第8話 武闘大会
「レディーースエーーンジェントルメェーン」
巻き舌の心地良い実況こだまする。
「お待たせいたしましたっ! 闘都ドーラシトの武闘大会準決勝第二回戦を始めますっ! 先程の準決勝第一回戦では王都の自称・四大貴族のはみ出し者!ウェイン・ウェゲナー選手が相手を全く寄せ付けない見事な圧勝劇を見せてくれましたっ! ですが、この準決勝二回戦も見逃せない名勝負になることは間違いありませんっ! 珍しくも女性同士の準決勝となりましたっ!」
円形の闘技場を埋め尽くす観客が一斉に大歓声を上げる。
「それでは入場していただきましょう! 龍の方角から現れるは全く無名の女性剣士! 一体誰が想像したでしょうか!? この長身細身のボンキュッボンの体から150㎏を越える重量級の選手を一閃で5~6メートル吹き飛ばすスーパーパワー!! その美しい顔からは想像もつかない剛剣魔剣!! ショートカットの赤髪で無表情なのがアンニュイな魅力です! その名わぁ! アリスゥーー!ヴァンデルフゥゥゥ!!!」
呼ばれてアーチの門をくぐり、砂地のだだっ広い闘技場に歩いていく。
スゴい大歓声だ。
ボンキュッボンはセクハラじゃねーか…
別に無表情を決め込んでるんじゃなくて緊張してるだけなんだけど…
ど田舎から旅に出て半年、この大観衆の中、上がらない方がおかしい。
美しい顔っていうのはちょっと嬉しいけど…
腕試しのつもり軽い気持ちで出た武闘大会で準決勝まできてしまうとは…
「アリス選手の快進撃を止められるか!? 虎の方角からはこちらも今大会は初出場! 閉ざされた都、王都より来た美少女剣士! その身のこなしは流麗であらゆる選手を翻弄し! 無傷で準決勝まで上がってきた超技巧派です! その名わぁぁ! ミシェルゥーー!パァーリィィーー!!」
大歓声の中、虎のレリーフをあしらったアーチをくぐってきたのは伸長150㎝そこそこの肩ぐらいまで伸ばした黒髪をポニーテールにした10~5,6才くらいの少女だった。
細身のショートソードの柄を握り、背筋をしっかり伸ばして歩いてくる。
育ちがよいのか、歩き方には気品があり、口はきっと結んで絞まっているのにタレ目のおっとり顔が可愛らしい。
闘技場の中央で見つめ合う。
距離は1メートルほど。
「よろしくお願いします」
彼女は礼儀正しくお辞儀をした、声まで可愛らしい。
「よろしくお願いします」
私も彼女に習い、お辞儀をした。
「では!準決勝第二試合!! レディィーーー!!ゴオォォーーーーー!!」
ガアァァァァン
と試合開始の銅鑼が響き渡った。
背中から武闘大会用の刃を潰した大剣を抜き放つ。
彼女もショートソードを抜いて刃をしたに向け、片手で剣を持ちもう片方の手は胸の前で構える。
切っ先が油断なくゆらゆらと揺れている。
「さぁ!柔と剛の世紀の一戦!!先に仕掛けるのはどちらか!!お互いに先を取り合う睨みあいで幕をあけました!」
私は大剣を下段に構え油断なく彼女の胸の辺りを注視しながら左に回り続ける。
彼女が後ろ脚で地面を蹴り、一歩距離を積めた瞬間、私も渾身の力で地面を蹴り一気に間合いを積めて片手を離し手を胸の前で交差させて彼女の脇を通り抜けざまに横凪ぎに大剣を凪ぎ払った!
