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最終話 不滅のブラザーフッド

ここまで読んでくださった大体12000人ぐらいの読者の皆様、本当にありがとうございます!!



リョウの声は朱里に届くのか?!

霞川悠の初作品、最終話でございます!

敏樹に朱里の居場所を言われた俺はホテルへと駆け出していた。

体力は使いきったはずなのに、不思議と体は疲れを感じない。

それほど今の俺は気力に満ち溢れていた。


「確か913だったな…」


俺がホテルに入ると、何人かが異様な目で俺を見る。

何せ俺はかなり泥だらけだ。こんな格好でビジネスホテルに入れば目立つに決まっている。

しかしそんな周りの目など俺は気にせずに、俺は朱里の元へと走る。


ドン


「キャッ!」


「す、すいません!」


途中こういう風に何度か人にぶつかったりもしたが、いちいち気にしていられない。

俺はエレベータに入り、9階を押す。

エレベーターガールはちょっと俺を見て退いている。

悪かったな。泥だらけで。


「9階でございまーす」


目的の階に到着し、エレベーターガールが用意されていたセリフを心の篭ってない声で言う。

それと同時に俺はエレベーターから出て913まで走る。

913は意外と近く、迷わずに着くことが出来た。


「朱里…」


呼び鈴を押す手が震える。

何で今怖がっている?!俺は決意したんだ…

俺は意を決してチャイムを押した。


ピンポーン♪


「はい」


中から朱里の声がした。


「俺だ。聞こえてるか朱里?」


「に、兄さん?!どうして…?!」


朱里が驚くような声を出したものの、俺は安心した。

何だかしばらくこの声を聞いてないと禁断症状が出てしまいそうだ。


「お前と話がしたい。開けてくれるか?」


「そ、それは…私、折角決意したのに…」


朱里が泣きそうな声になる。


「早く…兄さんから離れなくちゃ、って…」


「…」


大丈夫だ。朱里には未練がある。何とかして連れて帰らないと。


「だから…こんなタイミングで来られると…」


「なぁ…何でお前が出て行く必要があるんだ?」


「だって私…」


朱里の声に嗚咽が混じる。

こんな声を聞きに俺は来たわけじゃない。


「あのさ…ちょっと入れてくれるか?さすがにここで話すのは恥ずかしい」


「…」


朱里は無言になった。

…話を聞く必要は無いということか。


「ま、いいや。その代わり、俺はずっとここで待ってるからな」


「え…?!」


朱里の驚く声と同時に俺はその場に腰をおろした。

…いや、とても恥ずかしいんだけどさ。

だが、朱里の北海道行きは止められる。


「じゃ、俺、ずっとここにいるから。用があったら呼んでくれ」


「に、兄さん?!」


朱里は困ったような声になった。

声だけで表情が分かるほど俺は朱里のことが分かっていた。

そして、それからしばらくは無言の状態が続いた。


「あの…」


「何だ?」


それから数時間が経過し、朱里が俺に話しかけてきた。


「本当にずっといるんですか?」


「ああ」


朱里の心配そうな声が聞こえる。

無視しきれない妹の心情…か?


