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第21話「ダンジョン探索」


 積み重なる魔物の死体は、その毒性によってどろどろに溶かされつつある。

 シャミーは惨たらしいその様子を振り返るべくもなく、残念な事実を皆に告げる。


「ラグーン・ラビットはDランクモンスターっすよ」


 シャミーはダンジョンにおいて、ひたすらに強かった。

 前方にいるモンスターをカルシェとハルナが一つ一つ丁寧に倒していくのに対して、シャミーは背後から追撃してくるモンスターを全部まとめて処理していく。


「そう言えば、主な魔法は回復魔法じゃないって言ってたですよね?」


 二人の戦いにもそろそろ余裕と慣れが出て来たころ、回復役として付いてきたリーナが一つの提案をする。


「攻撃にしろ防御にしろ魔物相手に有効な魔法が使えるってことですよ! 本当のケルン君をリーナは見てみたいです!」

「俺なんかが攻撃したって……」

「物怖じしなくていいんです。僕から見てもシャミーさんは強いですし、何かあってもフォローを入れてくれるですよ!」


 シャミーをちらりと見ると、「う~ん」と首を捻っていた。

 あれはどういう反応なのだろう。


「やってみてもいいっすけど……ちょっと距離置くっすよ」

「その反応、どういうことなんです?」


 一旦、カルシェたちを前線から下げて、シャミーの指示で俺が最前線に立つ。

 カルシェたちはシャミーの代わりに後ろから仕掛けてくるモンスターの対応をすることになった。


 出てきたのは、一体のアンクルラットだった。

 足が異様に発達したネズミで、かわいらしい見た目に対して、小さい身体から繰り出されるかかと落としは一撃でも喰らうと致命傷となりうる。

 そのため、直径50センチの鉛弾なんていう冒険者もいるとのこと。


 アンクルラットは一体だけではなく、群れを成して襲ってくる。

 最前線のメンバーが変わった、ということをモンスターも把握したのだろう。

 当然だが、二人より一人の方が弱い。

 単純に隙が生まれるし、魔力量も1/2だ。


 モンスターにとって冒険者のダンジョン侵入は生存領域に現れた外敵掃討に過ぎない。

 こちら側はただの訓練でも、向こう側からしてみたら生きるか死ぬかの戦いなのだ。

 だからこそ、ダンジョンは侮れない、らしい。


 そんなことを考えてここに来たわけではない。

 シャミー以外の全員がそうだろう。

 なんとなくの腕試しで入って――。


「てんてこまいにやられて帰ってくるのが普通っすよ」

「シャミーさんも最初はそうだったんです?」

「そうっす。親友だった子と一緒にダンジョンに潜って、痛い目を見て帰ってきたっす」

「こんだけ強いのに……考えられないよな」


 驚くカルシェに、シャミーは少しだけ笑う。


「私が最初にダンジョンに潜った時は皆より弱かったっすよ。なんて言ってもCランクだったっすから」

「それって……僕らのOGってことです?」

「OG……そういう言い方をしていいのかどうかは分かんないっすけどね。中退しちゃったっすから」


 そんなほのぼのとした話を聞き流しながら――俺はアンクルラットに焦点を定め。

 最大効率化を狙える範囲に照準を当てる。


「攻撃魔法・ファイア」


 一番低ランクの魔法。

 ただただ手元に火を熾すだけ、たったそれだけの魔法だ。


 だけど――少しだけ。

 保健室で見た強大な魔法が頭を過り、抑えめの魔法で実験してみた。

 ただそれだけの話だ。

 もし近づかれたらまた新しく魔法を撃てばいい。

 そんな単純な思考だった。


 なのに。


 ゴォウ、と言った巨大な反応が俺から洞窟の向こう側に広がっていく。

 火が灯る、なんて生易しい魔法なんかじゃなかった。

 何らかのガス爆発でも起きたのかというレベルで、炎が燃え広がる。

 アンクルラットの焦げる匂いがする。

 それだけじゃない、周囲を照らす光源すらも熱し――洞窟の岩盤をも溶かしていた。


 形容するなら、炎の壁、と言ったところだろうか。

 俺が見える範囲でもうこの洞窟に暗がりはない。


「ケルン、強すぎる――消火するっす!」

「あっつ! ヤバいぞコレ――」


 言われてすぐに対応できるほど、俺は頭が回っていなかった。

 というより、俺が使ったのはただのファイアだ。

 ここまでの被害が出るとは到底想像しておらず――。


「攻撃魔法・アイスボムですっ!」


 咄嗟のリーナの機転により、炎の壁が出来ていたところに氷の爆弾が投げつけられ周囲は一気に沈静化する。

 それでも炎の勢いは止まず、来た道を撤退することになってしまった。



「だからダンジョンは魔法使いが向いていないと言われるんす」


 火の勢いが弱まったわけではない。

 だが、気管を灼くほどの熱波は既に襲ってこない。

 ある程度遠くまで来たところで、俺はすこし強めの氷魔法を撃ち――。


「多分、この先の洞窟はすべて凍ったっすよ……当分魔物は出てこないっすね」

「なんか、ごめん」

「……なんでこんなこと黙ってたんだよ、ケルン……」

「黙ってたんじゃなくて、俺も知らなかったって言うか……」


 アレットはふるふると震えながら俺を見遣る。

 その視線を逸らした先にいたリーナは、なぜだか少しご満悦の表情だった。


「凄いじゃん! こんだけの力があればユージェだって一撃だろ!」

「それは分からないけど……」


 ここ数日で明らかに分かったことが一つだけある。

 島を出て以降、俺の魔力に変質が起こっていた。

 保健室で回復魔法を使った時に薄々気が付いていたことでもある。


 使える魔力量が爆増して――普通の魔法を易々と使えない現象が起きている。


「ケルンくんの魔法は非常に強いです……それは保健室の一件で分かってました。でも、他の魔法も同じなんですね――研究のし甲斐があるのです!」

「それってつまり、加減が出来てないってことだろ?」

「そういういい方もできるのです。そういう意味ではこの洞窟ダンジョンは最悪かもしれないです」


 けろっとした顔で答えるリーナに、シャミーは苦笑いを浮かべる。

 だが、大まかな所に関しては同意見なようで、頷くばかりだ。


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