第7話 暗転
「いい加減、気の長い俺でもイラついてきたぜ!一日でこんなにチビって言われたのは生まれて初めてだ!」
ランピオンが魔法剣を振るった!
ノイマンが凄まじい爆炎に包まれる!
「ノイマン!!」
私が叫ぶと同時に爆炎が一瞬で晴れた! うっすらとノイマンの周りが蒼白く輝いている!
「やるな!あの一瞬で結界を張ったのか!?こいつは凄腕だ!これならどうだ!!」
ランピオンは両手で魔法剣を構え凄まじい剣裁きでおびただしい爆炎を生んだ!!
肌が焼けそうな高温の熱風がここまで届く!
ノイマンを助けたいのに手下の男に上にのしかかられて身動きが取れない。
「その魔法剣はルシールか?」
あの爆炎でもいっさいダメージを受けていない!
「おいおい、どんな結界だ!?」
ランピオンの顔から余裕の笑みが消えた。
「何故、お前がそれを持っているかは今はいい。 アリスを放せ、誰も殺したくはない」
「カシラ、あいつはなんか不味くないっすか?」
周囲の手下達がランピオンの魔法剣を軽く防いだノイマンに恐怖感を抱き始めた。
「黙ってろ、今良いところだ。ノイマンって言ったな?」
ランピオンはちらりと私の方を見た。
「その名前聞き覚えがあるな、王都で王族を殺して姿を消した男、その王殺しがたしか名前がノイマン・ヴァンデルフとかって名前だった。お前だな?」
「!!」
ノイマンが王族を殺した?
「その若さでそれほど強力な結界を張れるのもおかしい、何より魔術のスピードが速すぎる。そんな真似が出来るのは・・・」
「黙れ!さっさと彼女を放せ!」
ノイマンの怒声にランピオンの言葉が途切れた
「そう怒るな、アンタが相手じゃさすがの俺も分が悪い・・・ だけど俺たちもやられっぱなしじゃ引けない・・・」
そう言って素早く下がったランピオンは押さえつけられている私の背中に大剣を突きつける、丁度心臓のある場所だ。
「よせっ!悪かった!もう十分だろう!彼女を放せ!」
叫ぶノイマンにランピオンは不適に笑う。
「言ったろ?やられっぱなしは我慢出来ないんだ…」
ランピオンは私の心臓に魔法剣ルシールを突き立てた
炎が私の心臓を焼くのを感じる。
ルシールは私を貫いて胸元から刃が覗いているのが見ないでもわかった。
激痛が体を駆け巡る
「あぁぁっ」
叫び声は途中でかすれて消えた
「逃げるぞお前らっ!」
ランピオンが叫び、私に突き立てた魔法剣を抜くよりも早くノイマンが魔法を放った!
魔法剣を掴んでいた腕が飛んだ!
「くそっ」
ランピオンは魔法剣を引き抜かずに傷口を押さえて手下と共に走り去った。
「アリスっ!大丈夫だ!必ず助ける!」
ノイマンが私に突き刺さった魔法剣を引き抜いて傷口を押さえる。
暖かな光が包んだ。
「ノイマン…やっと名前呼んでくれたね」
息も絶え絶えに喋る。
ノイマンは両手で傷口を押さえて集中している。
光が眩しい
「来てくれて…ありがとう」
涙が頬を伝っていく
死を覚悟した。
もう痛みを感じない…
「随分弱気だな、一緒に旅に出るんじゃ無かったのか?」
連れてってくれるんだ。
でも、いくらノイマンが腕利きの魔法使いでも焼かれた心臓はどうしようもないだろう…
私は最後の力を振り絞り、ノイマンの頬に手を伸ばし…
引き寄せて
生まれて初めてのくちづけを交わした
ノイマンに微笑みかける…
ノイマンが何事かを叫んでいるが聞こえない…
ひどく眠い…
私は瞳を閉じた…
暗い意識の底に堕ちていくような心地がした…
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眼を開けると自室の見飽きた天井があった。
夢を見ていた気がするが思い出せない…
体を動かそうとすると全身からギシギシと聞こえそうなほど関節が痛い。
何があったのか思い出した。
ゆっくり胸に手を伸ばす。
顔を上げてシャツの胸元から覗いたら右胸に古傷の様なものがあった。
どうやら心臓を焼かれたのに助かったらしい。
横になったまま首を回すと部屋の壁に見覚えのある赤い大剣があった。
ルシールだ。
私の心臓を焼いた魔法剣が立て掛けてある。
ゆっくり体をおこす。
頭から血が下がって、くらくらして吐き気がした。
一体どれぐらい寝ていたんだろう?
