第23話 確かなものは暗闇の中
暗い題名ですが、ダークじゃないです
リョウの本気はいつ見られるのか…
今日はいつもよりさらに早い朝。
日曜日なのに…
だが今日は大事な用事があるから仕方がないかもしれない。
「おはよう朱里…」
「あ、兄さん。おはようございます」
リビングには普段と変わらぬ朱里が朝食を並べていた。
「おう…昨日は夜中にゲームもしなかったしな、体調も大丈夫だぜ」
「ふふっ。はい、今日は兄さんの好物のオンパレードですよ」
「おお!」
目の前に置かれているのは、ご飯とワカメと豆腐と油揚げの味噌汁、鮭のホイル焼きだった。
「今日は豪華だな〜。どうしてだ?」
「それは兄さんが久しぶり叔父さんに会うからですよ」
「確かに。2ヶ月ぶりだな」
叔父さんは最近忙しいらしく、先月は帰ってこなかった。
俺にとっては親代わりみたいなものなので、少し寂しかった。
「だから今日は存分に甘えてきてください」
「おいおい…子供じゃないんだから…」
俺はムッとしながらごはんに箸をつける。
「兄さん、いただきますは?」
「い、いただきます…」
妹に注意される俺って結構子供かもしれない。
「はい、どうぞ召し上がってください」
妹がニコニコしながら俺を見る。
…ん?何だこの違和感…
「な、なあ…俺達って…」
「はい?」
「いや…これ、おいしいな」
俺は朱里に重要なことを訊けず、結局黙り込む。
でも一瞬何かおかしかったんだ。
妹のようで妹じゃない感覚…
「変な兄さん」
しかし、朱里は気にせず自分も食事をする。
…俺、考えすぎたか?
でも一瞬だけ、朱里が消えそうな感覚が…
いや、そんな筈はないだろう。今もいつもどおりだ…
「じゃ、行ってくる。帰りは何時になるかわからないけど…」
「平気ですよ。じゃ、気をつけてくださいね」
「ああ…」
俺はそう言って家を出た。
確か正午に東京駅だったな。
俺はおじさんから送られてきた新幹線の切符を見た。
「よし、財布もバッチリ」
俺の東京行きの旅(?)が始まった。
新幹線に乗るのは久しぶりだ。
特に東京行きに乗るのはほとんど久しぶり。
最後に乗ったのは、中1の頃の家族旅行の帰りだ。
まあつまり3年以上前ということだ。
「あ・か・り」
俺は小さな声でそう発音した。
「み・す・ず」
さらに別の名前を小さく発音した。
結局このことについて朱里に訊くことが出来なかった。
否定されるのが怖かった。
「私は兄さんの妹じゃありません。兄妹ごっこはもう終わりにしましょう」
こうして朱里との生活が終わるのが怖かった。
いや、こんなことを朱里は言わないだろう。しかし、最悪な事態は常に考えておくべきだ。
「兄さん、さよならです」
そう言って朱里が俺から離れていくのは嫌だった。
ならば擬似家族でもいい。俺は朱里を手放したくなかった。
だから俺は朱里に訊かなかった。
「…これでいいんだよな?今度こそ…」
俺はそう物思いに耽っていたのだが、いつしかそれは寝息と共に消失した。
「東京、東京…」
駅内アナウンスが響き渡る。
とても久しぶりだ。東京は。
「着いたか…」
時刻は11時35分。余裕がある。
「あんまり待たせちゃ悪いからな」
俺は東京駅を出ることにした…
「って東京駅広っ!」
これじゃ東京駅のどこで待ち合わせか分からない。
俺は叔父さんにでんわをしようとしたが、その必要は無くなった。
「おーい!涼平くん!」
「叔父さん!」
俺が改札を出たところに叔父さんがいた。
「ごめんごめん…東京駅のどこで待ち合わせか言ってなかったね」
「そうですよ…」
「ははは…じゃちょっと着いてきて」
叔父さんはいつものようにおどけていたが、格好は正装している。
「俺に何の用なんですか?」
「大事なことだ」
「え?」
そのときのおじさんの顔が妙に真剣だった。
俺は黙って叔父さんの車に乗り込んだ。
「ところで学校の方はどうだい?」
