剣と魔法のファンタジー
「うわああああぁぁぁっ!!!!…っ!!あんた達も早く逃げろおぉぉぉぉぉぉ!!!!」
森からの地響きと共に聞こえた人の叫び声。
臨戦態勢のコタロウと熊よけスプレーを構えていた私に気付いたのか、逃げろ!と警告している。
森からの随分走ってきたのだろうか、遠目からでも顔が赤い。
「人だ…」
人が走ってきたことに呆気に取られて、熊よけスプレーをおろした瞬間にコタロウから『構えろ!!!』と怒鳴られ構え直す。
「ぎゃっ…!!!!熊?!!」
「ガァアアアッ…!!」
こちらに向かって走ってくる人の後を追い森から飛び出してきたのは2m程度の真っ黒な熊。
元の世界でも山奥で車中泊している時に何度か遠目でも見た事があったが、牙を剥き出し、ヨダレを撒き散らしながら走ってくる熊は恐ろしい。
恐怖で動けないでいる私の目の前でこちらに走ってきた人が、足を縺れさせたのか盛大に転んだ。
まだ年端のいかない少年だ。
「ぁ…あぁ…」
ガタガタと震えて尻もちをついたまま動けないでいる少年に熊はどんどん距離を詰めていき、あっという間に少年の足先まできて止まった。
のっそりと立ち上がった熊が威嚇するように咆哮して丸太のような腕を振り上げる。
少年が頭を守るように体を小さく縮こませた。
「これでも喰らえっ!!!!」
シューーーーーッ、と音を立てて噴射する熊よけスプレー。
元々、熊を撃退出来るなんて思っていない。
少年が逃げれる隙が作れればいい。
ガァー、ともギャーともつかない熊の叫び声に恐る恐る、といった様子で少年が顔をあげた。
「早くコッチに!!」
スプレーの液は見事に熊の目に入ったのか、巨体を倒し、顔を地面に擦り付けて暴れ回っている。
その間に少年の元へと駆け寄り、手を引き車のそばにいく。
ギャンギャンとコタロウが熊を威嚇し殿を務めてくれていて安心して背中を預けられる。
相棒の中に少年を押し込み、私の秘密兵器ポーチをダッシュボードの中から取り出す。
私の相棒を舐めるなよ!!
なんでも搭載してるんだからなっ!!!
熊よけスプレーを再度、熊に向け噴射し、秘密兵器ポーチの中から爆竹を取り出し火を付け熊に投げる。
けたたましい音を立て足元で破裂する爆竹に熊が立ち上がり、私の方に口を開けたまま走ってくきた。
『ユキナっ!!!!』
「喰らえっ、コンニャロー!!!!」
2個目の爆竹に火を付け、熊の口の中に向けて投げる。
本当なら熊とかの野生動物に遭遇したら逃げるが勝ちなのだ。
でも、今日の私は負ける気がしない。
ブンッと音を立てて飛んでった爆竹は奇跡的に熊の口の中に入る。
「よっしゃっグェッ……!!」
熊の口の中で破裂した爆竹に一瞬動きが止まり、勝った!とガッツポーズをしようとしていたら、最期の力を振り絞ったの私を狙い爪を振るってきた。
その攻撃を予測してたかのように私に体当たりしてコタロウが熊の爪先から私を避けさせた。
コタロウの体当たりは私の脇腹にヒットして私が倒れる。
脇腹へのタックルは地味に痛いのだ。
泣きそうになりながらコタロウを見れば、血を吐き倒れている熊に未だに警戒している。
「…イテテ…。ひどいよ…コタロウ…」
文句を言いながら起き上がれば、キッとコタロウが目を吊り上げて私にガウッ!とひと鳴きしてきた。
『貴様!吾の時といい、此度といい、死にたいのか!!!』
ブヒュ…カヒュ…と変な呼吸音に合わせて血を吐いている熊。
まだ生きてるが、もう時間の問題だろう。
“運良く”爆竹が口の中に入り、”運良く”口の中で弾けた爆竹が熊の喉と気管を切ったのだ。
コタロウからしたら真っ向勝負を挑んだ私は相当、危険な事をしたように見えたのだろう。
現に私がコタロウにタックルされる前にいた場所は生々しく土が抉れていた。
もし、私がそこに居たままだったら大怪我では済まなかったかもしれない。
ゾッとしながらも、血を吐かなくなり動かなくなった熊を見れば結果オーライなのでは?と楽観的に思ってしまった。
相棒の中に隔離していた少年はポカンと口を開いたまま固まっている。
「閉じ込めちゃってごめんね、もう大丈夫だよ。」
そう言って相棒の扉を開ければ、少年が私を見て口をパクパクとさせていた。
「…あ、あんた…アンチマジックベアを倒しちまったのか…?」
え、なにそのクソダサいの。
「へ?」
「あんた…あの、アンチマジックベアを倒したのか?!!」
「…いや、2回も言わなくていいよ。」
だから、なにそのクソダサい名前。
そんなの倒したとか倒さないとかじゃなくて、何回も言われる方が恥ずかしい。
『この怪物はアンチマジックベアというのか?』
あ…そう。
コタロウさんもあんまり横文字強くないのね…。
なんだよ、アンチマジックベアって。
魔法に強いとかそんな感じか?こら。
わかり易すぎんだよ。
「は、はい…Bランクの魔物で、冒険者ギルドに討伐依頼を出てたんですが…高ランクの冒険者パーティじゃないと倒せない厄介者です…」
あー、ハイハイハイハイ。
Bランクの魔物に、冒険者ね。
ファンタジーーーーッ。
「ねね。もしかして、コイツって魔法が効かない特性持ちとかなの?」
「その通りです…魔法攻撃は無効化してしまい、接近戦では力が強く人の手には負えなくて…。アンチマジックベアが村に入ると村1つ潰れるとも言われています…。よ、よくわかりましたね…、もしかして!討伐依頼に来た冒険者様でしたか?!!」
あ。マジかこれ。
わかり易すぎんだろ。
この世界のモンスター。
すごくキラキラしたような視線を向けてくる少年の目が痛い。