第20話 愛のままにわがままに
(リョウ+奏)÷2=作者
↑どうでもいい方程式(テストには出ません)
…何でだ?!
俺は一つ疑問に思ったのだ。
「朱里、最近暗くないか?」
「そうですか?」
朱里が俺をキョトンと見る。
「いや、何もないならいいんだ」
俺は一応そう言ってみたものの、疑念は残る。
朱里は東京から帰ってきた日から様子がおかしかった。むこうで何もなければいいんだが…
「あ、そういえば兄さん。向こうで敏樹さんと会いました」
「敏樹と?!」
敏樹というのは俺と朱里の幼なじみで、平泉敏樹という。ちなみに俺と同い年。
東京では俺達と仲が良かったが、中学に上がった時、敏樹は北海道に引っ越ししてしまった。
なので、もう5年ほど会っていない。そういえばあいつも俺と同じくサッカーをやってたな…
「と、いうことは敏樹は東京に帰ってきてるのか?!」
「あ、その…何か用事で…」
朱里の言葉が詰まる。これは大抵俺への気遣い。つまり、用事とはサッカー関係なのだろう。
「そうか」
朱里の元気の無さと敏樹は何か関係があるのだろうか。
俺の覚えではこの二人は結構仲が良かった気がする…というかうろ覚えなんだけど。
何せ事故前の記憶はあやふやで、敏樹の顔も思い出せない。
「そういえば兄さん、もうすぐ文化祭ですね」
「ああ…そういえば…」
ウチの学校は年に2度も文化祭がある。
もともと郊外にあるウチの学校は、文化祭でもしない限り盛り上がりがない。
それに、年に2度という話題性で観光客を呼ぶ魂胆…なのかもしれない。
いや、後半は憶測入っちゃってるけどさ。
「どっちにしろ、俺には関係のないイベントだな」
俺は味噌汁を一気に啜った。
「私は生徒会の仕事があるので…」
「ああ。俺はいつもどおり仁や穂たちとつるんでるさ」
そう言って俺は朱里が準備出来次第、学校に行くことにした。
「おはよう鎌倉君!!」
「どわぁ!委員長?!」
教室に入ってきて早々に委員長に挨拶された。
こんなことは初めてだ。
「何でそんなに驚くのよ」
「いや、何でもないです」
そういえば俺ってこの間委員長に告白されたんだっけ?
そんなこと忘れるんじゃね〜〜〜!!
俺は少し頭を抱えつつも、疑問に思う。どうして俺なんかを?
俺なんていいところ一つもない男だぞ?
「おはよう!リョウッ!」
パーン!!
「イッテェ!何しやがる穂!」
そんな俺に背中を思いっきり叩く、ヴァイオレンスな挨拶をしてきた穂。
「何って決まってるじゃ〜ん。朝の最初の挨拶を委員長に取られたアタシが、嫉妬の炎をメラメラと燃やしつつ、それでもやっぱり繊細な乙女心はリョウを一途に思い…みたいなのに決まってるでしょう?」
「まずお前に乙女心は無いので、そこで論理は破綻だ」
「し、しまった…って何言ってやがんのよ!!」
バチーン
「イダッ!!」
今度は俺の背中を2割増で叩いてきやがった。
「な…壇之浦さん!鎌倉君がかわいそうですよ!」
何故か両手で俺の前に立ち塞ぐ委員長。
俺のことを守ってるつもりなのか?
「あら委員長どうしたの?」
「ちょっと鎌倉君に対する仕打ちがひどすぎますよ!」
「仕打ちってねぇ…リョウはドMだから平気なのよ」
「オイ。俺はタカじゃない」
さり気なく出てきたタカの名前。タカは憐れにも「タカ=ドM」が俺の頭に無意識に成立されてるようだ。
「そ、それでもひどいです!」
それでも、ってだから俺はMじゃないから。
「へぇ…毎日放課後にリョウと二人っきりで秘密の授業をしている委員長は違うわね〜」
「な…!!」
「おい穂。お前、わざと誤解させるように言っているだろ」
「わ、私と鎌倉君はそんな変なことしてません!!」
あー。委員長、それは穂の思う壺だぞ。
「ほっほう?委員長、変なこととはどういうことかのう?」
穂が勝ち誇った笑みを浮かべていた。
「そ、そんなこと…」
「何を想像したのかな〜?委員長は」
穂…お前、意地悪すぎ。というか奏すぎ。
「まさかあれですか?禁断の授業ってやつ?「委員長、ちょっとわかんねえトコがあるんだ」「どうしたの?鎌倉君」「俺の下半身の鼓動が収まらねえんだ」「え?」「委員長、教えてくれ。どうすればいいんだ?」「私が体で教えてあげます」みたいな〜!アハハハ!!」
こいつ、女を完全に捨ててやがる。脳内が完全にエロオヤジだ。
「わ、私と鎌倉君は…清く誠実な関係で…」
委員長、その言い方は何か変だぞ。
「リョ、リョウ君と委員長って…そんな関係なの…?!」
「へ?」
いつのまにか隣に座っていた木曽さんが俺を信じられないような目で見る。
多分この「関係」は清く誠実な「関係」ではなく、禁断の「関係」を指すのだろう。
「リョウ君…不潔…」
「違う違う違う!俺は委員長に放課後、勉強を教えてもらってるだけだ!!」
「ええ?!そんな関係なの?!」
何でそこでも驚くんだ?