「あ、はい。全て順調です」
「変な言い方だね…」
「すいません…」
でも確かに成績以外は全て順調だ。
「成績の方は?」
「うぐぐ…突然心臓が…!」
俺は胸を押さえた。
「…まあ留年しなければいいよ」
「はい!分かっております!」
優しい叔父さんだけにこの言葉はイタイ。痛すぎる…
少しは真面目に勉強しなければ…
「で、サッカーはやっぱり…」
「あー…それはちょっと無理っぽいですね」
「そうか…」
叔父さんは俺がサッカーをする姿を見てみたいらしい。
元々両親が健在だった頃は、叔父さんとほとんど顔を合わせなかった…気がする。
だから事故前の記憶はあやふやなんだよ。
「まあ別に悲観することはないです。あれは俺にとっていい経験になりましたから」
「そうか…出来ればそんな経験はしない方がいいんだがね…」
「あー…で、あの、用事って何ですか?」
俺は話をはぐらかすついでに本題に入った。
これが一番訊きたいことでもある。
「来れば分かる。そこに君の知りたいことがある」
「俺の…知りたいこと…?」
そして叔父さんは急に車を止めた。
前には重厚なシャッター。
「私だ。義子をつれて来た。開けてくれ」
叔父さんがそう言うと、シャッターが少しずつ開いていった。
何だここは?俺は突然のことに首を捻った。
「涼平君。ここがどこだか分かるかい?」
「いえ…」
俺には何か秘密結社に入っていくようにしか見えない。
叔父さんの仕事は海外を飛び回って…あれ?
俺って叔父さんの仕事の詳細を全く知らないぞ?
「そうだな…でも君はここに来たことがある」
「俺が?」
記憶の中を探しても、適合するものは何一つない。
それ以前に俺の事故前の記憶はあんまりアテにならない。
「じゃ、車を降りるよ」
何か地下駐車場みたいなところに俺は到着した。
一体ここってどこ?
「あの…ここって…」
「病院だよ。助かる見込みのない患者が入院する…ね」
助かる見込みがないのに入院するのか?
俺は首を捻る。
「君もここに入院していたんだよ」
「俺が?!」
でもそんな記憶はどこにも…
「君は命に別状はなかった。でもね、助かる見込みがなかったのは心だった」
「ココロ…」
俺は自分の心臓に手を当てる。
確かにお世辞にも俺は精神が強いとは言えない。
「家族を目の前で失ったのが辛かったか、君は心を閉ざしてしまったんだ」
「俺が…?」
「あ!院長!」
そんなとき突然後ろから声が聞こえた。
「ああ…桐嶋君」
その桐嶋という人は叔父さんを院長と呼んだ。
…って院長?!
「叔父さんってこの病院の院長だったんですか?!」
「ああ。言ってなかったっけ?」
「言ってませんよ!」
さっきまで真剣だったのに、またおどけてみせる叔父さん。
この人は本当に愛嬌があるな。
「あ、院長、その子が…」
「ああ。義理の息子だ。そして…」
「あの、叔父さん…俺って何でここに連れてこられたんですか?」
俺は至極当然の質問をした。
だっておかしくないか?何で今更?
まさか…まさか…
「俺ここで再入院させられるんですか?!」
「「…」」
俺の発言は大きく的を外れたようだ。
「あ…れ…?」
急に恥ずかしくなった俺は俯く。
「ま、まあいい…この部屋だ」
「この部屋が?」
俺は特別病棟204の札を見る。
残念だが、全然分からない。
「この部屋に何が…」
ドクン…
「?!」
俺の心臓が高鳴る。
何かを感じる…一体何だ?
「あ、開けていいんですよね?」
「ああ」
俺はドアノブに手をかける。
もしこの扉を開いたら何かまずい…そんな気がした。
でも俺は好奇心のためか、扉をゆっくりと開いた。
「あ、お兄ちゃん」
「?!」
ドアを開けたら随分と気の抜ける声が聞こえてきた。
しかし中にいたのは…
「み…す…ず?」
「うん。アタシ、美鈴。お兄ちゃんの妹の美鈴だよ」
俺の頭は真っ白になった。
次回とうとう大変な事態に…
敢えてここから何も言いません