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神様、仏様の言うとおり!  作者: 浅井壱花
はじまりのはじまり
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限定品の大切さ

人って本当に驚くとキャー。なんて可愛い叫び声なんかあげられない。

うおおおおおぉぉぉっ!!!!とおじさん顔負けの雄叫びをあげてハンドルを強く握り締めていれば、ドンッと車体がまぁまぁな衝撃で地面へと叩き付けられた。


エアバッグが作動しなくて良かった…。


叫び過ぎて肩で息をしながら、恐る恐る助手席を見れば白狐は座席の上で逆立ちの体勢で苛立っているかのように尾をバサバサと振ってる。


「あ、あの…だ、大丈夫…です…?」


『…貴様には大丈夫に見えるのか?』


地を震わせるような声の低さで凄まれて目線を逸らす。

車の中も落下中の無重力状態と、着地の衝撃でめちゃくちゃになっている。

いや、本当によく無事だったな…私。


『おい、人の子。吾を起こせ。』


なんだろう。

この偉そうな態度…。

落下した時に上手いことシートの着座部分と天井に突っ張ってしまって自分では体勢を戻せないらしい。

白狐の態度にムッ、としながらも大型犬サイズの巨体を”おすわり”ポーズに抱き上げて直してあげた。


体勢を直してあげれば、まだ不機嫌そうに尾を振って、犬のように耳を後脚でカイカイしてる白狐。

助手席の背もたれ部分に張り付いている真っ白の毛が気になる私は、えーっとコロコロ…と呟きながら後ろの座席に散乱している物の中からコロコロを探す。

動物の毛って、アレルギーではないがペットを飼ってないからすごく気になるし、なんだか鼻がムズムズする気がするのだ。

荷物の中からコロコロを無事に探し出し「ちょっとゴメン」と言いながら白狐の背もたれにコロコロをして毛の排除をする。




『…人の子。何をしてる…』



自分の背を押さえ、背もたれをコロコロと掃除している私に白狐が呆れたように声を掛けてくる。

やっと苛立ちも収まったのか尾をバサバサ振るのをやめてくれた。

「え、何ってコロコロ…」

コロコロ知らないのかな?と思いながら首を傾げコレ知りません?と聞き返せば『この馬鹿者がっ!!!』と凄い剣幕で怒られた。




『貴様、自分が今どんな状況なのか分かっておるのか?!』

「ひぇっ…ごめんなさい…」

『何であの場からすぐに逃げなかった?!危険だとは思わなかったのか?!』

「だって…」

『だって、もクソもあるか!』


危険だとは思ったが、目の前で動物が死なれるのはもっと後味が悪い。

そんな理由しか思い浮かばず、ただ、それを率直に伝えたら、この白狐は更に怒るだろう。

そう思い「だってぇ…」とモゴモゴと口篭り俯く。

…こういう上から目線で頭ごなしに怒る人は苦手だ。

寡黙なじぃちゃんに怒られてる気分になる。


怒られて泣きそうになりながらも、白狐のお説教を聞いていればハタと我に返った。

この状況のおかしさ。

現実世界ではありえない事が起こってる。

え。なに、私もしかして夢でも見てるの?もしかして死んだ?

パニックになりフンッと鼻を鳴らし私を見ている狐の頭を撫でる。

モフモフの絹のような手触り。

わしゃわしゃわしゃわしゃ、とひとしきり撫でれば大人しくしていることに痺れを切らせた白狐がガウッと威嚇してきた。



「え?ええぇぇっ?狐が喋ってる?!!」



『今更?!!!』




急に現実に引き戻されて、ヒィッ…と車の中から逃げ出そうとドアに手をかけたら『開けるなっ!!馬鹿!!!』と白狐が叫んだ。
















「え…?」




そうは言われても僅かに開いてしまったドアは外側から開けられたように開き、ぶにぶにとしたモノに腕を掴まれそのまま外に引きずり出されてしまい柔らかい土の上に落とされた。

尻もちをついている私の足元にネチャ…という音を立ててスライムのようなものが湧き出してくる。


「い、やっ…!なにこれ…!!!」


必死に虚空を蹴り、足にまとわりつくソレを取ろうとするも更にまとわりつかせてしまうという結果となった。

もがけばもがく程に深みにハマってしまう底なし沼のようなそんな状況。



『この雑魚共がっ!!!さっさと浄化しろ!!!』



下半身がほぼスライムのようなものに吸収されている私に向かい、白狐が叫びながら矢のようなものを投げ付けてきた。

チリン…と愛らしい音がなって深々とスライムのようなものに突き刺さる。


「あああぁあっ?!!限定破魔矢!!!」


破魔矢が突き刺さりスライムのようなものが激しく苦しむように動き、途中まで飲み込んでいた私をペッと吐き出す。

全身、ねちゃねちゃの粘液にまみれてるのも気になるが、それよりもスライムのようなものに突き刺さっているアイテムが私には重要で…


「……あああぁ…15時間も並んでやっと…やっと買えたのにぃ…」


スライムのようなものがもがき苦しんでいる前に膝まづき、おいおいと泣く私の横に白狐が来た。

私の姿に白狐の尻尾がしゅん、としたように垂れ下がり、凛々しい耳も情けなくペタリと頭にくっついていた。





『………その、なんだ、すまん…』

「謝っても遅いよバカぁあああ……あああぁ…」


スライムのようなものが絶命すると同時に、破魔矢もキラキラの粒子になってスライム共々消えた。


さよなら、私の限定破魔矢…。


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