木曽さんも随分挙動が不審になったものだな。
「いっつも放課後は二人っきりなの?!」
「い、いや…勉強を見てもらってるだけだから全然普通で…」
「ずるい…委員長ずるい…私だって…私だって!!」
何だ?私だって勉強教えられるのに!か?
そういえば何度か勉強教えてあげようか?とか訊かれたな。
「リョウ、モテモテね」
「奏…」
今度話しかけてきたのは奏。そういえば今日は女子にばかり話しかけられるな。
「タカは一緒じゃないのか?」
「タカは藤原先生に用があるらしいわ」
「藤原先生に?タカが寝取られないか心配しないのか〜?」
俺は意地の悪い質問を奏にした。
たまにはこういう仕返しも悪くないだろ?
「心配ないわ。あんな年増がタカを堕とせるわけないわ」
「お前、仮にも担任なのに…」
しかしこれで決定した。タカはロリコンだ。
「それよりもリョウを取られそうで心配だわ」
「はぁ?」
奏は俺を真剣な目で見つめた。
「だって私、リョウのことが好きだから」
「…は?」
一瞬風が吹いた気がした。
この奏がこういうことを真剣に言う。つまりこれは…
「タカの次くらい…か?」
「リョウ、分かっているじゃない。これでも昔はドキドキしてたのに」
「当たり前だ。お前のそういう発言には慣れた。それにお前は完全にボールゾーン…まあ敬遠球ゾーンだ」
「人を胸で判断するなんてひどい人ね」
「してねぇよ!…あんまり」
すいません。ちょっと思ってました。
「なら穂はストライクゾーン?」
「いや、あいつは…女として見たことないから」
「そう?でもあの胸は反則でしょ?」
「い、いや…まあ…」
穂は全然女らしくないくせに、胸だけは立派に女だ。
何か悔しいぜ。これでも時々ドキッとするんだぜ、畜生。
「リョウは巨乳好きキャラでこれからいくのね?」
「いかねぇよ!いきなり訳わからねぇよ!」
朝から疲れさせるな。もう授業受けずに帰りたい。
キーンコーンカーンコーン♪
今日最後の授業が終了した。
普通は皆、喜んで帰る準備をするものなのだが、俺は違う。
「うう…今日は帰りたい…」
俺はため息を吐いた。そう、さっきから話に出ているが、俺は毎日放課後に委員長に勉強会をさせられているのだ。
今日は朝の出来事の所為か、疲れとダルさがピークに達し、正直やりたくなかった。
「リョウ君…私にいい考えがあるの」
「え?」
俺に話しかけてきたのは木曽さんだった。
最近では俺を下の名前で再び呼ぶようになり、もう気まずい空気はなくなっていた。
そんな彼女が俺を気遣うように話しかけてきた。
「私に任せて。だからリョウ君は裏門で私のことを待ってて」
「え?いいのか?」
「私に任せれくれれば大丈夫。私を信じて」
「あ、ああ…ありがとう」
俺は心から木曽さんに感謝した。
この人は友達としてなら頼りになる。
俺は帰りのHRが終わった後、速攻で裏門まで向かった。
「あ、鎌倉君!!」
後ろから委員長の怒号が聞こえた。
…本当に大丈夫か?
「おまたせ」
「あ。木曽さん…」
木曽さんは俺に遅れること数分でやってきた。
「どうやって委員長を納得させたの?」
「まあいろいろとね」
「?」
わざわざ含みを待たせる言い方に俺は首を捻る。
でもまあ成功したみたいなので、何も言わないことにする。
「じゃあ行きましょう?」
「へ?」
俺は黙って木曽さんに付いていくことになった。
それにしても、こうして二人で歩くこととかあまり無いんだよな…
「はい、私の家に到着!」
「はい?」
そしていつの間にか木曽さんの家の前に俺達はいた。
一体どういうつもりなんだ?
「ここが私の家。覚えてね」
「は、はぁ…」
「基本的にいつでも歓迎してるから。さ、入って入って」
「え?え?」
俺は木曽さんに押され、家の中に入れられてしまった。
「私の家にようこそ」
「は、はぁ…おじゃまします?」
俺は木曽さんの真意が理解できずに混乱した。
しかし木曽さんはずっと上機嫌のようだ。
「でもいいのか?親とかの許可とか…」
「今日ウチ両親いないの」
「え…」
俺は一気にドギマギした。それって…ねぇ?…って何考えているんだよ俺!