「面倒くさがりじゃないんですか?」


「そんな時期もあったな」


ついさっきまで。


「何で私のために…」


「それは…ぶえっくしょーん!うわぁ…汗で濡れちまったからな〜…」


俺は体を震わす。

汗で濡れた体が、冷房の効いたホテルと反応を起こし始める。


「に、兄さん…?!」


「ちょ…寒い…」


「…兄さん!!」


ついに朱里がドアを開けた。


「ちーす…ふぇっくしょーい!!」


「は、早くお風呂に入ってください!!」


「部外者が入っていいのか?…はっくしょーい!!」


「今からホテルに二人って言いますから!」


「お、おう…」


俺は朱里にバスタオルと着替えのバスローブを渡された。


「ちゃんと温まるんですよ?!」


「わ、分かってるって…」


何か突然朱里に主導権を握られてしまった。

俺は狼狽しつつも、妹の指示に従って風呂に入った。












「…兄さん」


俺がカーテンで仕切られた湯船の中に入っていると、朱里の声がそのカーテンの外から聞こえた。


「朱里…?」


カーテン1枚で仕切られた俺達。

しかも片方は裸。俺達はいまや兄妹というものではなくただの男女。


「な、なんだ?」


自然と声が上擦ってしまう。


「兄さんは私を連れ戻しに来たんですよね?」


「ああ」


「どうしてですか?」


「お前が大事だからに決まってるだろ」


俺は平然とそう言った。

その気持ちに嘘偽りなど欠片もないのだから、当たり前だ。


「でも兄さんは私と一緒に暮らしている理由を妹だからと言ってました」


「そ、それは…」


そういえばそんなことを言った気がしなくもない。


「今の兄さんには美鈴ちゃんがいます。私と兄さん…今そう呼ぶのは不適切かもしれませんが、兄妹じゃないんですよ?!」


「つまり、俺は妹としてお前を必要としている、ということか?」


「そうじゃないんですか?!」


朱里の声が興奮気味になる。


「俺が必要なのは「朱里」であって妹じゃないんだ」


「?!」


「俺は朱里自身に傍にいて欲しいんだよ。妹の朱里でも女の朱里でも幼馴染の従兄妹の朱里でもいいから、俺は朱里がいないとダメなんだよ…」


俺は心から言葉をつむぎだす。

それら全ては俺の本心を語る。


「大体な、美鈴と朱里は違うだろ?美鈴が帰ってきたからって朱里の代わりになると思っているのか?アイツ、心はまだ中学1年生なんだぞ」


「…兄さん」


朱里の声が震えてくる。


「だからさ、頼む。俺には大切な人達がいっぱいいる。その中でも朱里を一番失いたくないんだ…」


「兄さん…!」


俺は2年半前を回想する。

あの時俺は目の前で家族が死んでショックだった。

その後遺症のせいか、左足は回復の兆しを見せても心は回復しなかった。

ずっと閉じたままだった。だってこれから一人ぼっちなんだ。

そんなとき、彼女が現れた。

心が閉じた俺はそれが朱里だと気づかずに、ぼんやりと前を見ていた。


「涼平さん!大丈夫ですか?!」


意識が戻り、お見舞いに来た彼女は俺のことを心配し、気遣った。

そんな彼女が俺の目には映らない。

そして彼女はとある決意をした。


「涼平さん!涼平さん!…兄さん!!兄さん!!」


「あ・か・り?」


「兄さん」という言葉が俺を回復に向かわせた。

家族全員失ったというショックが緩和されたからだ。

この日から朱里は俺の妹を演じることになった。

苗字を変えるまでして。

そして俺は美鈴の記憶を朱里に書き換えた。

そうだ。俺をここまで立ち直らせてくれたのは朱里のおかげだ。

だからその分の感謝も込めなくては。


「俺、病院でのことを思い出したんだ。何でお前が妹だったのかを」


「それは…」


朱里が言葉を詰まらせる。


「あのとき、お前がいなければ、俺は心が壊れてしまったかもしれない」


そして俺は朱里に今言える精一杯の言葉を絞り出す。


「ありがとう。俺はまだお前に何もしていないんだ」


「ううん…そんなことはない…」


朱里が否定するが、俺の心が納得いかない。


「お前に俺の夢を見せる、お前を笑顔にする…今度は俺がお前につくす番だ」


「それって…!」


朱里は喜びに言葉を震わせる。

俺の言葉の意味を理解したのだろう。


「まだあのときの約束は有効だろ?だから俺の元に戻ってきてくれ!」


「兄さん!!」


すると突然カーテンが開けられた。

ちょっ!!俺、裸!!


「兄さん!」


しかしそんなことを考えている間に朱里は俺に抱きついてきていた。


「あ、朱里…」


「兄さん…」


朱里は泣いていた。でも悲しみの涙には見えなかった。

そして俺はそっと朱里を抱きしめた。


「帰ろう。俺達の家に…」


「はい…喜んで…!」













「朱里…」


朱里は疲れて眠ってしまっている。

あの後、俺が裸だったのに気づいた朱里は、急いでその場から出て行った。

顔を真っ赤にしていたのが印象的だった。

というか今まで俺達は同居というか同棲だったのか?!


「…まずい。これは仁には言えない」


俺は顔を手で覆った。

朱里とは兄妹だと思っていた俺は結構ヤバイことまでしちゃったんじゃないか?!


「う…」


俺は吐きたくなる気持ちになっていた。

というか今もそれだな。

シングルベッド一つしかない部屋に男女が二人…って意識するな!!


