第19話 雨だれラブ
また一つ、物語が動くも、委員長が…
小説を書く大変さを知った
外は雨。ていうかもう梅雨入りしているので普通かもしれない。
ああ…憂鬱だ。いや、熱いよりはいいかもしれないが。
熱いと嫌な記憶を思い出してしまうから。
「今日は雨か〜…」
穂もいつもの元気が無い。
「お前も雨はダメか?」
「うん。何か昔の嫌なこと思い出しちゃうのよね〜」
穂は小さくため息を吐いた。
いつもにぎやかなだけに、違和感がすごくある。
「そういうものか」
俺も窓の外を見る。確かに晴れる気分がしない。天気も心も。
「ま、まあそんなジメジメすんなよ!もっと明るくいこうぜ!」
仁がそんな俺達を見て口を挟む。
「「はぁ…」」
それを見て俺達は同時にため息を吐いた。
「何で雨よりも俺を見たときの方がため息が大きいんだよっ?!」
「「仁だから」」
「ひどいっ!ひどすぎるっ!」
仁の目が潤み始めた。
しかし俺達の知ったところではない。
「あら?二人とも雨は嫌い?」
「奏…」
そんなときに彼女が俺に話しかけてきた。
「濡れるの、私は嫌いじゃないけど。ね、タカ?」
「カナ…俺に何て答えろと?」
タカ、お前は幼女に言葉責めでも何でもされてくれ。
「俺も雨は嫌いじゃないぜ!むしろ大好き!!」
へこたれない仁が復活の狼煙を上げた。
「制服が透けるから、でしょう?」
「ガーン!先に言われた…」
奏も容赦の無い奴だな。まあそれが彼女のいいところなのかもしれないが…
ん?いいところ?俺、今、タカ、化、しなかった、か?
読みにくい文章ですいません。
「何はともあれ、今日の外体育は中止だな」
仁が残念そうに言う。
「今日から俺の華麗なシュート見せられると思ったのに…」
そうだ、今日から外でミニサッカー(フットサルみたいなもの)なのだ。
ちなみに去年はハンドボールなので、サッカーを学校の授業でやるのは今日が初めて。
しかし見事に中止。まあ俺的には全然オッケーなのだが。
「あ、サッカーで思い出した…実はね、噂になってることがあるんだけど…」
「は?」
そんなとき、突然穂が声を小さくして俺達に話しかけた。
「何かこの町に昔有名だったサッカー選手がいるらしいんだけど」
俺の心臓が再び跳ね上がる。まさか…俺のことか?!
いやいやそれはさすがに自意識過剰というものだ。
「へぇ…名前は?」
タカが何気なく訊く。
「そこまでは知らないんだけど…」
「はいは〜い!実は俺で〜す!!」
「それはないわね」
「グガーン!!」
奏に再び仁は斬られた。斬られても斬られても立ち上がってくる…こいつは何者だよ。
俺は興味なさげな素振りをした。
「アンタ珍しいわね」
「はぁ?」
しかし突然穂に話しかけられ、俺はびっくりした。
「いつもなら信憑性ゼロだなみたいなこと言うじゃない」
「そうか?」
あれ?俺ってそういうことを言っていたっけな?
俺ってなんだ?俺らしくってどうすればいいんだっけ?
「まさかアンタ…」
「な…!」
気づかれた?!穂なんかに?!
「憎まれ口叩くのも面倒くさくなったんでしょ!!」
「…だ、だよな…」
「はぁ?」
「いや、気にするな。俺の早とちり」
正直メチャクチャ焦った。こいつらなら大丈夫だと思うが、それでも心配だ。
俺の昔の肩書きは、同級生や先輩と相性を悪くする一種の呪いであったから。
「鎌倉君!!」
「げぇっ!委員長!」
「今、げぇっ!って言ったでしょ!どういう意味?!」
「いや、何でもない。それで何ですか?」
何故いつも敬語になる。
ていうかもうこのネタ3回目やないか。
「明日までの数学の宿題、やった?」
「…今日か明日やるつもりだ」
あくまでつもり。予定である。
まあ予定だから決定ではない。つまり…いや、長くなりそうだからいいや。
「そうやってまたやらないんでしょ!」
「決め付けるな」
「今までそう言ってやった?」
「…」
委員長の言うとおり、宿題の期間内提出率は未だにすこぶる悪い。
それでも全てを提出している。
「でしょ!今日は私と放課後残って勉強会よ!」
「はぁ?!」
俺は驚きで声を大きくする。
何でそんなに面倒くさいことをしなくちゃいけないんだ?!