木曽さんは単なる友達だっつーの!
「さ、私の部屋はこっちね」
「へ、部屋?!」
何でこんなことになったんだろ?
俺は為されるがまま、部屋に入れられた。
というか木曽さんってここまで強引だったかな…?
「じゃあ今からお茶持ってくるからここで待ってて」
「は、はぁ…」
俺は情けない返事しか出なかった。
俺にここで待てと?
木曽さんは上機嫌に部屋を出て行った。
「…状況が理解できぬ」
俺は木曽さんのベッドの上に座った。
ベッドは妙にふかふかしていた。それに何だかいい匂いもした。
「…あまりこういうこと考えると仁になってしまう」
俺はあまりベッドを意識しないようにした。
そしてふと窓を見るとプリクラが貼られていた。
「このプリクラは…」
俺と木曽さんが写っているプリクラ。
俺の家にもある。こんな昔のものをわざわざとっているなんて…
俺も人のことは言えないか。
「お待たせ」
「あ」
そのとき、木曽さんが部屋に入ってきた。
「ごめんね。コップ一つしかなくて」
「へ?」
お盆に乗せられたものは、二つのストローが刺さった、麦茶の入った大きいコップだった。
「い、いや…これは…」
「遠慮しないで」
「いや、遠慮とかの問題じゃ…」
これを飲めと?木曽さんと二人で?
メチャメチャ緊張するがな!
「何?緊張してる?」
「い、いや…そんなことはないよ」
何強がってんだよ俺!白旗揚げれば済むことだろうが!
俺は自分の発言を悔いた。
「あ、でも…嫌だったら…やめるから…」
「え?」
「だって…」
そんな木曽さんが急に落ち込み始めた。
俺のハッキリしない態度が原因だろう。
俺は少し考え、意を決した。
「大丈夫。俺、麦茶をすごく飲みたいんだ!」
俺は急いで麦茶を啜った。
とにかく木曽さんが飲む前に俺が全部飲めばいいんだ!
そうすれば万事解決だぜ!
俺はチラリと前を見る。
「!!」
そこには俺と同じ麦茶を啜ってる木曽さんがいた。
「な、ななななな…木曽さん?!」
「何?」
木曽さんは全然平気のようだ。
というか俺のことを男としてみていないなら当然か。
「木曽さんは嫌じゃないの?」
「そんなわけないよ。むしろ嬉しい」
「はい?」
ちょっと待とう。俺は去年のことを思い出した。
この人は友達としての俺を求めてるんだよな?
ならば俺は今から男を捨てなくてはいけない!
「そうか。分かった。それなら俺も遠慮なく」
俺は心を閉ざし、全ての感覚を閉じた。
これで何も意識することは…
ズルルルル…
「「あ」」
いつの間にか麦茶がなくなった。
「もうなくなっちゃった…」
木曽さんは残念そうにしていた。
やっぱり俺が飲みすぎたせいか?
「あ、あの…」
「ねえリョウ君…」
「な、何?」
何だか急に色っぽい声を出した木曽さん。
「今日ね、両親帰ってこないの」
「う、うん…」
それは分かっている。というか繰り返さないでくれ。
「だからここで何しても誰も分からないの」
「そ、そうなんですか…」
俺は平静を装って言った。
「リョウ君…彩華…って呼んで」
「え?え?」
「友達ならそれが普通でしょ?」
確かに穂や奏は呼び捨てで呼んでいた。
でもこの人を名前で呼ぶのは…
「そ、そうだけど…」
「呼・ん・で?」
「う…」
そんな上目遣いで見つめられると呼ぶしかなくなるじゃないか…
「わ、分かった。呼ぶから…」
俺は息を大きく吸った。こんなに緊張するのは多分今の状況のせいだろう。
「…彩華…」
「…リョウ君。キス、しよっか?」
「へ?」
木曽さんが俺に近づいてくる。
特に唇が。そこについつい目がいってしまう。
というか友達同士でキスはこの人にとってありなのか?!
「ま、待って…」
しかしドンドン近づいてくる。
俺の鼓動が徐々に高鳴る。
ドクン…
ドクン…
俺の頭がパンクしそうだ。まるで割れるような…え?
「ぐうっ!!」
俺は頭をを抱えた。
「え?!」
木曽さんがハッとなって俺を見る。
「な、ん、で…」
左足も急に痛み出したので、これはあれしかない。
フラッシュバックだ。
「ああああああ!!!」
俺は頭を抱えながら木曽さんのベッドの上を転がる。
「大丈夫?!救急車呼ぼうか?!」
呼ばなくていい…
俺のこの心の声は木曽さんに届かなかった。
彼女が携帯で119をかけたのをうっすらとみながら俺は意識を失ったのだった。
あ…あ…朱里…
泣きたくなった次回。