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第21話 SISTER PHANTOM

あわや寝坊で掲載遅れるかと…(だが、いつもより遅い)



ここはやはり例の電車の中だろうか。

もう慣れっこだ。この光景は。見たくないけど。


「父さん…」


俺はいつものように瓦礫の下敷きになり、家族を探していた。

これは俺の記憶の中。何でこの部分は鮮明に覚えているのだろうか。

全く迷惑な話だ。


「母さん…」


しかしやはり俺の前には朱と紅しかうつらない。


「イタイ…イタイ…」


そんなとき、隣から声が聞こえた。

確かあれだ…そうそう、見知らぬ少女が俺に助けを求めて…


「父さん!母さん!助けて…!み―!」


「熱いよ…助けて…!」


隣の少女が俺に助けを求めていた。…が、何か違う。


「み――!み――!」


「お兄ちゃん…助けて…!」


俺は懸命にその子の名前を呼ぶ。

俺はこの子を知っている…?!


「しっかりしろ!み――!」


「お兄…ちゃん…」


少女は徐々に力を失っていく。

元々血だらけなので、限界が近かったのだろう。


「俺が…俺が助けてやるから!!だからしっかりしろ!!み――!!」


俺は自分の口の動きを確認する。


い・う・う…?


み・う・う…?


み・す・ず…?!


「美鈴!!美鈴!!しっかりしろ…美鈴!!」


思い…出した!!

俺の妹の名前は美鈴だ。

美鈴は俺の妹で、いつも俺にくっついていた。

何でこんな大事なことを忘れていたんだ…?

大事なことといったら朱里…

あれ?

朱里?

朱里って…誰だっけ?

俺の妹は美鈴。じゃあ朱里は?


「何だよ…これ…俺の記憶って…なんだ…?」


思い出せないのか?

それとも…初めから記憶になかったのか?

朱里…

俺は朱里の顔が思い出せない。

今まで朱里だと思っていた記憶が全て美鈴に置き換わっていた。

美鈴…朱里…

この二人は同一人物?

朱里の顔が思い出せず、それすらも叶わない。

どちらにせよ、この事故で美鈴が助かったとは思えない。

つまり、美鈴はこの世にいない。

ならば朱里=美鈴はありえない。

朱里と美鈴は違う人物。

ならばなぜ朱里は俺の妹なんだ?

分からない…!

俺が朱里とどこで会ったのか、事故前まで何していたかすら分からない…!

そうだ…昔のアルバム…

それなら美鈴と朱里が分かるはず。

だが…


「昔のアルバムの場所が分からない」


朱里はそう言っていた。

おかしくないか?

何でアルバムが無いんだ?

俺達は家族を亡くしたんだぞ?

なら時々両親を見たいとか思うはずだ。

なのに何故だ?

アルバムが無いんだ?

それとも無いのではなく、隠してるのか?

俺は疑心暗鬼になっていた。

今までの記憶が全て信用できない。何を信じれば良いか分からない。

そんな状態になっていた。

それともアルバムには俺が見たらまずいことでもあるのだろうか。

例えば朱里が写真に載っていない、とか。

…考えすぎかもしれないな。

だが…今まで呼んでいた「あかり」が急に呼びにくくなったのも事実。

「あかり」より「みすず」の方が口にするのが容易い。


「何だよそれ…」


俺の頭はパンクしそうだ。

一気に入ってきた情報の多さ、過去の記憶の改変。

そして現実に対する疑心。それら全てが俺を襲う。

おかしいんだ。

思えばこのときから。

どうして朱里は別の電車に乗っていたんだ?

この日は家族とピクニックに行く予定だったんだ。

なのになんで朱里は別の電車だったんだ?

俺の頭に最悪の考えが思い浮かんだ。





朱里は俺と何も関わりが無い他人…?





こんな考えはすぐに消すべきだ。

なのに消せない。俺はすでに疑っているのだ…朱里を。

でもそれはそれでおかしい。

何も関わりを持たない他人が俺と一緒に生活できるか?

俺の飯を作り、洗濯物や掃除まできちんとこなすんだ。





ただの他人が俺にここまでつくすだろうか?





そうだ、俺と朱里は何かあるんだ、接点が。

俺はそう信じたかった。

でも…俺の記憶は俺に何も答えてはくれなかった…
















気がつくと、目の前が真っ白だった。

さっきまで朱と紅のコラボ色だったのに。


「兄さん!!」


泣き出しそうな少女が俺の目の前に現れた。


「えっと…」


あれ?名前が出てこない。彼女の名前は…


「もう…朱里ちゃんずっと心配してたのよ!!」


穂が俺に口を尖らせる。こいつもそれなりに心配していたということか。

…と、いうか朱里…?


「そうだよ…朱里だ…」


「え?」


何でこんなことを忘れてたんだ?

朱里は俺の妹で…妹?そうだったっけ?


「なあ朱里…」


「なんですか?」


「…いや、何でもない」


ここでお前って誰?質問は出来ないだろう。


「ごめんなさい…」


「木曽…さん…」


そんなとき、シュンと項垂れた彼女が俺の元にやってきた。


「私があんなことをしたせいで…」


「いや、違うよ。俺の持病みたいなものさ…」


俺は項垂れる木曽さんを慰める。

というか彼女のせいですらないしな。


「ところでリョウ。何で木曽さんの家にいたのかしら?」


「い…!」


奏が俺に矛先を向ける。

そういえばそうだ。この弁解をしなくては…


「お前って奴は〜〜〜〜!!くっそ〜〜〜〜!」


「仁、病院では静かにしろ」


妙に悔しがる仁とそれをなだめるタカ。

そうだ、これがいつもの光景。何もかも元通り…


「で、お前が何で女の家にいたんだ?」


「いや、普通に入れられた」


「何?!挿れただと?!」


「仁、お前は少しモラルを学んだ方がいい」


仁のこの発言にさすがの木曽さんもちょっと退いている。

こいつもこれがなければ単なる騒がしい奴…いや、それって結構微妙…


「でも兄さん良かった〜。私、すごく心配したんですよ!!」


「そうだったのか。悪いな美鈴」


「え…」


「あ」


何もかも元通り?

そんなわけない!この問題が残っている!

彼女の悲しみの顔が俺の心に響く。

何で彼女は悲しい顔をしている?

俺は心が妙に痛んだ。


「ご、ごめん…俺、急に何言ってるんだよ!まったく…実際の妹と「ギャルゲー」に出てくる妹を混同するなんて超恥ずかしいぜ!」


「え…アタシ的にはそれを口で説明するアンタの方が恥ずかしいんだけど」


俺の発言に穂を始め、いろんな奴が退いていた。


「美鈴という妹が出てくるギャルゲー…」


仁だけは頭の中身から俺の言った「ギャルゲー」を探していた。

お前、それは超迷惑。


「悪い悪い…やっぱ病み上がりだからかな〜」


俺がそう軽い調子で言うと、みんな笑った。

ただ一人、無理に笑っていたのに俺は気がつかなかった。




とうとう終わりが見えて…


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