周りを見ると剣がある以外はいつもの自室だ。
生活感は全く無い。
私物と言えるものもほぼ無い。
自分を買い戻すための貯金の為に貰っていたお小遣い程度の給与はほぼ手付かずで置いてある。
だから私の部屋は殺風景極まりない。
ベッドから脚を下ろしてゆっくり立ち上がった。
ルシールを手に取ってまじまじ見つめる。
ガチャっと扉が開いた。
振り向くと目を見開いたミーナが立っている。
持っていたおしぼりとお湯を張った桶を落としてガタコンッとすごい音を立てた。
「ミーナ、わたしどれっ」
私の言葉が言い終わる前にミーナが抱きついてきた。
「心配したのよっ!ノイマンさんが血塗れのアリスを運んできて治療してくれてっ。傷は塞がっても貴方・・・ 二週間も目を覚まさなかったんだからっ」
泣き出すミーナの頭を撫でながら謝った。
「ありがとう、二週間も寝てたなんて・・・ お腹がペコペコな理由が分かったわ」
そう言うとミーナは笑いだした。
「あなたの大好きなお粥を作ってあげる」
私はお粥が大っ嫌いだ。
「ありがとう、卵も入れてね」
そう言ってまた笑いだした。
ミーナはひっくり返した桶を片付けてすぐ戻るからと言って出ていった。
しばらくするとノックの音が聞こえた。
ノイマンかな?
私がどうぞと言って入ってきたのはマスターだった。
「大丈夫か? アリス」
そう言って笑った、ホッとしたような疲れた笑顔だ。
「マスター! 二週間も休んでごめんなさい」
「いいんだ、無事で何よりだ。 しっかり体を治してから、また頼むよ」
マスターは何事かを言おうか言うまいか考えているようだ。
分かりやすく顔に出るのはマスターの方じゃないかと私はおかしくなった。
「マスター、私の命の恩人は?」
「それなんだが、実は…」
「アリス、玉子粥ですよー」
と、マスターが言いかけて、ミーナが入ってきた。
「ん、話は食事の後にしよう」
マスターはホッとしたように立ち上がって出ていってしまった。
「何かあったの?」
ミーナに聞いてみた
「んー、マスターに聞いた方が良いかも」
ミーナも言いにくそうにしている。
「ふーん…ねぇミーナ。 ノイマン、私を運んできたときどんな感じだった?」
私は何となくキスしたのを思いだして、それでノイマンは来づらいのかなと思い出した。
思い出したら顔が赤くなってきているのが自分でもわかる。
「あー、何て言うかな・・・ ここに運んできたときには・・・ごめんなさい、上手く言えないや。 それよりなんかあったの?アリス、顔真っ赤だよ?」
ミーナは話をそらすように言った。
「うん、それがさ・・・」
私は迷ったが、ミーナは私によく自分の恋の話をしてはアンタにも何か面白い話はないの?
と、いつも聞かれていたので話すことにした。
こんな恋のお話、ミーナ以外に話す相手がいない。
「大怪我してね、もうだめだと思ったときに、ノイマンとキスしたの」
私が顔を真っ赤にして話すと帰ってきたのは以外な反応だった。
ミーナはボロボロと泣き出したのである。
「どっ、どうしたのミーナ?」
「ごっ…ごめん…」
そう言ってミーナは飛び出していってしまった。
すぐにマスターが入ってきた。
表で立ち聞きしていたらしい。
マスターまで泣き出しそうな顔をしている。
「アリス…実はな…ノイマン君が……」
凄く嫌な予感がした…
「お前をここに運んですぐに…
死んでしまったんだ…」
うそだ…