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神様、仏様の言うとおり!  作者: 浅井壱花
どんどん進めっ
19/44

どうしてそうなった

大きく組まれていたキャンプファイヤーの組木も夜が耽けるにつれ小さくなり、子供や老人は既に家に戻っている。


広場に残っているのは酒を飲む男性達と、話しに花を咲かせているご婦人達だ。

私の横には村長夫妻。


私とコタロウはご好意で村にある民宿のようなところに好きなだけ泊まっていいとの事で久しぶりに足を伸ばして眠れる!と嬉しくなった。


車中泊になれると車の中が1番落ち着くようになるのだが、如何せん、長期間車中泊だと体が痛くなる。


1度、ハンモックを買おうかと考えた時期もあったがキャンプがメインでもないのに必要ないだろうと買わなかったのだ。

こちらの世界でハンモックに代用できるような布があったら購入するのもいいかもしれない。

なんせ、こちらは向こうと違い森が多いのだし。






「ユキナ様、お次はどちらに向かわれるのですか?」


飲めや歌えやの騒ぎの中にコタロウも混ざりにいってしまい、蜂蜜酒に似たお酒をチビチビと飲んでいた私に村長の奥さんが聞いてきた。


「えっと…まだ決めてなくて…」

「そうなんですね。お強いから王都に行って勇者様のパーティを目指すのかと思いましたわ」


ほほほ、と上品に笑う奥さんに「勇者様のパーティ?」と聞いてみる。


「勇者様のパーティは冒険者の中でもよりすぐりの者達が集まり、暗黒大陸に巣喰う魔王を倒す方々の事ですわ。今年も暗黒大陸に挑む勇者パーティ募集のお触れが出てたのでユキナ様もそちらに行くものだと…」


なるほど。魔王もいる世界なのか。

ふんふん、と奥さんの話を聞いていれば村長が私の肩をガシッと組み「ユキナ様なら魔王なんざ一撃さ!」と騒ぎ出した。


おっさん、完全に酔っ払ってる…。


奥さんが「失礼ですよ!」と諌めているがそんなの聞きもせずに村長は私を立たせ高らかに叫んだ。


「ユキナ様は魔王討伐もするそうだ!村の者総出で応援するぞーっ!!!」


酒を飲み踊っていた村人達全員の視線が私と村長に集まる。

えっ、えっ?となってるうちに、うおおおおおおぉ!!!!!と地響くほどの歓声が上がった。

コタロウも『流石、吾が見込んだ女よ!』と言っている。


「ちょっと…村長、悪ふざけが過ぎます…」


私の肩を抱きワハハッと笑っている村長に離れてもらおうと村長を押すもビクともしない。

普段力仕事をしてる男性に、非力な私が叶うはずないのだ。

こんなん無理なの見ればすぐわかんじゃん!魔王討伐とか何言ってんの!と引っぱたきたいのを必死に抑える。






「そんな女に魔王が倒せるわけないだろ!」



笑い声や歓声じゃない私に明確に敵意を向けた言葉に広場がシンッと静まり返った。

「なんだ、これは。せっかくBランク冒険者の俺のパーティがアンチマジックベアの討伐に来たって言うのに出迎えも無しでこのどんちゃん騒ぎ。ましてや、その女が魔王討伐だと?」

声の主はピカピカのシルバーの鎧を身にまとった赤毛の青年。

その表情は不快そうに歪んでいる。


「今すぐ言葉を撤回しなさい。そうすれば今この場でここに居る全員を懲らしめることはしないでおいであげましょう。」


青年の後に控えていた長い杖を持つ金髪の女性が声を張った。


「こいつらムカつくから全員ぶっ殺しちまおうぜ、シンシア!」


ゲヘヘ、と笑う両手剣を構えるチビの男。


シンシアと呼ばれた赤毛の青年は私をジッと見てきて「貴様!俺とどちらが強いか勝負しろ」と言ってきた。



なんなの。この状況…。


広場で村人達と遊んでいたコタロウも流石に空気を読んで私の足元まで戻ってきた。


偶然の産物で熊を倒せただけなので、私、本当は非力です。はい。

普通のアラサー女子です。


凪いだ気持ちで勝負を挑んでくる自称冒険者の人達を見ていれば、私が黙ってることに更に腹を立てたのか3人がそれぞれ騒ぎ出した。


『静まれ!!貴様らのような無礼者を吾とユキナが許すわけなかろう!!』


「…っへ?!!何言ってんの!!」


空気を読んで私の所に来てくれたのかと思った矢先に言い放ったコタロウ節に、騒いでいた冒険者達が黙った。

その瞬間に追い打ちをかけるように住人達も「そうだそうだ!」「帰れー!」と野次を飛ばし始める。


みんな悪酔いしすぎだ…。


諌めるまもなく帰れコールが始まれば、冒険者達はそれはもう童話の鬼みたいに顔を真っ赤にしていた。



「その女に決闘を申し込む!!そこから降りてこい!!」



なんでこうなるんだろ…。

意気揚々と下に降りていくコタロウと村長に肩を抱かれたまま冒険者達の前に連れられていく私。


痛いのは嫌だな…。


決闘とか何の冗談だよ。と思いながら、対峙するシンシアを見上げる。


殴られたら嫌だな…。怪我するのも嫌だな…。


そんな風に思っていれば、チビ男に絡まれていたコタロウの抜け毛がふわっと私の鼻を擽った。


「…っへぶしっ!!…いでっ!!!」

「ぎゃっ!!!!」

「シンシアッ!!!」


くしゃみの勢いを止めようと前屈みになってしまい、また体を起こした瞬間にゴチッと頭頂部に痛みが走る。


そして、鼻血を噴き出しながら倒れたシンシア。


イテテ…と頭を撫でながら周りを見れば、息を飲み私を見ている村人達とチビ男。

足元には尋常じゃない鼻血を出してノックダウンしてるシンシア。

その伸びてるシンシアを揺すり起こそうとしている金髪女。



「…あ、あの、大丈夫…?」


状況が何となくわかり、居た堪れない気持ちになりながらもシンシアに声をかければ、金髪女にキッと睨まれ「同情なんていりません!!好きにしてください!私の心は常にシンシアと共にあります!」と叫ばれた。


いや、どうにもしないし…。


若干引きながらコタロウを見れば何故か、よし!心得た!と言わんばかりに頷き、そのチビ男の股間に噛み付いた。


広場に響き渡るチビ男の絶叫。


「ちょ!!!コタロウ?!!!」


うううっ!!と唸りながらブンブン頭を振り喰らい付いて離さないコタロウ。

チビ男は白目を剥き、口からは泡を吹いている。



大興奮のコタロウを「メッ!!ペッしなさい!!」と抱き締めてやっと引き離した時にはチビ男は真っ青になり動かなくなっていた。


観戦していた村人の男達もみんな自分の股間を押さえている。




どんなエグい勘違いしたらそうなるんだよ…。と、抱えているコタロウを見れば褒めて褒めて!と言わんばかりに尻尾をフリフリとされた。


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