食べ物
汚れた服のまま川に入り、ざぶざぶと水をかき分けて遊んでいる私に、スイスイと気持ち良さそうに犬かきして泳いでいる白狐。
川は見た目よりも深かったが、真ん中のさらに深くなっている部分に行かなければ水流も穏やかでちょうど良かった。
あらかた汚れが取れれば、某キャンプメーカーから販売している化学薬品を使っていない環境に優しい洗剤を取り出し頭と体、服と全てを洗っていく。
だだっ広い草原の川原なので人目も気にせず全裸になり洗濯をしている私に、白狐が『服を着ろ!痴女か!!』と叫んできたが動物に見られて恥ずかしがるものも変な気がして無視した。
服を洗い終わる頃、白狐が何をしている?と興味を持ったのか私の近くに来た。
行水であらかた汚れは落ちていたが、所々落ちていない汚れが目につき問答無用で洗剤をかけ泡立てる。
やめろ!やめろ!と最初は騒いでいたが、次第に大人しくなり私のされるがままになっていた。
ワンコと一緒に旅とかも素敵…。そんな感じの素敵経験と、汚れが落ちて満ち足りた気分だ。
洗い終わって2人で一緒に水で流し上がれば、白狐はタオルで拭きあげる前にブルブルと体を震わせて水気を払っていた。
細かい水飛沫が私にも飛んできたのでさっさとタープの中に逃げ込んだ。
Tシャツとハーフパンツに着替え、タープの中に濡れた服とタオルを干し乾かす。
濡れ髪をまとめるタオル地のターバンを付けてタープの外に出れば、外に置いてあったテーブルの上に魚のようなものが2匹ビチビチと音を立てて置かれていた。
「ひえっ!!」
『おい、食え。人の子、腹が減ったろ。』
「い、いらないっ!!」
『なんだと?!無礼だぞ、貴様!』
「だって、それ!!なんか、魚じゃないもん!!!手足生えてるけど?!!!」
そう。
分かりやすく例えると昔流行った家庭用ゲーム、シー〇ンのような顔がついて手足が生えてる鯉サイズの半魚人的な生き物だった。
怖い。怖すぎる。
白狐はソレを食べたらしく、白身の淡白な魚で美味いぞ!と言っている。
本当に無理ぃ…と半泣きになりながら車の中からカセットコンロと食材ボックスを取り出し、そのビチビチと動いている魚のようなものと距離を取り隅っこに設置した。
カチカチと音がなり着いた火に、1人用の鍋をおきペットボトルの水を入れる。
グツグツと湧いてきたら、すぐ美味しいすごく美味しい袋麺を入れてほぐす。
鶏ガラ醤油のいい匂いにお腹が鳴る。
『おい、これをそれに入れろ。コイツは滋養があるぞ』
すぐに出来上がった袋麺を食べようと火からおろせば、白狐はまだ魚のようなものを食べろと勧めてきた。
先程までビチビチと動いていたが、息絶えたのか口から血を流し白目を剥いているソレ。
完全に無理。アウトだ。
文句を言っている白狐を無視して、麺だけかき込み食事を終わらせた。
片付けをしようとする私の腕をお手をして制止させた白狐が私に真剣な目を向けてくる。
『その汁にコレを入れたら美味そうだ。貴様が食わぬのなら吾に寄越せ。』
おおぅ。なるほど。
アクアパッツァ(?)にするのね。
まぁ、汁は飲まないし魚のようなものも食べたくないので「良いよ」といって鍋を白狐に渡した。
『よし、コレで煮てくれ!』
死んだのかグッタリと動かない魚のようなものを鍋に入れて、コンロを鼻で指されれば触りたくないが鍋をコンロに置き火をつける。
「「…うぁあああぁあ…」」
火にかけて暫くすると、まだ生きていたっぽい魚のようなものが動き出し小さな呻き声のようなものが聞こえてきた。
(ああ、もう無理。トラウマだよ…。)
白狐は私の用意したキャンピングチェアに座り尻尾を楽しそうに振りながら、鍋の様子を見ている。
グツグツと鍋が沸騰してくる頃には呻き声はとまり鍋も動かなくなった。
鍋の中を見ないようにしながらコンロから鍋を下ろし、白狐の前に置いてあげる。
『む!これは美味いぞ!』
最初、熱そうにしていたが直ぐにガツガツと食べ始めた白狐は美味い!と絶賛している。
本当かよ…と、チラリと横目で見た時、白狐の間から顔と手がブランと垂れ下がっていてゾゾッと背筋に嫌なものが走った。
『どうだ?貴様も食べたくなってきただろ?いいんだぞ?わけてやっても。』
「けっこうです!!!!!」
どんなにお腹が空いてもシー〇ンは食べたくない。