「くっそ〜」


俺は深夜一人で唸る。


「兄さん?」


「あ、悪い…起こしちゃったか?」


俺は朱里が俺を見ているのを見つめる。


「兄さんこそ、寝ないんですか?」


「いや…枕一つしかないし…」


「同じ枕で寝ればいいじゃないですか」


「いや…あのね…」


朱里はまだ俺のことを兄と意識しているのだろうか。


「大丈夫ですよ。何かあったとしても、私は怒りません」


「いや、そういう問題じゃなくてだな…」


朱里はちょうど心が弱っている。

それにつけ込んで「何か」をしてしまうのは俺のプライドが許さない。


「ふふっ。分かってますよ。兄さんはそんなことしませんもんね」


「ま、まあな…」


「でもこれで障害がなくなったんですね」


「障害?」


朱里が訳の分からないことを漏らす。


「はい、これからは遠慮しなくてもいいんですから」


「何のこっちゃ?」


俺は疑問符を浮かべながら、嬉しそうに笑う朱里を見つめたのだった。













「ええ?!行っちゃうの〜〜〜〜?!」


教室内に穂の声が響き渡る。


「ああ。やっぱり夢は諦めないのが1番だからな」


「そう。向こうでも達者でね」


「友達100人作るんだぞ?」


「お前ら…だから転校じゃねぇ!!」


俺はこいつらに怒鳴った。

何でこんなことになっているかというと、俺は地元のクラブチームの下部組織に入ることにした。

その際、入団テストとしてちょっと出かけてくるだけだ。

俺はこいつらと離れたくない。高校卒業までは。こいつらと一緒に卒業したい。


「ふーん…でもアンタ、昔と比べればメチャクチャいい男になったわね〜」


「これでまたモテモテね」


「お前ら二人は試合があっても呼ばん」


穂と奏は相変わらず俺をからかい続ける。


「でも!でも!お前と朱里ちゃんが義理の兄妹なんて〜〜〜〜!!」


「はぁ…」


仁は相変わらずバカで、タカは相変わらずドMでロリコンだ。


「リョウ、俺の紹介に悪意がなかったか?」


「気のせいだろ」


「か、鎌倉君!」


「おう委員長」


俺に委員長が話しかけてきた。


「向こうに行っても忘れないから!!」


「ここに勘違いしてる人が一人いるし!!」


委員長は相変わらず俺の成績面の面倒を見てくれる。

しかも時々家に来ては、美鈴の勉強も見てくれる。

何故か朱里と喧嘩することもあるんだけどね。


「リョウ君…私…」


「あ、彩華?!なんで泣くんだよ?!お前も勘違い?!」


木曽さん…今はフレンドリーに彩華だが、彼女との関係も良好。

勘違いしないで欲しいが、友達として。

彼女は結構強引で、今でも俺を家に連れてくる。


「リョウはいいわね〜。モテモテで」


「穂。最近のお前の発言には悪意を感じる」


「仕方ないわよ。穂も心の奥底に秘めた思いが…」


「な〜いな〜い!!」


…こいつ笑って流しやがった。


「あ、でも…0.0000000000001%くらいはあるかもねっ!」


「ほとんどねえじゃん」


「いや、あるのかよ、ってつっこめよ」


俺のツッコミはタカにうけなかった。

でもその訂正の意図は不明だ。


ピーンポーンパーンポーン♪


「こ、この音は?!」


俺は嫌な予感がした。


「2年の鎌倉涼平君。主に女性関係でいくつか確認したいことがあるので、至急生徒会室に向かいなさい。繰り返します――」


「繰り返すな〜〜〜!!」


俺はダッシュで生徒会室に駆け込んだ。

最近は鍛えているので、そこまで疲れなくなった。


コンコン


「鎌倉涼平です、入ります!!」


俺は暴力的に扉を開けた。


「やあ」


「さわやかな笑顔をしても俺は騙されない!!」


そこにはいつもと同じ笑顔の生徒会長と、いつもと同じ入り口付近に立つ風紀委員長、そして副会長の西岡がいた。


「というか女関係って何?!」


「ああ。それはウソ。君が早く来てくれると思ったから」


「ひどっ!」


いつもの腹黒さに俺は呆れる。


「鎌倉涼平。今日お前を呼んだのは文化祭を手伝って欲しいからだ」


「はぁ?」


風紀委員長が用件を伝える。というか俺は暇じゃない!

