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神様、仏様の言うとおり!  作者: 浅井壱花
はじまりのはじまり
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空気の読める相棒

晴れて自由の身となった私。


お金は十分。

郵便物は届かないと困ってしまうから自分の住んでいた市にある1番大きな郵便局に私書箱を作ってもらい郵便物の対処はOK。


携帯はなくちゃ困るが、1度全部をリセットしたいから今まで使っていたものを解約し、格安な携帯を新規で契約して担当刑事と弁護士だけに番号を伝えた。



相棒でとりあえず北に行こう!と峠を走っていた時に寄った山頂の展望台で今まで使っていた携帯を「今までありがとーーーーー!!!!」っと叫びながら投げ捨てた。

ポイ捨てだし傍から見たら完璧に痛いやつである。


でも、その時のなんとも言えない爽快感ったら今まで味わったことがない貴重なものだった。



北に向かいながら、道すがら寺社に寄り参拝して御朱印をもらう。

行ったことない場所の御朱印が増える度に、今までの我慢や頑張りが報われている気がした。















そんな御朱印放浪旅をはじめて3年。



やっと、日本全国にあるとされている御朱印を全て集めた私に祖母が亡くなった。と弁護士から連絡がきた。


家族にも新しい携帯の番号を教えていなかったので、祖父か父が弁護士に連絡を頼んだのだろう。

母はまだ病院から退院出来ずにいるらしい。


久しぶりに戻った祖父母の家では親戚一同集まっており、私を見るなりヒソヒソと口々に話し始め居心地は最悪だった。


祖父母の家に置きっぱなしにしていた22歳の頃に着ていた喪服に着替える。

体型は自分じゃちっとも変わった感じがしてなかったけど、27歳の今の私には少し窮屈で更に居心地を悪く感じさせた。





通夜が終わり、また明日。と帰ってく親戚とこのまま祖父母の家に泊まるのであろう親戚達が話している中、父に腕を掴まれ、そのまま殴られた。

突然のことでよろけ倒れた私に、女衆から悲鳴が上がった。

鼻血が出てパタパタと畳を汚す。


「ノコノコ帰ってきやがって!!さっさと出てけ!この疫病神!!」


ああ。

優しかったお父さんはもう居ないんだ…。


投げ掛けられた言葉にグッと唇を噛み立ち上がる。


男衆が更に私を殴り付けようとする父を羽交い締めにして止めていた。

連絡くれたのはじぃちゃんだったんだ。と何故だか全然関係ない事を考えて居れば騒ぎを聞き仏間から飛んできた祖父に「大丈夫か?!」と顔を覗き込まれた。

3年会わなかっただけで随分と老け込んでしまった祖父。

わぁわぁと騒いでいる父を無視し、ハンドバッグから祖父に宛てた手紙と多少の現金が入った封筒を手渡す。


「今まで沢山、迷惑かけてごめんね。これで私の荷物、全部処分してくれていいから…」


泣くな、泣くな、と自分に言い聞かせ鼻血を乱暴に喪服の袖口で拭う。

みっともなく泣き出してしまう前に帰ろう。

誰の静止も聞かず逃げる様に相棒へと乗り込めば、そのまま車を走らせた。


車の中では涙が止まらなかった。


この3年で心身共に強くなった気でいたのに。


ひとしきり車の中で泣き、キツかった喪服は公衆トイレで着替え、そのまま捨てた。


コンビニで水を買い、なびいてしまった鼻血を洗い流し、うがいをした。

力任せに殴られたせいで口の中も切れている。


ちくしょー。と1人つぶやきながら、再び相棒を走らせる。

祖父母の家に泊まる予定だったから宿も取っていない。


どこかの駐車場で車中泊か、夜通しで移動しようか、と考えながら運転していれば、ある神社が目に付いて車を停めた。









「久しぶりだね…」



夜間のおかげで境内の駐車場に車を置き、ゆっくりと思い出に浸りながら国道に繋がる短い参道を歩く。


未だに相棒の鍵にはこの神社の御守りがついているのだ。


来なかった間に改修工事をしたようで手水舎が新しくなってる。

懐かしい。

社務所は時間外で閉まっているけども、神主さんは元気かな?

神主さんが出してくれた麦茶が今まで飲んだ中で1番美味しかったなぁ。



懐かしさに口元を緩めながら本殿の前に立つ。


この数年、色々とあった。

何度も泣きたくなる事もあったし、死んでしまった方が楽なんじゃないか、と思う事もあった。


でも、御朱印巡りでいった地でその土地の文化を知り、人の優しさにも触れた。

旅をしてる期間、お金にも不思議と困らなかったし、食べ物にも人にも恵まれた。

病気も怪我もしなかった。


なんだ、結果オーライじゃん。


お賽銭箱に諭吉さんを入れて、ありったけのありがとうの思いを伝える。





















『人の子!逃げなさい!!!』




急に聞こえた懐かしい声。


弾かれたように顔をあげれば、あの時の白狐が本殿の中で黒いスライムのようなものに囚われもがいてるのが見えた。


逃げろ、と言われたが助けなきゃ!と思い本殿の中の白狐の元へと駆け寄る。

『馬鹿めっ!!逃げなさいっ!!!』

「だめっ!…なんか、わかんないけど、ダメ!!逃げないっ!!!」


白狐を抱きかかえてみれば大型犬くらいの大きさはあり、その体に必死に腕を巻き付ける。

黒いスライムのようなものは獲物を取られまいと、白狐の体をつたい私にも絡み付いてきた。

粘液のようなものがついた腕は紫色のアザのようなものがジワジワと範囲を広げている。


「ひいいいぃぃぃっ!!!!めっちゃキモい!!!!」


アザが広がる部分の皮膚に感じた虫が這うような感覚に思わず叫び、その気持ち悪さに火事場の馬鹿力を発揮した。

白狐を抱えたまま走り駐車場にある相棒に飛び乗る。


『何をしてるのだ?!貴様は!!!』


荒い息を整える間もなく相棒のエンジンをかけようと鍵を回すもエンジンはかからず、焦りは更に酷くなり助手席では無理やり押し込まれた白狐は私に対しめちゃくちゃ文句を言っている。


ビタビタ、と粘着質な音を立てて車のガラスに貼りつくスライムのようなものだが、流石に車の中には入って来れないようだ。


「ふ、ふっふふ…流石、私の相棒…こんな時にご機嫌斜めかよ…」


腕のアザは広がり続け、未だに不快な感覚を残している。

何度、鍵を回してもエンジンはかからないし、白狐はすごく怒っている。

ロボットアニメの主人公の名シーンをこんな緊急事態なのに思い出し、無性に叫びたくなった。


「うごけっ、うごけっ、うごけっ!!動いてよー!!!!」




阿呆を見るような視線を向けてくる白狐に反して、相棒は空気を読んでエンジンを始動させた。

さすが、私の相棒。







しかし、車を覆い尽くしたスライムのようなものが突然発光し、落とし穴に落されるが如く車ごと落下した。


次回から本編突入!

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