第3話 もっとルーズに
この小説のサブタイトルはとあるアーティストの楽曲を多少弄ってます。
分かったらすごい…ですかな?
「はぁ…」
俺は教室で一人ため息を吐いた。
「はぁ…」
「さっきからため息ため息…何なのアンタ?!」
それを見かねたのか、穂が俺に絡む。
「だってさ…次の授業って数学だぞ?お前には分からないのか?因数分解もまともに出来ない俺だぞ?ページをぱらぱら捲ってみろよ。sinとかlogとか英単語が出てきてるんだぞ?!」
「な、何ですって…!」
俺の発言に穂は急いで教科書を捲った。やれやれ、先に教科書を開いた俺の方が勝ち組ってところか。
「とんでもない事態じゃない…!」
自慢じゃないが、俺達のグループは頭がいい奴なんてほとんどいない。
奏は別にしても他の4人は悲惨な成績である。あ、もちろん朱里も別だ。
「あ、鎌倉…くん…」
そんなとき右の方から声が聞こえた。
俺は首を右に向ける。
案の定と言うか、俺に話しかけたのは木曽さんであった。何で俺に話しかけたのかは謎なのであるが。
「…何?」
俺は低い声で返事をする。意識をしているわけではないのだが、いや、結構緊張してる。
相変わらず俺達二人の間には気まずい空気しか流れない。
「良ければ私が…数学教えてあげようか…?」
「…いや、奏にでも訊くから大丈夫」
俺は自然と断りを入れた。彼女は少しだけ悲しそうな顔をしたのだが、俺は極力気にしないことにした。
気にするとロクなことが起こらない。
その場にいることが出来ない俺は、仁とタカが話しているところに向かおうとした。
「鎌倉くん!!」
「ん〜?」
しかしそんな俺の行動は後ろから聞こえた怒鳴り声にかき消された。
「げっ…委員長」
「今年はまだ委員長に立候補していないんだけど?」
「そうでしたね…」
俺に話しかけてきたのは去年のクラス委員長こと一乃谷春海という女子。性格は真面目すぎるのか、不真面目な俺とは対立が多い。
「それで…何の用ですか?」
俺は相手が相手だからか、自然と敬語になる。
別になる必要は無いのだが、これはすでに癖になっているのだろう。
「春休みの数学補習課題、今日提出だよね?」
「…委員長が何でそれを知ってる?」
「そ、それはもちろん…せ、先生がそう言ってたから!!」
さっきまで平静であったのに、突然慌てだしたりするなど、この人には謎がある。
それはともかく、委員長の話を要約すると、俺に補習課題を出せ、と言いたいのだろう。
「とにかく!!ちゃんとやってきたんでしょうね?!」
「…悪いが俺はそんなに真面目じゃない」
「な、何でやっていないのよ?!将来困るのは鎌倉君自身なのよ?!」
おせっかい焼きと言うか何というか…俺のことは放っておいてほしいんだけどな。
「わかったわかった。善処する善処する」
「ホントに?ちゃんとやるんだよ?」
「分かってますって。あんまりしつこいと嫌われるぞ」
「…そうね。分かってるわよそれくらい!」
「何故キレる」
委員長は少しだけ怒りながら俺の元を去る。
俺の周囲に静寂が戻ってきた。
「おうおう、お前と委員長は相変わらずだね〜」
「何だ仁。委員長は去年の委員長であって今年も委員長とは限らないぞ」
さっきまで騒いでいたためか、俺の周りにはいつの間にか仁やらタカやら奏やらがいた。
穂は教科書とまだ睨めっこしているので、俺の周囲にはいない。
「全く…どうして俺にだけ辛く当たるのかが納得いかない。不真面目さだったら仁も同じようなもんだろ」
「それは…委員長は俺に惚れてるな」
「「「…」」」
そしてその場の空気が静まり返った。
「え?何?驚いて言葉も出ないわけ?」
「確かに仁の気違いな発想に驚いたわ」
奏が攻撃を仕掛けた。
「え?え?何それ。俺の言ったこと全然違う?」
「お前は委員長に相手にすらされてないってことだろ」
「な、何〜〜〜〜!!」
タカの発言に仁が頭を抱えて転がりまわる。
もういろいろとかわいそうな奴だ。というかこいつはすぐそういう発想をする。
「ま、逆にリョウは仁と対照的ってとこかしら?」
「何だよそれ」
奏の謎かけに俺は首を捻る。仁と対照的って一体どういうことなのだろうか。
仁はバカ…つまり俺はバカじゃないということか?
「それよりリョウ。さっき小耳に挟んだんだけど…私に数学教えて欲しいの?」
「お前、全部聞いていやがったな」
「あら?たまたま耳に入ってきただけよ、ねえタカ」
「…俺を巻き込むな、カナ」
タカは困ったように笑う。この二人といると、俺は自分自身がお邪魔虫みたいに感じてしまう。
「木曽さんの誘いを断ってまで…っとごめんなさい、失言だったわ」
「…別にいいけど」
「まあ数学を教えてあげたいのは山々なんだけど…」
奏はタカをちらりと見る。確かに彼氏以外の男とここまで仲良くしていいのか気になるのかもしれないな。
「…そうだな、お前はモテるから要注意だな」
「は?」
タカは俺を見てありえないことを口走った。
「いいか?俺は彼女持ちだ。だから希望はない。しかしお前はフリーだ。頑張ればお前の彼女になれるかもしれないという希望を持った女子が出来る。つまり、俺よりお前の方がモテるぞ」
「何だか彼女持ちの嫌味にしか聞こえんぞ。それにそれだったら仁も当てはまる」
「いやあいつは無理…」
「本人の目の前で絶望的な会話しないでくれませんかね?」
急遽俺の隣から声が聞こえたと思ったら、仁だった。
「あれ?まだいたの?」
奏が言葉で仁を突き刺す。前から思っていたのだが、奏は結構ドSなのかもしれない。
外見は中学生ぐらいのくせに毒吐き…タカはドMなのか?