これからクラブチームの下部組織に行かないと…


「まあ詳しくは西岡さんに訊いて。提案者は彼女だから」


「また?!」


俺は西岡さんを見る。


「さ、サッカーで忙しい?時間あるときは…手伝って欲しいな…なんてね!」


「…わかった」


「い、いいの?!」


「ああ。暇だったらな」


こんな上目遣いでお願いされたら断れないだろうが。

俺は随分と行動的になった俺の性格を呪う。ま、悪くないけどな。


「じゃあ以上で帰っていいよ」


「…クラスの男子達の誤解を解くのに苦労しそうだ」


俺は小さくそう呟いて生徒会室を出た。














「ただいま〜」


「あ、お帰りなさい!お兄ちゃん!!」


帰ってくると美鈴がドタドタと俺の元へと駆け寄ってくる。

相変わらず精神年齢が低い。


「おう美鈴。ちゃんと勉強してたか?」


「う…」


「はぁ…」


美鈴は俺に似て勉強が苦手のようだ。これで今年ウチの学校に受かるのか…?

いやまあ数学はすでに俺と同じレベルまで上がったんだけどね。


「お帰りなさい、兄さん。敏樹さんから電話ですよ」


「おう、ただいま朱里。敏樹からとな?」


朱里は俺に受話器を差し出した。


「もしもし」


「もしもし。久しぶりだねリョウ」


久しぶり…公園でのマッチアップ以来だな。


「今日、クラブチームに行くんだろ?」


「まあな」


「ま、リョウなら大丈夫だな」


「プレッシャーかけるな」


「ははは。じゃ、朱里にもよろしく言っといて」


「ああ。じゃあな」


俺は電話を切った。つくづくあいつも過保護だな。

つうか俺の周りにはそういう奴らが多すぎるって。


「あ、兄さん!これからすぐに行っちゃうんですか?」


「まあな。もう準備は昨日したし」


すると朱里はキョロキョロと周りを見る。

そして誰もいないのを確認した。


「おまじないです」


「え?」


チュッ


俺の頬からそんな音が聞こえてきた。


「わっ!」


「あ…嫌でしたか?」


「いや…」


俺は少し照れる。今まで兄妹だったけど、今は義理だしな…


「むしろ気合入った。行ってくる」


「はい!兄さん、頑張ってくださいね」


「ああ。お前も何か…頑張れよ」


俺は言葉に詰まり、曖昧な言葉が出てしまった。


「ふふっ。何かって…」


「悪かったな」


「でも頑張ってください。私も自分の夢のために頑張ります」


「へえ…どんな夢なんだ?」


俺は素朴な疑問を返した。


「ふふふ。秘密です」


「そうか。ま、頑張れ。じゃあ行ってくる」


「はい、行ってらっしゃい」


俺は朱里に手を振った。


「美鈴!行ってくるからな!!」


「行ってらっしゃ〜い…」


苦しそうな美鈴の声。勉強で苦戦してるな。

俺は最後にもう一度朱里の笑顔を見てから出発した。






兄さん、私は兄さんのお嫁さんになるのが夢なんですよ?





<Fin>





















「日本か…久しぶりだな」


彼は久しぶりに踏んだ日本の土の感触を確かめた。

今まで欧州にいた彼にとっては懐かしいものだろう。


「じゃあ行こうか」


彼は傍らの女性にそう微笑んだのだった…



あとがきといいわけ?



まずはここまで読んでくださった読者の皆様、本当に有難うございます!


さて、これで最終話なのですが、納得しない人もいるかもしれません。例えば朱里とはどうなったのか?!とか、最後に出てくる二人とは?!とか。


しかし、霞川はここで敢えて終了とさせていただきます。霞川自身が納得している訳ではないのですが、これも一つの終わり方だと思いました。


それといいわけみたいなものですが、この小説は恋愛をメインテーマとしている訳ではありません。絆と兄妹愛をテーマにしています。なのでくっついて終わり、というのは不自然な気がしたのです。でもそれでは私自身が納得できる物ではありませんでした。作者自身、朱里にかなりの感情移入をしてしまったからです。そこで、この終わり方を取り入れました。本来はホテルのシーンで終わりでしたが、途中で変更いたしました。

ですが、敢えて最後の二人はリョウと朱里と明言しません。




さて、一応本編は終了いたしました。

しかし、実は番外編を執筆しています。

なので、次は番外編で会いましょう。


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