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神様、仏様の言うとおり!  作者: 浅井壱花
どんどん進めっ
40/44

毛根消滅の刑

「…毛根から消え失せろ、下衆がぁ!!!」


「ユキナ?!」


暴走モードとはこの時の事を言うのだろう。

肩からぶら下がっているボストンバッグの中から魔石と融合した御朱印帳を取り出し、ある神社のページに触れた。


仰々しい印が足元に現れ、そこから無数の”八咫烏(やたがらす)”が出現する。

私達の上を旋回しギャアギャアと鳴き威嚇する烏達に「毛根消滅の刑」と指示を飛ばせば烏達は心得た。とばかりに男達に群がっていく。


「いてっ!やめろ!!いっ!!!」

「ぎゃあああぁっ、痛てぇ!!」


シルビアを掴んでいた男も、私を掴んでいた男も烏に襲われすぐさま手を離すと、頭を烏に啄まれ毛髪を抜かれている。

腹を蹴飛ばされ動かなかったコタロウも、ヨタヨタと起き上がってきて状況にドン引きしていた。


『…なんと惨い…』


頭の毛を毟り取られている男達を憐れむようにコタロウが呟く。

私としてはこのシルビアの艶々サラサラの髪が何本か抜けた事が気に入らないのだから「毛根消滅の刑」は償いなのだ。


シルビアを掴んでいたリーダー格っぽい男の厳つくセットしていたモヒカンも、今やちょぼちょぼと髪が残る程度で意気消沈している。

ひどい者では烏に鼻にまで嘴を突っ込まれ鼻毛を抜かれてきた。


私達を取り囲んでいた5人全ての頭皮が剥き出しになり、私の肩に烏が1羽とまり終わったよ、と言わんばかりに「ガァッ」とひと鳴きした。


「…宿、教えてくれるんですよね?」


しゃがみこんで動かないリーダー格の男に再度、宿を教えてくれるか確認をとる。

シルビアに嘘をついた、って言うのなら更に鼻毛とスネ毛を抜く刑にしよう。


「はいっ!宿!宿教えます!も、勿論です!」

「本当に?変な宿だったら許さないけど…」

「ガァ…」

「はいっ!大丈夫です!飯も美味い良い宿にご案内しますっ!!」


しゃがみこんでいるリーダー格の男に目を合わせるように腰を落とし、烏と一緒に顔を覗き込めばガタガタと奥歯を鳴らし正座をしている。


「本当に、本当?」

「は、はひ!!全身全霊で良い宿をご紹介しましゅっ!!」


タタッ…と烏が私の肩から、正座をする男の肩に乗りスリスリとハゲ散らかした頭に頬擦りしている。

その烏の行動に可哀想なくらい震え、股間を濡らしていた男。


「ユキナ…怖い…」

『完全に”八咫烏(やたがらす)”の使い方を間違っているな…。あれじゃ本当に調教師(テイマー)だ。』


シルビアとコタロウが私を見ながらヒソヒソと話しているのが聞こえる。

助けたのにっ!!


身内にもドン引きされてしまい、当たりどころがなく舌打ちをすれば勘違いした烏が「はよ、動けや」と言わんばかりに正座して震えていた男の耳を啄く。

ギャッ、と短い悲鳴をあげてから「コチラです!」とキビキビと動き出した。


連れの男達は烏の見張り付きで、その場に待機!と指示を出す。

ちょっかいを出して揶揄う烏に大の男が悲鳴をあげている姿は近くを通る人達の笑いものとなっていた。



------


紹介された宿は老夫婦が営んでいるアットホームな感じの宿でお値段もリーズナブルだという。


烏にお礼を言い「解散」と言えば、その場に黒い霧を残し消えた。

「あなたもこれに懲りたら誘拐とかしようとしちゃダメだからね。神様も仏様もあなたの事を見てるからね。」

宿を教えてくれた男にお礼を言い、ついでに改心するように説教をすれば首が外れるんじゃないかって程、縦に振り、同じく「解散!」と言えば仲間のいる公園の方までダッシュで逃げていった。



「シルビア、痛いところとかない?大丈夫?」


部屋に入り、シルビアを抱きしめて撫でてどこかケガなどしてないかと確かめれば苦笑いで「大丈夫だよ」と言われた。

コタロウが『吾には聞かないのか?!』と叫んできたのでコタロウは大丈夫そうだ。


御朱印から呼び出した”八咫烏(やたがらす)”達は各々、抜き取った毛髪を糧にしたらしく魔石の色禍々しい赤から変わっていない。


荷物を置いて各自ベッドに転がって過ごしていれば、コンコンと控えめなノックと共に宿の女将さんが中に入ってきて「湯浴みが出来るけどどうします?」と声を掛けてきてくれた。



湯浴み!


風呂だ!


この異世界に来てから水浴びばかりで、純日本人の私としてはそろそろお風呂が恋しくなる頃だったので食い気味に「入りますっ!」と答えた。




「従魔は人間用の湯には入れないでね。では、ごゆっくり。」


石造りの浴場は映画のテ〇マエ・ロマエの世界観で、ノリノリの私と、テンションだだ下がりのコタロウ。

お風呂に入ったことがないシルビアの3人の貸切だった。


「わぁ!お湯がいっぱい!」


駆け足で湯船に入ってこうとしたシルビアを捕まえて最初に体と頭を洗ってから湯船へと送り出す。

お風呂の前に体を綺麗にしてから入るのはマナーだ。


同様にコタロウもお湯をふんだんに使い、洗ってから従魔用のひと回り小さい湯船に入れる。

洗われている時は嫌そうにしてても、湯船に浸かれば『はふぅ』と長い溜息をつき疲れを癒していた。


最後に私も湯船に入れば、久しぶりのお風呂に気の抜けた声が出てしまった。


うん。次の行先は温泉地とかがいいなぁ。

そんな事をぼんやりと考えながら浸かってしまう。



温泉旅行…いいよね…。



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