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第5話 空中散歩

子山羊亭は朝、昼は食事を提供していない。


なので仕事は泊まりの客の部屋を掃除するくらいで、それもしてくれと言う客としなくていいという客がいるのでそんなに忙しくない。


夜の酒場が開くまでは仕込みを考えても昼頃までたっぷり自由時間がある。


私は明け方にランニングに出て、帰ってきたらノイマンと合流し途中朝御飯休憩を挟んで後はずっと昼頃まで稽古に励むのが日課になった。


稽古に付き合ってもらうお礼に朝昼の食事を作ることになった。


ノイマンは礼なんていらないと言ったがさすがになんにも無しでは私の気がすまなかったので良いおとしどころになった。


私がノイマンに毎朝稽古をつけてもらうようになって三週間程経った。


「凄いな、魔力で身体強化をしてももう互角か君の方が強いくらいだ」


ノイマンは汗一つかかずに涼しい顔で言う。


私は肩で息をしているのに。


「まだ一回も勝ってないけどね。ノイマン、あなたなんでそんなにスタミナあんのよ?」


初めて戦った時はやっぱりかなり手を抜いていたようだ。


私が心現術でパワーとスピードが上がり、実戦に近い稽古を積み上げて実力が上がるにつれてノイマンは私に合わせて絶妙に力を加減しながら上げていっている。


「いや、俺もいよいよ全力に近い。スタミナがある訳じゃない、魔力で身体を楽に動かしてるだけだ」


「心現術でもそれって出来る?」


「出来る。魔法程楽は出来ないが。 今、君が前より息が上がりやすくなってるのは前より動きのなかでやってることが増えたからだ。 速く走るのに目一杯強く地面を蹴りながら体が前に進む力を心現術で強化する。 心現術は高い集中力と精神力を使うからな。 そりゃ、疲れは増える」


なるほど。

「どうすれば良いの?」


「心現術にもっと頼ることだな、確かに強く地面を蹴った方が速く動くイメージはつけやすい。そこを出きる限り小さな力で蹴り出して心現術で極限まで大きな力にして移動出来るようになれば疲れないし、全力っていう概念が今より10倍くらいまで跳ね上がる。 ま、言うは易し行うは難しってやつだ」


絶妙なタイミングでまた新しい課題だ。 ノイマンは私が頭打ちになりそうな時に決まってヒントを出す。


「とは言えそろそろ昼飯にしよう。」


もうそんな時間か


「OK、今日は何が食べたい?」


ノイマンは食事のメニューを聞くと決まって、左手を腰に右手で顎をさすりながら、下を向いて考え込む。


「よし、今日はスープにしてくれ」


「はーい、ねえノイマン疲れたから子山羊亭まで肩貸して」


太股が限界だ。


「心現術で肉体の疲労を癒すのはかなりイメージが難しい。そのうち教えよう」


私に肩を貸して腰に手を回す。


ノイマンは顔だけ見ればかなり若い、10~5・6才に見える。そのわりに言葉や行動、ちょっとした所作にも熟練した物がある、速い話が見た目のわりに老けている。


こうやって女の腰に手を回すにしたってこれぐらいの年の男なら緊張しそうなものだがそんな雰囲気も全くない。


私はちょっとドキドキしているのに、私は全く女として見られてないんだろうか?


以前、年を聞いてもはぐらかされた。


「スープの他は?」


「任せるよ」


なんのスープにしようかな… ノイマンはいつもご飯を美味しそうに食べるので作りがいがある。


「じゃあ、パンに合うパンプキンスープに美味しそうなスズキが冷蔵室に合ったからムニエルでもしましょうか?」


「そいつは旨そうだ! さっさと帰ろう!」


そういって急に私を抱えあげてお姫様抱っこで走り出す!


「ちょっとノイマン!恥ずかしいって!!降ろしてよ!」


顔が耳まで真っ赤になっているのが鏡を見ないでもわかる。


「なら、こんなのはどうかな?」


そういってジャンプした。


地面に戻ることはなく、屋根よりも高く上がってそのまま空を飛んでいく!


「スッゴい!!やっぱり私も魔法覚えよっかな!!」


キリモミ回転したり一回転したり。


空中散歩を楽しませてくれる。


「もっと高く上がって!」


「喜んで!お嬢さん。」


グングン上昇していき、雲にも手が届きそうだ


遠くの地平線まで見える。


360度壮大な景色が広がっている。


山脈が連なっている先、海までは見えないがその先の故郷を思い出した。 海辺の漁村で両親は元気にしているのだろうか?


少し涙が流れた。


「どうした?」


ノイマンが私の顔を見る。


「あの山脈を越えた先に小さな漁村があってね。私はそこから売られてここへ来たの。 なんかちょっと思い出しちゃって。」


「両親に会いたいのか?」


私は首を横に振る。


「ううん、逆の立場だったら私は捨てた子供に会いたくないもの。 自分が捨てた子供にどんな顔をしてなんて言えば良いの? 罪悪感で苦しませるだけよ」


「そうか」


ノイマンは余計なことは言わない。


でも、さっきより私を支える手に力が込もった気がする。


「もうすぐ約束の一ヶ月ね。 ねぇ、ノイマンはここを出たらどこへ行くの?」


「俺は・・・ 探し物をしてるんだ。何処にあるかもまだわからない。もしかしたら無い物を探しているのかも知れない」


やっぱり聞いてもはぐらかすんだろう。


「一緒に行っちゃダメかしら?」


恥ずかしいから冗談っぽく言ってみる。


「考えておこう」


笑いながら地上の子山羊亭に向かって下降していく。


ノイマンの足が地面についたとたん体が重く感じた。


「楽しい散歩だったわ。 それじゃあ、私はあなたが私を旅に連れて行きたくなるような美味しいご飯を作ってくるとするわ」


イタズラっぽく笑いながらノイマンがなにか言う前に扉を開けて中に入った。


ーーーーーーーーーーーーーーーー


その夜、なんだかノイマンに告白でもしたようなこっ恥ずかしい気分になってノイマンの顔をまともに見れなかった…


失敗だったのはそれをミーナに話したことだ。


散々冷やかされた。


私が旅に出たがっているのも知っていたし、その時が近いのも彼女は察している。


私は奴隷として売られたので自分を買い戻さなければいけない。


彼女は私がその為の貯金をしていて、それがもうすぐ冒険資金も合わせて貯まりそうな事まで知っている。


友人の夢が叶いそうで祝福する気持ちと、友人がいなくなる淋しい思いで複雑な顔をしていた。


私がいなくなって寂しがってくれる数少ない友人だ。


仕事を終えてもんもんとしながら眠りにつき、次の日。


いつものランニングをしていると人影が見えた。


こんな時間に珍しいなと思っていると回りの林の中からも現れる。


どうやら囲まれたらしい。


「久しぶりだなネーチャン! あの用心棒は元気か?」


いつかの、私に難癖をつけてきてノイマンにボコボコにされた盗賊達だった。

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