「お前らも何か…っていねぇし!!」
いつの間にか仁たちが消えていた。
あいつら…後で覚えてろよ。
キーンコーンカーンコーン♪
「うわぁ…面倒くさい時間のスタートだ…」
とうとう鳴ってしまった。今日、最後の授業終了の鐘が。
これから地獄の時間がスタートするんだぞ?
「さ、帰りのHR終わったら…分かっているでしょう?」
「…」
しっかりと委員長に釘を刺された。
俺は面白い性格で、逃げるのも面倒くさいため、結局残ることにした。
「その前に一つ訊いてもいい?」
「何?」
俺は勉強会とやらが始まる前に委員長になにやら質問をされた。
「この間、中間試験の結果が返ってきたでしょ?」
「ギクッ」
「どうだったの?」
「うぐっ…」
そんなもの思い出したくないに決まってるだろ。
「また赤点ばかり?!」
「い、いや…現国と政経だけは…」
現国45点(平均以下)、古典20点(赤点)、数学(2)4点(超赤点)、数学(B)3点(超赤点)、英語33点(赤点)…う、吐き気がしてきた…
「それってやばいじゃない!!」
委員長が机をバン!と叩いてきた。
「嫌よ、私あなたと違う学年になるの!」
「何で?」
「そ、それは…そ、そうよ!私のクラスから留年生なんて出たら私が何か言われそうじゃない!!」
そうか?つうかなんかクラスが自分のものみたいに言ってるし。
それにそんなこと言うならクラス委員なんてやらなきゃいいじゃん。
と、いった台詞を俺は言わず、頷いた。言うとメンドイことになりそうだしな。
「で、俺は何すりゃいいの?」
「と、とりあえず…一番苦手な科目は何?」
「数学」
即答。というか数学以外だったら自分で勉強して何とかなりそうだ。
「そ、そうなのね…じゃあまず数学を勉強するわよ」
「へいへい」
俺はやる気なさげに返事した。
委員長がキッと睨んできたが、俺はその視線を受け流した。
「じゃあ、まずは展開公式の復習ね」
「…」
俺は去年の範囲の復習からさせられた。
眠くなるぞ、こりゃ。
「いい?ここはこうして…」
「…」
「その後にこれをこうして…」
「…」
「それでこれがこうなって…」
「…」
「そして…聞いてる?」
「グー…」
パチン
「うわあ!!」
突然の頬の痛みに俺は目が覚めた。
「せっかく私が教えているのにその態度は何?!」
「いや、頼んでねぇし」
俺は声を荒くして返した。
はたかれた怒りと寝起きの機嫌の悪さが合わさった感じ。
「でもこのままじゃ本当に留年しちゃうわよ?!」
「お前には関係ないだろ!」
「だって私はクラス委員で…」
俺は初めて、委員長と喧嘩していた。
元々面倒くさがりの俺がこんなことをする自体驚きだが。
「クラス、クラス…ってさ、何?俺はアンタの命令に従わないといけないのかよ?!」
「そうじゃないけど…!!」
「大体お前ってお節介なんだよ!お前って俺の何?お前と俺なんて大した関係でも無いだろ?!もうほっといてくれよ!!」
「ほっとけるわけないじゃない!!」
「何でだよ?!」
「あなたが好きだからに決まってるじゃない!!あ…」
その瞬間委員長の顔が真っ赤に染まっていく。
今この人、何て言った…?
