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神様、仏様の言うとおり!  作者: 浅井壱花
どんどん進めっ
24/44

流行病

空気の読めないコタロウに追加のカレーとパンを入れてあげてから、少し落ち着いた女性をキャンピングチェアに座らせてカップにコンソメスープを出してあげた。


「娘さん、どうしたんですか?」


ありがとうございます、といってカップを受け取った女性から事情を聞こうと問い掛ければ、カップを持つ手がカタカタと震えている。

頭に付いている猫耳は伏せられて、フサフサの尻尾はダランと垂れ下がってしまっていた。


「車…あー。鉄の魔物?に縋るくらい切羽詰まってたんでしょ?」


車のボンネットに軽く腰かけている私がそう問えば、女性は思い詰めるように眉根を寄せ手元のカップを見詰めている。

言えない理由でもあるのだろうか。


(私が警戒されてる…。それとも人間を信用していない?)


どちらにせよ、訳ありだろう。

さて、どうしたものか。と考えていれば食事を終えたコタロウが「美味かった!」と皿を私の元まで持ってきてくれた。


カレーは綺麗に舐め取られていて皿はピカピカだが、コタロウの口の周りは残念な事になっている。

しばらく女性の言葉を待っていたが、話す様子もないのでウェットティッシュを取り出しコタロウの口を拭く。

いやいや、と頭を振るコタロウに「ちょっと!動かないで!」と怒り汚れを取る。

そのやり取りを横目で見ていた女性から、またポロポロと涙が溢れだした。


「…娘が…村に病気…っ…ううっ…」


とりあえず、泣いていて詳しい事が分からなかったが「村に病気の娘さんがいて助けて欲しい」と言うことがわかった。


でもなんで車にお祈り?


そこだけが分からなかったが、何か力になれる事があるかも。と女性の村に連れてってもらえないか、と聞けば恐怖と疑いが混ざる表情で見られたが、コタロウが『安心せよ、悪いようにはならん。』と威厳たっぷりに言えば「…お願い致します」と震える声で了承してくれた。










広げていたテーブルセットを片付け、コタロウを後部座席に乗せて女性を助手席に乗せる。

最初は「鉄の魔物に乗るのですか?!」と驚いていた女性だが、乗せて走り出してしまえば興味津々といった様子で前のめりになり森の先を見ていた。


私達がいた場所から村までは人よりも早い獣人の足でも1日くらいかかるらしい。

車ならたいした時間はかからないだろう。


女性はサニー、と名乗り村まで行く間にぽつりぽつりと事情を話してくれた。




ニャルガ族、とは種族名の総称で、部族ごとにそれぞれ族名を持つらしい。

サニーの部族はラハ族で、外で名乗る時は「サニー·ラハ」という風に名乗るのだと。

そうすればどこの出身のニャルガ族だとわかるらしい。


日本で言ったら自分の名前の後ろに出身県名をつけるようか感じか?とツッコミをいれたいが我慢して車を走らせ続ける。


車に縋り付いてきたのは、ラハ族の占い師が「村を救うのは、じきに森にやってくる鉄の魔物…」と言い残し死んでしまったそうで、サニーは1週間程前に村を着の身着のまま飛び出して”鉄の魔物”を探していたらしい。




私を見て最初、警戒したのは人間は獣人の敵である。という獣人達の常識で単純に怖かった。という事だった。


獣人のオスは力が強く生命力も強い為、迷宮に潜る冒険者達の”肉の盾”として使う。

獣人のメスは美しいものが多いので性奴隷に。


耳を塞ぎたくなる人間による残酷な話。




でも戦闘が出来るのなら戦えばいいじゃん、といえば、テイマーと呼ばれる”調教師”が1番獣人の中では厄介で、そのテイマーが能力を発動して呪印をつけられてしまえば人間に逆らえなくなってしまうらしい。

呪印は獣の本能的な部分につけ込み支配してくるのだそうで、獣人には抗いようがないのだという。


サニーはコタロウが居たことで、私もテイマーかと思い警戒したと言っていた。




そして、ここからが本題。


なんで人間に遭遇するかも知れないし、”鉄の魔物”も協力してくれるか解らない状態で危険を侵してまで村の外に出て助けを求めてきた理由。


「村に…流行病が広がっているのです…」


流行病…?

それだと私に出来ることなんて無いんじゃないか。

医療の知識なんて常識の範囲でしか私は知らないのだ。


「村のババ様も初めての病だと…。ケビ族はみな、死にました。ミトラ族は数名を遺し死にました…。この森の中に住んでいたニャルガ族の村は5つありましたが今は生き残りが多いラハ族に生き残った者達が集まっています。」



なるほど。

それでまだ元気なサニーが村を代表して”鉄の魔物”を探しに来たってわけか。


「その病気ってどんな症状なの?」


「最初は季節病の様な症状から、次は口の中に出来物ができ、高熱が出たら死が近いと言われております…。次々と村のものに広がっていき、かかったものは皆、食事もまともに取れず痩せ細り高熱に魘され死んでいきました…」


ん?口の中に出来物…?高熱?


『昔、虎狼痢(コロリ)が流行った時は酷い嘔吐と下痢であったが、その様な病は聞いた事がないぞ。』


後ろで聞いていたコタロウが口を挟んできた。

昔、医療系ドラマでやってたな。

コロリと死んでしまうから虎狼痢(コロリ)

現代ではあまり聞かなくなった病だ。


「んー…心当たりがあるのはヘルパンギーナだけど…それで死人が出るとかは聞いた事がないんだよなぁ…」


ヘルパンギーナ、乳幼児が主にかかる病気だが大人が感染すると重症化しやすい病気だ。

2年前、私もたまたま泊まった民宿のお孫さんが保菌していて移ってしまい酷い目にあった。

んー。と考えていれば、隣で聞いていたサニーが目が溢れそうなほど見開いて私を見ていた。


「その病はどうしたら治るのですか?!娘が…私の娘も口の中に出来物が出来てしまっていたのです!!!もうっ…もう、高熱が出てるやも…」


娘さんを心配するあまりまた泣き出してしまったサニー。


「落ち着いて、サニー。なんにせよ、村に行けば何とかなるかもしれないから…」



私が知らない病であればどうにもならないが、ヘルパンギーナであれば重要なのは治療ではなく感染を予防する事なのだ。

感染症の予防方法であれば私でも教えてあげられる。

予防が徹底されれば感染症は自ずと終息していく。




「とりあえず、早く行こう。」


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