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用心棒・ノイマン

「ありがとう」


用心棒は私が声をかけると思い出したようにこっちを見た。


「いや、仕事が出来て良かった、怪我は?」


用心棒は爽やかな笑顔で話す。


「大丈夫よ、凄く強いのね」


「酒場の用心棒は勤まりそうだろう?」


軽く広角をあげてイタズラっぽく笑った。


意外な顔だった。


若い、十代の後半かいってても二十才くらい。 黒髪黒目でちょっとたれ目だが鼻筋はしゅっとしていて優しそうな印象のかなりの男前だった。


用心棒が小山羊亭にやって来て寝泊まりをし始めて10日程、喋ったのは今が初めてだった。


いつもコートのフードを目深に被り、あまり誰とも喋ろうとしなかった。


ある日フラッと子山羊亭に来た彼に人の良いマスターが話し掛けると宛のない旅の途中と言うからここにいる間、用心棒をしてくれたら宿代をまけてやろうと言って雇ったのだ。


平和な田舎で用心棒などいらない、人の良いマスターらしい。


ところがまさかの揉め事が起こり、スマートに解決してしまった。


「騎士団にでもいたの?」


あれだけ腕が良ければそっちの方が勤まりそうだ。


「いや、じいさんに仕込まれたんだよ」


笑っている、冗談なのか本当なのかわからない。


「アリス!ノイマン君も怪我はないか?」


マスターが入り口から心配そうにこっちを見ている。


「大丈夫です」


店に入っていくと客の皆がよってたかって用心棒ことノイマンに集まってきた。


「にーちゃんスゲーな!一杯奢るから一緒に飲もうや!」


「どこの騎士様だ?さぞや名が通っているだろうになんでこんな田舎にいるんだ?」


「ただ者じゃねぇな!」


話題の少ない田舎なので引っ張りだこである。


「ありがとうございます、さっきの連中もこの村の人なんですか?」


席について村のじいさんに訪ねた。


「さっきの連中は見覚えねぇなあ」


「ありゃ多分最近近くの山を根城にしてる山賊じゃないか?」


王都に続く街道のある山に最近山賊が住み着いて困っている。


「物騒ですね」


ノイマンが深刻な顔をするが


「なに、滅多に人も通らんからあいつらも商売上がったりだろう。そのうちどっかに行くだろうってんで誰も気にしてないんだよ」


そう言ってみんな笑っている。


「じゃあ心配は無さそうですね、すみません、私は部屋に入らせてもらいます、もう揉め事を起こしそうなお客さんもいませんし」


じいさんに出してもらったビールをぐぃっと飲み干して席を立った


「いい飲みっぷりだな兄ちゃん!せっかくだしもうちょっと付き合ってくれよ!お前さんの話を皆聞きたいんだ、こんな平和な村だ、何か王都の面白い話しでもしてくれよ」


じいさん連中が名残惜しそうにしている。


「はいはい皆、用心棒さんも困ってるからその辺にしてあげて、さっきはほんとにありがとう。部屋でゆっくり休んでいいよ」


私が言うと皆はつまらなそうにしていたが


「ありがとう」


と言ってノイマンは早々に部屋に引き上げていった。 人付き合いが苦手という印象もないのだけど妙に人を避けている感じがする。


「マスター、あの兄ちゃんどこの人なんだい?」


じいさんが聞いた


「さぁ、あまり話したがらないんだ。 だけど、悪いやつじゃないのは確かだよ。皆もあんまり詮索しないでやってくれ。」


「マスター、私も今日は疲れたので休んでも良いかしら?」


「もう、お客さんもまばらだし構わんよ、ゆっくり休みな」


「ありがとうマスター」


私も二階へ上がっていった。


そしてまっすぐにノイマンの部屋に行きノックする。 はい、と返事が聞こえてきた。


「アリスです。ほら、さっき助けてもらった。 ちょっと話がしたいんだけど」


少しの沈黙の後


「どうぞ」


と声がした。


部屋に入ると窓際に座ってボンヤリ外を見ていた。


「さっきはありがとう」


「いいんだ、どうしたの?」


「凄い腕前だったから、ちょっと聞いてみたくて、剣を使わなかったのはどうして?」


「いちゃもんつけてきたくらいでバッサリぶった切りまでしないで良いだろう」


笑いながら言った


「剣の腕も良いのよね?どこかで騎士をしていたの?」


「この村の人たちは詮索好きなんだな」


苦笑いしている


「そうじゃなくて、実は私に剣を教えてほしいの」


「なんでまた?」


ノイマンは不思議そうな顔をした。


「私はいつかこの村を出て旅に出たいの。でも、女の一人旅じゃあ物騒じゃない? それで毎朝、我流で剣の稽古をしてみたり、体力作りに走ったり。 でも、出来れば誰かに習いたくて」


「そういうことだったのか。毎朝の稽古は知ってたよ、随分熱心にやっているからなんだろうとは思ってたんだけど」


笑いだした。


「何が可笑しいの?」


かなりムッとした。


「いや、ごめんごめん。 さっき客に絡まれてても全然動じてなかったのはそういう事かと納得してさ。 トレーニングはどれぐらい前から?」


「確か12才くらいから始めたから6~7年くらい」


ムッとしながら答えた。


「6~7年前から毎朝?」


今度は真面目そうな顔だ。


「毎朝」


考え込むような顔になった。


「相当本気だな、身売りか?でも、ここのマスターはいい人そうだし、わざわざ出ていかなくてもよさそうなもんだけど?」


「詮索好きなのね、そうよ、十才でここに口減らしに売られた。

確かにマスターはいい人よ。 凄く良くしてくれるし。 でも、私はこんな所で一生を終えるなんてまっぴら、だから毎日毎朝飽きもせずにトレーニングしてるわけ」


少し皮肉ってやった。


「なるほどね、よし、じゃあ明日から始めよう」


「いいの?」


思いのほかあっさりしていて、逆にこっちがスッキリ喜べない。


「いいよ」


なんなら嬉しそうにノイマンは笑っている。


「じゃあ、明日の夜明けに店の裏の井戸で待ち合わせで良いかしら?」


「わかった」


にこやか答える。


「それじゃ、おやすみなさい」


「おやすみ」


部屋を出て扉を閉めた。


何だかスッキリしないまま自室に戻り、寝支度を済ませて布団に入った。


人目を避けていた割にあっさり引き受けてくれたのは何故なのだろう?


下心でもあるんだろうか?


ちょっと胡散臭い気もする。


…考えていても仕方ない。


それよりもちゃんと剣を教わるのは初めてだ、そう思うと急にわくわくしてきた。


良し、明日に備えてさっさと寝てしまおう。 目を閉じてノイマンの華麗な身のこなしを思い出す。


明日が楽しみだ。



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