彼女は7~8メートルほど後ろに吹っ飛び、一回転してズザザッとブレーキをかけながら着地を決めた。
「ミシェル選手が吹き飛んだぁー!!!先に仕掛けたのはミシェル選手!!ですが踏み込んだ瞬間にアリス選手が後の先を取り強烈な一閃!!凄まじい速さとパワーっ!!」
確実に捕らえたと思ったが手応えはほぼ無かった。
剣で受けながら後ろに跳んだのだろう。
後ろ足に体重を掛けた瞬間を狙ったのに凄まじい身のこなしだ。
彼女は少し考えるそぶりをしたが、こっちに向かって駆け出してきた。
私は大剣を彼女に向かって投げつける。
彼女は難なく回転しながら飛んでくる大剣を避けて間合いを積める!
大剣は轟音をたてて壁に突き刺さった!
私は腰からショートソードを抜いて迫り来る彼女を下から切り上げた!
彼女は回転しながら難なく避けて逆に私の右の胴をショートソードが襲いかかる!
凄まじい速さと剣さばき!
咄嗟に左に跳んだが態勢が悪い、そこを彼女が逃さず目にも止まらぬ連撃が追い討ちをかける!
剣を持ち変えて連撃を止めた!
そして返す刀で連撃を繰り出すが相手も凄まじい連撃!!
「凄まじい連撃の応酬だぁぁーー!!剛の剣が相性が悪いと判断したアリス選手!!スピード感溢れる剣技もお手のもの!!ミシェル選手を全く寄せ付けません!」
一端距離を取る。
示し合わせたように彼女も距離を取って間をあける。
「強いですね、王都の出身ではないんですよね?」
対戦中に喋って良いのかな?
「こっから南西の方の田舎町よ」
「世界は広いですね、ここからは本気で行きます。」
さっきまでとは比べ物にならない速さだ!
剣撃がぶつかり合い火花が散る!
この人間の限界を越えるスピード!
こんなに強い相手と戦うのは初めてだ。
(ノイマンを除いてだが)
それがまさかこんな美少女とは、世の中は広い
私はさらに速度を上げて連撃を繰り出す!
上中下にコンビネーションで切り分けつつフェイントも交え、さらに速度を上げる!
戦うのって案外楽しいものだ。
彼女は私の剣を紙一重で避けながら反撃の糸口を探っている。
膂力は圧倒的に私の方が上だ、受け太刀は態勢を崩されて不利と見たのだろう。
時おり剣を振ってくるが容赦なく弾き返す!
少しづつ、彼女を押し始めた。
「速い速い速い!!お互いに一歩も下がらずに撃ちまくる!!!これ程の闘いは滅多にお目にかかれない!!」
私は彼女の剣に狙いを絞った。
受け太刀しか出来ない角度から渾身の一閃!
彼女のショートソードがバキンと折れる、最初の一撃で剣にかなりのダメージがあったのだろう。 彼女は出来るだけ受け太刀をせずに避けていた、そこを狙ったのだ。
「なんとーーここで試合終了ーー!!手持ちの武器を失ったのでミシェル選手の敗けが確定しました!!」
ドオォォーーン
試合終了の銅鑼が響き渡った。
剣士が武器を失った場合は負け。
彼女が剣一本だけで挑んだのが仇になった。
「ありがとう、凄く勉強になりました。まさか心現術を使って手も足も出ないとは思いませんでした」
また彼女の方から挨拶された。
「いえっ、こちらこそ今まで戦った中で一番手強かったわ。闘っていて楽しいと感じたのは初めてよ。ありがとう」
彼女はニッコリ笑って闘技場を虎のアーチをくぐって去っていった。
「素晴らしい試合の後にまたまた素晴らしい物を見せていただきました!!互いの健闘を称え合う!!なんて素晴らしい光景でしょう!!!皆さん今一度両選手に惜しみ無い拍手をお願いします!!!」
割れんばかりの大歓声と拍手喝采の中を歩きながらこういう時は手を振った方が良いのだろうか?
そればかりを気にしながらなんとなく頭を下げつつ龍のアーチをくぐって私は闘技場を後にした。
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