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第9話 ありがとう

ありがとう、この言葉は素晴らしい言葉ですよね。


※このおはなしはフィクションです。

体育館の中が騒がしい。

まあ今は体育中だからな。騒がしくないとおかしい。

ちなみに内容はバスケットボール。もちろん男子全員参加なので、俺も参加。

何気に体育はかなりダルい。だって疲れるからな。


「あ、リョウ、こんなところにいたのか。もうすぐ試合だぞ」


「マジかよ…」


バスケってかなり疲れるんだよな…

俺はあくびをしながら仁の後ろを付いて行った。









俺が足の異変に気づいたのは試合中のことだった。

何故か突然俺の左足に激痛が走ったのだ。


「!」


俺はその場に蹲る。震える左足を押さえながら。


「お、オイ!リョウ!大丈夫か?!」


「リョウ!」


タカと仁が俺の元へ駆け寄ってくる。

かなり心配そうな顔をしている。


「だい…じょう…ぶだ」


俺は途切れ途切れに呟く。一体どうしたというんだ?

こんなこと…今までなかったのに。この前の夢のせいか?

あの事故で確かに俺は左足をかなり痛めた。いや、神経、靭帯、骨のすべてを損傷し、後少しで左足を断裂しなければいけないところだった。

しかしそんな昔の傷がどうして…完治はしなかったものの、痛みなんてとうに無くなったはずなのに…!


「全然大丈夫じゃねえよ!保健室だ!保健室!」


「俺の肩を貸してやるよ!」


タカと仁が俺に肩を貸して保健室まで歩いていく。


「悪いな…」


「気にするなって!」


「友達だろ」


俺は二人の好意に甘えることにした。

人騒がせな左足だな…。俺は左足を睨む。俺の夢と希望を奪った左足を…









「しばらく安静にしてなさい」


「はい」


保健室の先生が俺に冷たく告げる。

この人も俺のことをよく思っていないのか。


「それにしても腫れてもいないのに、何?サボリ?」


「本当に痛かったんです」


「まあ一応生徒の言うことは信じないとね」


保健室の先生はそう嫌味を言って俺を視界から外し、何かの書類を見始めた。

そして俺は近くのベッドの上で横になることにした。


「…」


ガラガラ


そんなとき、突然保健室のドアが開けられた。


「兄さん!」


入ってきたのは良く知る人物。俺の妹、朱里だった。


「朱里…」


「こら!保健室は静かにしなさい!」


「あ、すいませんでした」


朱里がペコリとお辞儀をする。

こういうところが本当に出来てるんだよな。


「全く…人騒がせな兄で困るでしょ?」


「いえ…そんなことは」


朱里が先生から視線を外して俺を見る。


「で、どこが痛むんですか?」


「痛んでいるのかどうかすら怪しいけど?」


しかし返答は俺の口ではなく、先生の口であった。


「私は先生に聞いていません。兄さん、どこですか?」


朱里の声は冷たい。


「ちょっ…!」


朱里の豹変ぶりに俺のほかに先生も驚いた。

まさか朱里が先生にそんな口を聞くなんて。


「朱里…お前…」


「鎌倉さん、聴き間違えかしら?今私に…」


「先生。少し黙ってもらえないでしょうか。私は兄さんとお話しているんです」


朱里の顔がすごく怖い。何だかかなり怒っているみたいだ。


「鎌倉さん、あなたね。先生に対してそんな言葉遣いは…」


「兄を侮辱されて怒る妹ってそんなに変ですか?」


「そ、それは…」


「いくら先生にとって問題児でも、私にとってはかけがえのない兄なんです。家族なんです」


「朱里…」


朱里が先生にそう告げると俺の方へと向き直る。

先生は居辛くなったのか、席を立ち上がり、廊下に出ようとする。


「…鎌倉君。いい妹を持ったわね。大切にするのよ」


そう告げると先生は扉を閉めてどこかへ行ってしまった。

でもまさか朱里のこんな一面が見れるとは思わなかったが。


「で、兄さん。痛む場所って?」


「もう大丈夫だ。多分気のせいだよ」


「左足…なんですね…」


朱里には隠し事なんて出来ないのか…

俺は朱里の発言に無言の肯定で返した。


「兄さん…」


朱里が俺の左足にキスをする。


「お、おい。何してる」


「こんなことをしても兄さんの傷は癒えないんですよね…」


「…何言ってるんだ?」


「何でもないです。兄さん、今日の夕食は何がいいですか?」


俺は急な話題転換に転けそうになった。


「な、なあ…いきなり話が変わっていないか…?」


「え?ダメですか?」


「いや、そういうわけじゃ…」


朱里にとってはこれが普通なのかもしれない。

俺と朱里はずっと一緒だったんだから気づいてもおかしくないのだがね。


「で、どうします?」


「そうだな…今日はシチューがいいな。ホワイトね」


「分かりました!腕によりをかけて作りますね!」


「ああ」


朱里の笑顔に癒される俺。

俺、お前がいたからここまで頑張れたんだよ。本当にありがとうな…










保健室から帰って教室に戻ると、奏と穂たちが俺の元にやって来た。


「もう大丈夫なわけ?」


「ああ。多分攣っただけだと思う」


「へえ…じゃあもううさぎ跳びで階段とか上がれるわけ?」


「穂、お前ってバカだろ?」


俺は呆れながら穂に言った。


「じゃあ仁とアンタは大バカね」


「言うなぁ…」


「ちょっと!俺は何も関係ないんですけど?!」


仁はいつでもかわいそうな奴だな。

こいつのポジションにだけは死んでもなりたくない。


「まあ普段どおりに出来るならいいでしょ」


奏が俺を見ながらそう言う。


「あ!鎌倉君大丈夫?!」


委員長も俺の元へ駆け寄ってきた。

まさかの人物の登場に俺は少々たじろいでしまう。


「あ、ああ。まさか委員長から心配の言葉をいただくとは…」


「べ、別に私は委員長だからクラスメートが心配なだけよ!!」


「そ、そうですか!」


そんな真っ赤になって怒らなくても…


「まあモテモテなのはいいことよ〜」


穂が俺のわき腹をつつく。


「スマン。俺はお前が理解できない」


「理解しようともしないだろ」


タカが俺を見てそう言う。

何か少し強い口調だ。


「タカ?」


「いや…お前はもうちょっと夢とか持ったほうがいいんじゃないかと…」


「…夢…か…」


「いや、気に障ったなら謝るから!」


夢なんてもうなくなっちまったよ。

俺は空っぽなんだ。所謂抜け殻。何もなく、その場に居てもいなくても変わらないんだ。


「まあ今日は安静にしてるのよ」


「ああ。分かってる」


俺は空っぽのまま家に帰ることになった。












―都内某病院―


「院長!特別病室の患者さんが目を覚ましました!」


「何だと?!」


この病院の院長が驚きの声を挙げた。


「経過は?!」


「残念ながら少しの間だけです。多分意識もハッキリしなかったでしょう」


「そうか…」


院長はあごに手を添えて思案し始めた。


「とうとう目覚めたのか…。2年半ぶり…だな」


彼はそう言って歩き始める。

静寂に包まれたこの病棟で、彼の足音だけが鮮明に響いた。



次回から壊れていきます

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