「ずっといましたよ!」
「まあそんなことより…タカ、数学の補習課題やったか?」
「駄洒落かよ」
「違えよ」
細かいことにわざわざ気づくな。
「まあカナがいたからさっさと終わった。つうか俺の答え写させてやるよ」
「いいのか?!サンキュー!やっぱタカはいい奴だな!」
俺はタカに精一杯の感謝をした。やはり持つべきものは彼女より親友だな。
「昼休み、残り5分」
「リズムに乗るぜ!!」
奏の言葉に俺は全速力でペンを持って課題をやることにした。
面倒くさがりの俺がここまで熱くなるのは珍しいことだ。
俺はリズムに乗りながらペンを走らせていたが結局、リズムに乗り切れず、タイムオーバー。
そもそも春休み全て使ってやっと終わる課題量を5分で終らせること自体が不可能と言うやつだ。
まあ自分に努力賞と敢闘賞を捧げたいところだな。
「ねえ兄さん」
「ん?」
俺は夕食中に妹と会話をしていた。
いつものことなのだが、朱里は真面目な顔で俺に話したいことがあるようだ。
「私、生徒会に勧誘されたんですが…」
「生徒会…ねぇ…」
俺は生徒会というやつを思い出していた。去年は悪い意味でいろいろお世話になった。
特に風紀委員と生徒会長と…ね。
口論なんてしないのだが、彼らは俺のことをよく思っているはずがない。
そんな彼らが俺の妹を勧誘したのは、彼らは賢い人間だからだろう。
問題児の妹だから、という偏見を持たずに妹を妹として接しているのだろう。
もちろん俺自身、彼らのことが嫌いなわけではない。悪いのは基本的に俺なのだから。俺が嫌うのは筋違いというものだ。
「あの…兄さんってやっぱり問題児なんですか?」
「そうだなぁ…世間一般から見ればその部類に入ってもおかしくはない」
「それってやっぱり…」
朱里が少し落ち込む。まあ兄を悪く言われて悲しく思っているのなら、嬉しい限りなのであるが。
しかしどうもそれだけでは無いらしいな。
「生徒会、入るのか?」
「兄さんが嫌だって言うなら止めます!」
「いや、俺は生徒会は嫌いじゃない。好きにすればいいよ」
「兄さん…」
妹が生徒会に勧誘される理由も良く分かる。自慢じゃない…いや、自慢になってしまうのだが、妹はこの高校にトップの成績で入学したのだ。
そんな彼女を生徒会が放っておくはずがない。
「それにお前が生徒会に入れば、俺に対する対応も緩和されるかもしれないしな」
「兄さんは…今の生活、楽しいですか?」
「急になんだよ。俺にはお前がいるだけでももう充分だっつーの」
「い、いや…そういうことを言っているのでなくて…」
朱里の語尾がドモリ始める。さらに顔も俯いてしまう。
「学校生活、楽しいですか?ってことです」
「…俺には仁やタカ…穂に奏がいる。充分楽しいと思うぞ」
「…兄さん…」
俺は席を立つ。
「ご馳走様」
「あ」
俺は食器を流しに持っていく。面倒くさがりの俺がこんなことをするなんて珍しいものだ。
一体どういう心情の変化なんだ。
「に、兄さん…」
しかし妹は顔を赤くしたまま俺を見た。
何をそんなに恥ずかしがっているのだろうか。
「何だ?」
「ちゃ…チャックが…」
妹が俺のズボンの一部分を指差した。
「ほわぁぃ!!」
俺は意味不明な叫びをしながら自分のズボンの一部分を見た。
「アンビリィバボゥ!」
俺は慌ててチャックを引き上げた。
「アウチ!!イタイイタイ!!」
しかし思いっきり上げたためか、何かを挟んでしまったようだ。
「に、兄さん…大丈夫ですか?!」
妹が心配そうに床を転がりまわる俺に駆け寄る。
「すっげぇ痛い…」
「ど、どこが痛むんですか?!擦ってあげましょうか?」
「い、妹にそんなこと頼めるか〜〜〜!」
「え?で、でも…兄さんがやれっていえば…別にやっても…」
「ザッツオーライッ!!ホワット?!つうかなんで俺は英語もどきしゃべってんだ〜!」
転がりまわりながら意味不明な叫びを上げる兄と恥ずかしながら何やらブツブツ呟く妹。
こんなとこを誰かに見られたら俺達は確実に変人扱いだな…
「しょ、消毒しましょうか?!」
「ノンノンノン!アイムオーケー!アイムオーケー!」
こうして騒がしい夕食時は過ぎていったのだった。
キャラの登場量がハンパない気がする…