心を理解しているからか?」


俺は挑戦的な口調になった。


「違う。それは俺がお前を憎いと思っている…いたからだ」


「?!」


何だそれは。タカは俺のことが憎いのか?

突然言われても混乱するだけで訳が分からない。


「俺には欲しいものがあった。でも、手に入らなかった」


「何の話だ」


「なぜならそれは別の人のものだったからだ」


「…」


何やら難しいことを話していそうな雰囲気だ。

でも何故かそれは妙に俺に近しいことのような気がする。


「そう、それはお前のものだったんだ。お前がいるからそれは手に入らない。そう思うと無性にお前が憎くなったよ」


「…」


タカが本気で顔をゆがめる。だが、俺には何の話をしているか良く分からない。

しかし、それでもタカが本気で俺を憎かったのは本当なのだろう。


「だから言える。欲しいものを取られた気持ちはどうだ?俺のことが憎いだろ?」


「…お前は卑怯な奴だ」


そんなの、何を答えても俺の本心は分かっちゃうじゃないか。

俺は密かに拳を握った。


「すまない。ただ…俺はアイツの気持ちには答えられない」


「奏がいるからか?」


「ああ」


タカがハッキリとそんなことを言った。


「だが、正直に言おう。カナは俺のことなど愛していない」


「え?!」


それは意外な言葉だった。

片方しか愛していない恋人なんてあるのか?


「だから俺の精神状態も不安定だった。実はあのときのデートも、俺が無理矢理誘ったんだ」


「は?!意味分かんねぇよ!そんなウソ…」


「ウソじゃない!!カナは…他に好きな奴がいるんだ。でもその好きな奴には他に好きな奴がいて…」


俺はタカの話を聞いた。タカは嘘をつくことなんて無かった。

いつでも正直で、真面目で、だから格好いい…


「俺じゃあいつを満たせないんだよ!でも…アイツを一人にできない…」


タカの深刻そうな顔に俺も自然と拳を緩める。

こいつは予想外に不安定な男だった。今にも泣きそうだ。

こんなにこいつは弱かったか?俺はこいつへの憎しみなどもうほとんど無かった。


「カナは…お前に似ている」


「…知ってる」


俺も奏とは似たもの同士だと思っている。

初めて見たとき、何て表情が無い女の子だろう、と思った。

俺も同じだったので、自然と似ていると思った。


「お前はどうしてここに来たか知らないが、カナには理由がある」


「…そうだろうな」


俺は都会から逃げてきた。知り合いとはもう会いたくなかった。


「あいつ、両親が不仲で、別居してて…親ともあんまり仲が良くなかったんだ」


俺は黙ってタカの話を聞く。


「でもそんなカナにも心の支えはあった。3歳下の妹だ。でもその妹は交通事故で…」


「そうか…」


「だからもう家には自分の場所なんて無かったんだ!同居している母親は常に新しい男にしか興味が無くて…娘が死んだことなんて悲しんじゃいなかったんだ!!」


タカの悲痛な叫びが部屋に木霊する。まるで自分のことのように。

本当に愛しているということが分かる。やっぱりタカは…格好いい奴だ。


「そんないろんなことによって精神に異常をきたしたから病院に行って…そうしたら友達もみんな離れていって…!!」


俺よりひどい。俺なんかがちっぽけになるくらいひどい話だ。

俺と奏は同類じゃない。俺が奏に似ているだけなんだ。


「だからあんなに冷めちゃって…そんな奴を放っておけないんだ…好きだから。だから!」


タカが顔を歪ませて話すのは初めてみた。


「…俺には教えてくれなかった」


「え?」


俺は冷静にタカに告げた。


「俺にはそんなこと言わなかったぞ。だから奏にとってお前は充分特別な奴だよ」


「本当か?」


「ああ」


俺がそう言うとタカは少し表情が和らいだ。


「お前にそう言われると一番ホッとする」


「何でだ?」


「それは内緒だ」


タカは少し笑いながらそう言った。

俺も少し笑った。

初めてだ。アレ以来一回も笑った記憶が無い。


「だから最初の話に戻るけど…」


「甘かった」


「え?」


俺は短くきっぱりとそう告げる。


「タカ、お前は本当にすごい奴だ。格好いい奴だ」


「い、いきなりなんだよ…」


俺はタカを尊敬した。正直ここまでいい男、そうそういない。


「他の人が好きな一人の女のそばにずっといてやるなんて、中々出来ないぞ」


もし、例の件より前に木曽さんに好きな人がいると言われたらどうする?

俺は諦めなかったか?いや、諦めていただろう。今がそうだ。

俺はこのときもう諦めているじゃないか。


「俺の思いなんてちっぽけだとお前に気づかされた」


「い、いや…そんなこと知らないけど…」


タカが少し困ったように笑った。

そして俺は…


「負けた。でもスッキリした。お前に負けちゃうのは仕方がないと、今ならそう思える」


「え?いや、お前には俺を殴ってもらわないと…」


タカは本当に予想外の結末に戸惑っているようだ。

タカにとっては絶交覚悟なのだろう。でもそれでも奏を選ぶあいつはすごい。


「お前、どんだけMなんだよ」


「いや、それはひどくね?」


俺達の間のわだかまりなどもう無いようだった。

こいつは男としてすごく尊敬できる男だ。


「で、奏が好きな奴って誰?」


「そ、それは奏に口止めされてるから…」


タカがまた困ったように笑った。


「ま、それなら仕方ないな、ドMでロリコンだもんな」


「お前、まだちょっと俺のことが憎いだろ」


「いやいや、もてる男への妬みです」


「似たようなものだろ!!」


俺は最後にタカに小突かれ、一緒に部屋を出た。


「兄さん、タカさん。お話は終わったんですか?」


朱里が心配そうに俺達を見る。

多分何度か怒鳴り声が聞こえたので、心配だったのだろう。


「ああ。じゃあなタカ」


「おう。また今度な」


俺とタカはいつものように挨拶したのだった…






















「それで…ってお前聞いてないだろ!」


「ああスマン」


タカが夏休みのことについて俺に何か言っていたようだ。

だが俺は過去を回想してそんな暇が無かった。


「お前、何を考えてたんだ?」


「もてるお前を妬んでた」


「それはご苦労なことだが、お前が言っても今はイヤミになる」


タカが俺に真剣にそんなことを言った。


「そうなのか?」


「そうだよ、今のお前はすごく格好いいからな」


俺とタカの間に溝なんてもう永遠に存在しなさそうだ。

だから俺達はこれからもうまくやっていける。

そう確信していた。



今ではもうラブラブの二人ですが、まあこういう経緯があったということで。

というか本編に入れ忘れていました、すいません。


次回は蘭&敏樹編です。

接点のない二人がどうして?!

まあ読めば分かります。


上記の予定でしたが、次回は彩華編になるかもしれません。

彩華編はタカ編と奏編とリンクしているので…

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