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神様、仏様の言うとおり!  作者: 浅井壱花
はじまりのはじまり
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聴取と絶句。

事件の次の日は何もする気が起きず、携帯の電源を切ったまま1日抜け殻のように過ごしていた。


2日目になるとワイドショーやニュース番組は他のことを報道し始めて、世間の目は他所へと向いた。


3日目、祖父の元に警察官から連絡がきて話を聞きたいから私に来て欲しいと言われた。


行けるか?無理しなくて良いんだぞ?


と、普段厳しい祖父が言ってくれたのが妙に嬉しくて「大丈夫だよ」と気丈に振舞った。




警察署には1人で行った。


省エネ設定で蒸し暑い警察署の待合室。

ぼんやりと壁に貼られたポスターを見ていれば、体格のいいシブい刑事と若い刑事が中に入ってきた。




話の内容としては、婦女暴行、傷害などの名目で立てこもり犯は起訴されて処罰されるだろう。ということ。

そして、私が1番気になっていた私の家に侵入していた人物が誰なのか。ということ。



侵入者は辞めた会社で私を慕ってくれていた1つ下の後輩だった。



こちらについては住居侵入などの罪にも出来るだろうが、初犯だと起訴出来たとしても執行猶予がついてしまう可能性が多く、大体が示談になりうる、ということをシブい刑事が教えてくれた。


刑事ドラマでよく見る、あの取調室を外側から見る個室に感動する事も出来ないまま、ガラスの向こう側で憔悴してる後輩の姿を確認した。


髪も肌もボロボロな後輩の姿。

ノーメイクで、いつも自慢していたネイルも所々剥げている。

虚ろな目で虚空を見ては「幸菜さんが悪い幸菜さんが悪い」と言っていた。

その姿にすぐに窓から顔を背けてしまった。





「君たちは…仲が悪かったのかい?」


取調にならないのか一旦、休憩にしたようで取調室からこちらの個室にきた刑事が私に問い掛けてきた。


仲が悪いなんてとんでもない。

私の記憶の中の彼女は、子犬のように私の後をついて回り、私の髪型やメイク、持ち物ですら真似をするような子だった。

何度か仕事が終わらず、帰宅が深夜になってしまい帰れない。と泣きついてきた彼女を家に泊めたこともあった。

私が会社を自主退職してからは何度か食事の誘いがあったが、少しでも早く前の会社の事を忘れたくて彼女からの誘いを全て断っていた。



「なんで…こんなこと…」


私の知る彼女を全て打ち明け、理解しきれないこの状況に痛み出す頭を抱えれば、シブい刑事が「愛憎ってやつだろうな」と呟く。


愛憎…?

女同士なのに?

そんなの昼間のドラマみたいなのある訳ないじゃん…。


自分がもつ常識とは酷くかけ離れた今の状況。


私が押し黙っているのを見て、シブい刑事が現場に行くか?と声を掛けてくれた。

あらかた現場検証は終わっているので、刑事同伴ならば必要な物を持って行っていいとの事だ。




旅に出た時に、必要な物は全て持ち出していたから今すぐ必要!ってものはなかったが刑事の言葉に甘え現場…もとい私の家に連れて行ってもらった。


封鎖テープが貼られ、部屋の扉の前には警備していた警察官が居る。

物々しい空気感の中、その警察官に挨拶をして中に入る刑事の後をついて行く。




絶句。



部屋に入った瞬間、言葉が出なかった。



割れた窓ガラスに、ローテーブルの上の物は散らばり、棚に飾ってあった友人と写る写真は破かれ燃やされているものもあった。

クローゼットの中身は全部出ていて、クッションやぬいぐるみは刃物で全部切り裂かれている。


何より、ぐちゃぐちゃになったベッドの上には所々に血がついていてた。


地獄絵図ようなこの部屋。


部屋に居ることすら出来なくなり、何も言わず外に出た。





「女は君が旅行に行って3日目にはここに侵入していたらしい。これは近所の住民が夜間に電気がついていたのを目撃してる。女が侵入して6日目に通り魔で追跡されていた犯人が窓を割って押し入り、立てこもり事件となった。というのが、今回の経緯だ。」


玄関扉の横で蹲っていた私に、シブい刑事が時系列をまとめて話してくれた。


「あの…部屋を、荒らしたのは、どっちなんですか…?」


どうしようもならない薄気味悪さに震える声で刑事に尋ねれば、短く「女だ」と答えられた。


そんなに恨まれるような事を彼女にしてしまったんだろうか…。

まとまらない考えに更に体を縮こませた。






「あ!河西さん!」


蹲っている私と、その隣でタバコを吸っていた刑事を見付けた大家に声を掛けられる。

「…大家さん…」

封鎖テープのギリギリまできた大家に今回大変だったわねぇ、と声をかけられたまでは良かった。


「あのねぇ、うちもこんな事件起こされちゃって困ってるのよ。他の入居者さん達も迷惑してるし。ほら、全国区で報道されちゃったでしょ?ああいうのホント困るのよね。早いうちに退去手続き宜しくね。保証人親御さんだったわよね?」


目の前が真っ暗になる、っていうのはこの事なのだろうか…。


大家の言い分に苦虫を噛み潰したような表情の刑事が、まだ捜査中なので。と大家を追い払ってくれた。


家をめちゃくちゃにされて、挙げ句に、家まで追い出される。

なんだろう。この仕打ち。






ああ。ついてない。


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