「い、今のは…その…」
「…俺が好きならさ、少しは俺の好きにさせてくれないか?」
俺は速くなる鼓動を抑えるように平静に言った。
「え?」
「今のは…聞かなかったことにしておく」
「え?それって…」
俺は自分の言った言葉の意味を良く理解せずしゃべってしまった。
「だから…って何で泣くんだよ!」
「嫌いなら…嫌いって言えばいいじゃない!!」
涙ながらに委員長が俺を睨む。
「いや、だから…」
俺はいい言葉が見つからず、狼狽する。
まさか委員長が泣くとは思ってもみなかった。
「分かったわよ…もうあなたに何も言わない!これでいいんでしょ?!」
これでいいのか…?
これが俺の望んだことなのか?
彼女を泣かすのが俺の望んだことなのか?
違う!
俺はこんなことなんて望んじゃいない。
「よくない」
「はぁ?!何言ってるの?!私もう帰るから!」
委員長が帰りの支度を始める。
「待て!話はまだ終わってない!」
俺は委員長を呼び止める。
「もう終わりでしょ?!いい加減にして!しつこいのは嫌われるんでしょ?!」
こいつ、そんな昔のことを今でも…
「俺はお前に泣いて欲しくない」
「え?」
「お前が泣くぐらいなら俺は我慢する。だからもう泣かないでくれ…」
俺はこんなセリフを言うような男だったか?
人の気遣いをするような男だったか?
わざわざ自分から人と関わりを持とうとする男だったか?
「そ、そんなこと言っても…許してあげないんだから…」
とは言いつつも、委員長の口調は前より穏やかになっていた。
「許さなくてもいい。でも…泣き止んでくれないか?俺のことなんか嫌かもしれないけど…」
「ずるい…ずるいよ鎌倉君は」
「え?」
委員長はまた何か怒ってしまったようだ。
まさか逆効果だったか?!
「そうやって優しくして…フッた女に優しくして…残酷だよ…」
「ゴメン…俺は一度得たものを失いたくないんだ…」
何だかんだ言いつつも、委員長と俺は接点を持っていた。
俺が委員長を恋愛対象として見ていなくても、俺にとって委員長はいつの間にか俺の境界線の中にいた。
「…何それ…私を好きじゃないけど、ずっと友達でいてくれ、そういうこと?」
「…そういうことになっちゃうかもしれない。ゴメン」
俺は委員長に謝った。
「…本当に残酷な人。でも…私だってそう簡単に嫌いになれないんだから…だから絶対に諦めないんだから…!」
「え…」
委員長は俺に向かって人差し指を突きつけた。
「私を泣かした罪は重いんだから!絶対にあなたを振り向かせて見せる!覚悟しなさい!」
「え…?!」
何だこの想定外の事態。俺ってこんな奴だったか?とか委員長はこんな人だったか?みたいなことをもう一度考えてしまいそうだ。
「じゃあ次は因数分解ね!」
「マジですか…」
これで…良かったのか?
俺はその日、委員長のスパルタ指導に耐え続けた。
全然甘くないひとときであったのは間違いない。
―都内某病院―
「院長!」
慌てた声で院長を呼ぶ医局員の声が廊下に響く。
「何事だ?」
「彼女が…彼女が…!!」
「また目を覚ましたのか?!」
院長の声は興奮していた。
「いえ、それどころではないんです!!」
院長がその言葉に首をかしげた。
「彼女が…病室から消えました!」
「何だと?!」
彼女のどこにそんな力が残されているというのだ?!
ついさっきまで寝たきりであったのだぞ?!
「…院長、どうしますか?」
「…ここは特別な病院だ。院内を抜け出しても鉄柵がある。ここからは抜け出せん」
「はい、ではすぐに彼女を保護します!」
医局員は急いでみなにこのことを伝えに行った。
「彼女は…何かやらねばならぬことでもあるのか?」
院長は人間心理について少しの間考えた。
ときに医療は科学で証明できぬものがある。
これもその一つ。彼女の体はボロボロで、もう起き上がれないはずだ。
だが…
「これが…情なのか…」
院長は亡き友人に問いかけるような声でそう呟いた。
次回は暗転するそうですが、ラブコメみたいな暗転?
いやいや気にしないでください。