異世界グルメ
「ゲッ…また採ってきたの?」
ブルブルブル、と全身を振るわせて水気を飛ばしているコタロウにそう尋ねれば元気いっぱいに『うむ!』と答えてくれた。
「あら…冒険者様、そちらのお魚もコチラで調理致しますか?」
上座、というか祭壇のような場所に座らされ用意している様子をボーッ見ていれば、コタロウが戻ってきたのに気が付いた中年の女性がシー〇ンを指差す。
(え、現地の人ってコレ食べる感じ…?)
ドン引きしている私を他所に、コタロウが『うむ!頼む!』とお願いしていた。
最近のコタロウは生食から食材を”焼く”という調理方法にハマっているのだ。
なんでも焼きたがる。
シー〇ンは焼くと身がふっくらとして大変美味なんだそうだ。
石を積んで簡易的に作った竈にBBQ網をのせて焼いていたのだが、焼きあがった身はすごく美味しそうだった。
パラパラとハーブソルトをかけると、あら不思議。シー〇ンが白身魚のソテーに!
確かに、美味しそうだった。
でも、網で焼いている時にシー〇ンが絶命するまで絶叫して手足をばたつかせているのがどうにも食欲をなくさせる…。
「…お魚食べたかったの…?」
土埃まみれだったコタロウは行水のおかげですっかり綺麗になっていて、ボストンバッグの中から最近、コタロウ専用にしてあげたブラシを出しブラッシングしてあげる。
御朱印巡りの途中に寄った牧場で買った猪の毛のちょっと高かったブラシ。
自分で使うには毛が硬くて痛くて何回か使って放置してた代物だ。
コタロウにはその硬さが丁度いいみたいでコタロウ専用になった。
『水浴びに行ったら奴等ちょうど群れでいたのだ。もっと採ってこれるぞ?』
カカカッと得意げに笑うコタロウ。
そっかぁ。シー〇ンは群れでいるんだ…。
コタロウからの要らん情報に今後、行水できなくなりそう…と泣きたくなる。
「ユキナ様…こちらの者達が御礼を申し上げたいと…」
コタロウにブラッシングをして「わー、ツヤツヤー!かっこいー!」と撫でて褒めて遊んでいれば、村長が後ろに20人程村人を連れてやって来た。
さっき拝んできたおばぁちゃんの後ろにいた人達だ。
断るにして上機嫌なコタロウが『良かろう!』と言ってしまったので1人1人から御礼を言われた。
あまり元の世界では感謝されるような事をした記憶が無いので恥ずかしいような、むず痒いようなそんな感じ。
もっとも、話を聞いていれば熊の凶暴性は顔を顰めたくなるくらい凄惨なもので、出会ったが最後、村に熊を向かわせない為に自分が囮になって村から遠ざけねばならない。と掟があったという。
だからアルは村と反対方向の川原に走って来たのか…。
出会ったら死ぬ!と覚悟してたら助かったのだから、まぁ私が村人の立場でも熊を倒した英雄は拝むくらいはしてしまうだろう。
解体された熊は綺麗に皮を剥がされ、村の中央に置かれ、肉は恵みとして越冬する為の干し肉にする分と、今日焼いてみんなに振る舞う分とで分けられて置かれている。
他にも内臓やら説明をされながら色々と見せられたがグロいから見せなくていい、と断った。
日が落ちてくれば、村の外で作業していた住人も戻ってきて宴が始まった。
コタロウの採ってきたシー〇ンも調理され、目の前に並べられる。
白身魚のトマト煮込みのようになったシー〇ン。
ここまで綺麗に調理されていれば食べられる。と意を決して食べてみたら、ホロリと口の中で身が解けるほど柔らかく、甘みのある白身魚だった。
一緒に煮込まれているトマトスープも適度にスパイスが効いていて疲れがとれるような感じがする。
「…美味しい…。」
あの食欲を失せさせる見た目からは想像出来なかった美味しさに思わず感嘆の声を漏らせば、隣でめちゃくちゃ勝ち誇ったような顔をしているコタロウが視界の端に入った。
熊の肉は塊肉のまま焼かれ、焼きあがった外側から薄く削いで食べるのがこの村のポピュラーな食べ方のようで、エゴマの葉に似た味の葉っぱに巻いて食べるそうだ。
味は脂身が多く、少し獣の匂いがする豚肉のようなそんな感じ。
ちょうど巻いてる葉がその獣の臭さを中和してくれるので食べやすい。
この世界の魔物のお肉は意外と美味しいのかもしれない…。
そんな事を考え、コタロウに言おうとしたが言ったら調子に乗って魔物を狩りまくりそうなのでやめておいた。