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神様、仏様の言うとおり!  作者: 浅井壱花
どんどん進めっ
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先の見えない未来

すっかり夜が耽け、腹も満たされたニャルガ族の面々は自分達の寝床に戻っていく。


私はコタロウと車で寝るので広場に残り、使い終わった岩塩プレートの上の汚れを削り取る作業をしていた。


カリカリとこびり付いた汚れをナイフで削る作業ってすごく集中出来る。

たまにゴッソリ魚の身が焦げと一緒について残っているのをツマミ食いして「しょっぺー」と言うのもこの後処理の楽しみだと私は思う。


『いつまでこの村に滞在するのだ?』


隣に寝そべり私の作業風景を眺めていたコタロウが口を開いた。

もう既に3日が経過している。

早く帰りたいコタロウには村で過ごしている時間ももどかしいのかもしれない。


「まだ…もう少し、居たい。ダメかな?」


病気のこと然り、今後のニャルガ族の在り方についても口を出してしまった。

ある程度は助言しないと、中途半端に混乱させてしまうし、頑張って人間とも交流していこうとしている彼等からの人間への信用を奪ってしまう可能性もある。


人を導くとか大きな事をいうつもりは無いが、関わってしまったからには少しでも幸せになって欲しいと願ってしまう。


『あまり関わると別れが辛くなるぞ。』


「過保護だなぁ、コタロウは…」


心配してくれる人がいるというのが嬉しくて口元が緩む。

コタロウは私のその表情を見て、そのまま黙り込んでしまった。

虫の声が響く森の中、カリカリと焦げ付いた部分を削る作業が続く。

なんとも落ち着いて幸せな時間。



「ユキナ…」

「どうしたの?シルビア」


揺らめく焚き火の灯りの中に、アシャ族のシルビアという女の子が躊躇いがちに入ってきた。


アシャ族は今回の病気の流行でシルビアを残して皆死んでしまったそうだ。


シルビア自身は今10歳でニャルガ族としては成人として扱わなければならないらしい。

見た目としては中学生くらいで、あと5年も経てば十分に成熟した獣人の大きさになるようだ。


ニャルガ族は人間よりも少し成長が早く、寿命が短い。

獣人や亜人、それぞれの種族により寿命や成長速度は様々らしい。

何よりニャルガ族の子供は可愛い。





「眠れないの。…ここに居ていい?」


ちょこんと私の隣に座り、膝を抱えるシルビア。

まだ村の子供達をはじめ、大人達にも慣れていないようで昼間遊んでいる時も少し離れた場所で見ている。

同じ種族じゃない私の方が接してて気楽みたいで、私が1人でいる所を見つけては近くに来ることが多い。


金髪の腰まで伸ばしたストレートヘアに、緑色の猫目。

同色の耳はピンと伸びていて、尻尾は他の子供達とは違い長く毛が長い。


長くて長毛の尻尾はアシャ族の特徴なのだという。


単純に可愛い。

はい、あざとい可愛い。


コタロウとはまた違った尻尾のホワホワ感は、どっちが好きなのと問い詰められても答えられない自信がある。


もふもふは正義だ。


「削ってるのなんか面白くないでしょ?」


長い金色の睫毛が伏せられフルフルと首を横に振られる。


「ユキナと一緒に居るの好きだからイイ。」


はい、あざとい。

はい、可愛い。


「シルビア可愛い、好き!」


作業する手を止めて、隣にいるシルビアをむぎゅうと抱き締めればパタパタと尻尾を振られる。


前に雑誌の猫特集で書いてあった、絹のような手触りっていうのはこの触感なのだろう。

ずっとこの頭と耳と尻尾は撫でてられる。


『…まるで変質者だな。』


ふにふにとシルビアの頭に頬擦りしていれば、コタロウから白い目を向けられる。


「合意の上だから変質者じゃありませんー。ねー、シルビア。」

「うん。ユキナになら何されても良いよ、私!」

「誤解を招く事はシーだよ。」


事案が発生して私が変質者として逮捕されてしまうではないか。


柔らかいシルビアの耳を触り、そのやみつきになる手触りを楽しんでからまた作業に戻る。


パチパチと枝を爆ぜさせる焚き火の音と、コタロウの寝息。

シルビアの穏やかな息遣い。


「…シルビアはどうするか決めたの?」


カリカリとナイフを動かしながら気になっていたことを聞く。


「まだ…」


シルビアの生まれのアシャ族はシルビアを残し死んでしまった。


今はラハ族の集落に集まり、ある程度落ち着くまでは共同生活をするらしいのだが、シルビアは戻る場所が無いので何処かの民族のオスに嫁入りして子を成して人口を増やす事が求められている。


しょうがないのだろうが家族や親戚、友達を亡くしたばかりの子にちょっと酷なのでは無いかと思ったが、それがニャルガ族には当たり前で種の保存なのだという。


「そっか。ごめんね。やな事聞いちゃって。」


10歳。


私達の感覚ではまだまだ子供で何も考えずに暮らしていけば良い年齢だ。

成長が人よりも早いって言ったって、せいぜい中学生くらいの見た目で子供だ。


好きな子もいたり、夢もあったのかもしれない。


憶測でしか物事を言えないから、なるべく種族の掟や決まりには口を出さないようにしているが、シルビアの境遇には胸が締め付けられる。




シルビアの事を知った時に中途半端に情をかけるな、とコタロウにも釘を刺されている。


『神にでもなるつもりか?全てを救おうと思ったら神ですらが破綻するぞ。』


全くもってその通りだ。






「明日は何しようか?」


シルビアとの間に流れる沈黙に耐えきれず、苦し紛れの未来を話す。


彼女の過酷な未来を見て見ないふりをして話す私は卑怯者だ。



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