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神様、仏様の言うとおり!  作者: 浅井壱花
はじまりのはじまり
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群衆の目

犯人は未だに私の部屋に人質の女性と立てこもっているらしい。



私を抱き締めわんわん泣いている両親と、鬼の様な顔をしている祖父に付き添われて事情聴取を受けた。


いつから家を空けて、いつどこで宿泊して、いつどこを観光したのかと、細かくしつこいくらいに警察官に聞かれる。

この事情聴取の時に御朱印帳を開き、私の話しと日付けを照らし合わせてもらい、携帯に残っていた宿泊予約サイトの利用履歴も見せて私の言葉に嘘がないことを確認してもらった。


祖父は犯人でも無いのに何でそんなことを聞くんだ!孫を疑ってるのか?!と食ってかかってたけど、一応、立てこもり犯との繋がりが無いかなどの確認をしなければならなかったようだ。


2時間近く事情聴取をうけ、聴取から解放された精神的な安堵と旅の肉体的な疲れで「もう眠い…」と警察署の待合室でうつらうつらと目を閉じていれば、待合室の外が騒がしくなり慌てて入ってきた警察官に父と母が詰め寄った。


「無事に犯人が確保されました。人質になっていた女性も少し怪我をしているみたいですが保護されました。御自宅にもどられますか?」


犯人が捕まったと報告されると同時に人質の女性って…と急に疑問が浮かぶ。

確かに家は戸締りして旅に出たのだ。

立てこもり犯が女性を連れ込んで私の家に立てこもったのか?

でも、話しによると女性がいた家に押し入ったというのだ。


「あ、あの…その女性って……?」


「今は病院の方に搬送されています。詳しい事はその方の回復を待って聴取の後にお話がいくかと…」


あ。私、被害者なのに教えてもらえないんだ。と不思議な感覚に襲われた。

なんとなく心にモヤがかかるような、そんな感じ。


とりあえず、家がどんな状態になっているのか気になって「一旦、自宅に帰ります」と警察官に伝えて警察署を後にした。



疲れてるなら運転代わるぞ、と言ってくれた祖父に相棒の運転をお願いして私は助手席へと乗り込み、日が落ちはじめた街道を自宅に向かい進む。


コンビニ寄った時はまだお昼前だったのにな…。とか、

お昼ご飯食べてないや。とか、

あそこの神社寄りたかったな。とか、

窓の外を眺めながら思っていれば、ふと込み上げてきた恐怖感にポロポロと涙が溢れた。


良かった、私が居る時じゃなくて。


良かった、私じゃなくて。


でも、なんで私の家なの…。


どうしようもない感情に涙が止まらなくなりグズグズと泣いていれば、祖父が「じぃちゃんが守ってやるからな」と言ってくれて、その後は無言のまま運転していた。














自宅に戻り見た光景は今でも忘れられない。



自宅アパートを取り囲むような沢山の野次馬に、すっかり夜なのに煌々とついているマスコミの持つライトの灯り。



自宅の駐車場は封鎖されてしまい車を停められなくて、近くのパーキングに停めて歩いて行ったのだが、その光景に足がすくみ立ち尽くしてしまった。



そして、野次馬の中に居た友達に見付かり「幸菜!!無事だったんだ!!」と大声で叫ばれた。


一瞬空気が止まり、次の瞬間、群衆の目とマスコミのカメラが一斉に私に向く。

駆け寄ってくる友達に抱き着かれ「心配したんだよぉー!」と言われるが、そんな事はもう耳には届かない。


誰かがシャッターを押したと同時に目が潰れてしまうのではないかと思うほどのフラッシュが焚かれた。


すぐに詰め寄ってきたリポーターにもみくちゃにされ、祖父が抱き着いていた友達を引き剥がし私の手を引いて逃げる様にパーキングに停めていた車に乗り込んだ。






「っ…はぁっ!はぁ…な、なんで…なんで…!!!」





祖父が運転する横で爆発してしまった感情を露わにしてしまう。

耳に心臓がついてるのかと思うほど心臓の音がうるさい。


目に焼き付いたあの光景。


「少し…日が落ち着いてからにしよう」


実家と祖父の家どちらかに送る。と静かに祖父に言われ、今日は祖父とこのまま帰る。と返事を返した。







自宅からそんなに遠くない祖父母の家に着き、リビングでは、祖母が青ざめた顔でソファに横になっていた。


「…ばぁちゃん…心配かけてごめん…」


眠っていた祖母に思わず謝罪の言葉をくちにするも、祖父に「お前は何も悪い事してない」と言われ、私に気づき目を覚ました祖母にも同じように言われ抱き締められた。




食事も喉を通らず、風呂に入った後は客間に敷いた布団にゴロゴロと横になっていた。

祖父が連絡してくれる、と言っていたが両親に自分からも数日、祖父母の家に泊まると伝えようと携帯を開けば、私を心配するような内容のメッセージと自宅を知らない友達からは、近所で事件だって!ヤバくね?!というの内容のメッセージが沢山入っている。


あの野次馬の中にいた友達から何通も連絡が入っていた。



「…疲れた」


はぁ。と携帯を投げ出し、布団に大の字になる。






目を閉じれば、一斉に焚かれたフラッシュ音がまだ耳に残っている。


けれど、その日は疲れに身を任せればすぐに眠りにつけた。


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