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第11話「魔法試験」


「これ、大丈夫なのかよ!?」

「大丈夫よ、ザーシュがこうなるのは想定内、というかいつものことだから」


 男性教諭――ザーシュという名前らしい――がこうなることを予測していたと語るのは、魔法使いの女性教諭。


「これが想定内って、魔物の数がとんでもないことになってるんですけど!」

「そうね……十数匹で収まればいいけど」


 その涼し気な表情には、一切の焦りが見られない。

 俺とシャミーがあの森で襲われたときもそうだったが、シャミーは逃げることを選択していた。

 モンスターの強さに関して俺はほとんど分からないが、火山イノシシ一匹ですら今のところ戦績は実質相打ち1頭だ。


 ……というか、街に危害が及ぶ可能性だってあるだろうに。

 この区域だけ壁が取り払われているのは周知の事実だろう。


「限界だと思ったら言ってね、それまで見てるから」


 この人もシャミーと同じようなことをする。

 ここでは放任が基本なのだろうか。


 魔力を測ると聞いていたから、ついつい水晶玉のようなものを想像していたのだが、そんなシステマティックなものは無いのだろうか。


「わかりました、やれるところまでやってみます」

「その意気だぞ、少年」


 ザーシュ先生から一言、激励を貰って俺はモンスターに向かって手を翳す。

 これはただのポーズだ。

 その行為に意味はない。


「攻撃魔法――光の矢ッ!」


 本当は、叫ぶ必要すらない。

 だけどこうして言葉に出すのは宗教上の理由と同じ。

 しいて言えば他と連携を取りやすくするためだろうか。


 ああ――久々に魔法を使う。

 こちらに来てからこの方、さっきの防御魔法を除けば『青空迷宮』しか使っていない。

 きちんとした攻撃魔法を使うのは久しぶりだ。


 かつて在籍していた士官学校では光の矢の連射速度が問われていた。

 人海戦術がメインだったため、攻撃の威力よりもとにかく数が求められていたという背景がある。

 実際、光の矢の殺傷能力は殆ど無い。

 代わりに、誰が使っても一定の攻撃力があるため重宝されていた。


 だから、俺が極めなければいけないのは速度だった。

 とにかく早く、矢を装填している間に次の矢に意識を移し、その片手間に照準を合わせて発射する――そう言った訓練をずっとルーナ島では繰り返してきた。


 ファンには終ぞ敵わなかったが、これが生かされるのなら、今だろう。


「発射――ッ!」


 自分の熾す光は、眩しくない。

 自分の身体とまるで同一の存在であるかのように視覚を邪魔しない。

 一番近くに居た四つ足の魔物に照準を向け――撃つ。


 光の矢が眩しくないということは、俺自身そのサイズを認識できていない。

 かつてルーナ島で使っていた時よりも、はるかに強い魔力が自分の中から湧き出てくるということだけが感覚で理解できた。


 一撃が命中する前に、次の矢を放つ。

 矢が発射されたその瞬間に、次の矢を装填する。


 視覚は魔物の索敵にだけ集中、そこに焦点を絞って撃つ――それだけでいい。


 合計30発ぐらいは撃っただろうか――初めて『ドン』という命中音が聞こえた。

 

 魔物は屠れただろうか。

 空中と違って『撃墜』という分かりやすい指標が存在しない。

 羽根を捥ぐだけで墜ちていった魔物と違い、地上の敵には対処法がない。


 だから、敵わないとさえ思ってくれればそれでいい。

 要は威嚇射撃だ。


「――そこまで」

「でも、まだ全然」

「そうね、でもこれ以上の攻撃は無駄よ」


 土煙がもうもうと立ち上っている平原の影に、まだいくつもの魔物が存在している。

 その中でキラリと輝く眼は、いまだに闘志を失っていないものがいくつもあった。


「でもあの目はまだこっち狙ってますって!」

「この辺りの魔物は、私の方が詳しいわ」


 距離は随分と離れている。

 その分――俺が撃ったまま飛び続けている光の矢が着弾するまでのタイムラグが存在する。


 光っていたはずのいくつかの瞳は、光の矢をもろに喰らった後、その輝きを失わせた。

 倒した、ということらしい。

 緩やかな風が煙を排除していく。

 そこは、草原だった場所とは思えない程に土が抉り返っていた。


「うん、ギルド長から聞いていたとおりね、君は魔法の素質については問題ないわ」

「ありがとうございます!」


 この学院に来てまだほんの数分しか経っていない。

 とはいえ、入学試験なんてこんなものなのだろう。

 この規模の学院だ、一人一人にそれほど時間は掛けていられないのかもしれない。


「じゃあ次、筆記試験だけど、これは話は聞いてるわよね?」

「筆記試験……?」


 ※


 そこには一つの机と椅子があった。

 たんなる物置のような場所――というか、何らかの準備室だろう。


 そこに時計と筆記用具、そして問題と解答用紙がぽつんと置かれ――。


「はい、タイマースタート」


 言われるがままに問題を開ける。

 そこには、レミス王国の歴史に計算問題、そして魔物の対処法を埋めろという問題が所狭しと並んでいて。


 ルーナ島は1000年間地上から隔離されていた浮島だった。

 その間、文字が変わっていなかったということは奇跡のようなものだ。

 そして、それ以上の奇跡は起きない。


 モンスターの分布は違うし、戦い方も違う。

 知らない武器もあれば、貨幣も違う。

 先生が言っていたような『型』も知らなければ、そもそもレミス王国の存在すら知らなかった。


 そんな俺が問題なんて解けるわけもなく。


「何がケルン君なら余裕、だよ……」


 一人閉じ込められた物置で、俺はポツリと言葉を漏らした。


 ※


「試験結果は追ってギルド長に伝えておくわ。今日は短い間だったけど、お疲れ様」


 奇跡は起きない。

 偶然知ってる問題が出るなんてこともなく、ほとんど0点も同然な回答を提出し、先生に別れを告げる。


 学院の門から追い出され悲嘆に暮れる俺を前に、物陰から手が出てきた。

 こちらに手招きをするジェスチャー、あれは間違いなく俺を指しているし、誰だかも見当がつく。


「どうだったっす? 余裕だったんじゃないっすか? ケルン」

「多分、シャミーもギルド長も俺のことを買い被りすぎなんだと思うよ……」


 青褪めた俺の顔を見てから家に帰るまで、シャミーは少しだけ俺に優しかった。




7/9 12話になっていたのを11話に修正しました。

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― 新着の感想 ―
[一言] 「その意気だぞ、少年」 坊主か少年か統一しないと違和感出ます この声かけだと紳士っぽい
[気になる点] 計算問題があるなら0点も同然ってことはないんじゃ
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