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天地戦争から1000年後の世界  作者: てるひこ
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第25話 迷宮の構造変化

 ——シルバリオンから北へ少し離れたところにある森の中を駆け抜ける3つの影があった。1つは羽が生えた大きな牛の魔物で、その自慢の巨体を披露するかのように木々を薙ぎ倒しながら森の中を突き進む。その羽牛(はねうし)を追いかける1つの影が大声で叫んだ。


「ピュイ!行ったぞ!」


 呼ばれたピュイは羽牛の進行方向に立ち塞がるように現れると右手に持った小さな杖を軽く振った。


「光よ照らせ!〝(ライト)〝」


 ピュイの杖から放たれた眩い閃光は羽牛の目を眩まし動きを止めた。


「ウェル!今だ!」


「おう!」


 掛け声と共にあらかじめ跳躍していたウェルは空から現れ落下しながら拳を握りしめた。


「くらえ!弱肉強食パンチ!」


 相変わらずダサ過ぎる掛け声と共に羽牛の脳天を地面に向かって殴りつける。その衝撃で羽牛の口は勢いよく閉まり、歯がいくつか砕け散った。


 白目を剥き地面に同化しそうな程めり込んだ羽牛を見てピュイは思わず苦笑いを浮かべた。


「もう何度か見たけど……相変わらずすごい威力だ……」


「そうか?これでも頭が消し飛ばない様に手加減してるんだけどな……いやー、昔はよくじいさんと狩りに行って吹き飛ばして怒られたなー。あははは」


 無邪気に笑うウェルを見てピュイは思った。


(これはジョークなのか、祖父と孫の物騒なほのぼのエピソードとして受け取ればいいのか分からない……)


 乾いた笑いを浮かべたピュイは少し悩んだ結果、とりあえず話題を変える事にした。


「ま、まぁとにかくこれで、この辺の魔物の討伐は完了だね。討伐証明部位を切り取ってギルドに戻って報告しよう」


「ああ、了解!」


 2人は羽牛の死体から羽の部分を綺麗に切り取るとギルドに戻る事にした。





 ——ウェルがエンゲラーブの一員になってから3日が過ぎた。その間2人は個人ではなくクランとして迷宮(ダンジョン)の構造変化によって出現した魔物の討伐に明け暮れていた。


「到着っと」


 討伐証明部位となる羽牛の羽をたくさん詰め込んだ籠を背負ったウェルはギルドの扉に手をかける。そのまま押し開き中に入るとピュイもそれに続いた。報告の為受付カウンターに向かうウェル達に少しずつ周りの冒険者の視線が集まる。ベクドとの一件以降、噂程度だったピュイの正体はギルド内に広く浸透してしまい、その結果ピュイは連日悪い意味で注目の的となっていた。

 ウェルは周囲の毎日飽きずに観察してくるような視線に嫌気がさしながらもピュイの方を振り返った。視線の先のピュイは、今までのフードを被っておらず素顔を晒していたが、心配そうなウェルに小さく「大丈夫だよ」と呟き笑い返した。


 カウンターに到着した2人をセレネが迎える。


「お疲れ様です。ウェルさん、ピュイさん」


「ただいま、セレネさん。これ討伐結果」


 ウェルは背負っていた籠を降ろし、カウンターの上にドンと置いた。


「こんなにたくさん!ありがとうございます。すぐに集計しますね」


 マミヤ同様、よたよたとカウンターの中の部屋に籠を運んだセレネはすぐに戻ってきた。


「今別の者が結果を集計中です。……それでお待ちいただいている間にお二人に先日起きた構造変化に関してお話があるのですが……お時間大丈夫でしょうか?」


 ウェル達はお互い顔を見合わせると肯定の意味で頷いた。


「ありがとうございます……じつは3日後に例の迷宮の調査をする事に決まりまして、そのための冒険者を集い始めました」


「3日後……随分と急だね」


 意外な決定にピュイは僅かに首を捻った。


「はい、そうなんです。我々ももう少し準備時間を設けて挑みたいと思っていたんですが、いかんせん溢れ出る瘴気の量が尋常ではなく、お二人にもお願いした北地区の魔物討伐が追いつかなくなってしまいまして……」


「それで思いきって迷宮の方を先に叩くって事か」


「はい。攻略は出来ずとも上層部の魔物を退治すれば、周辺の魔物化は防げるはずなので……」


 そのセレネの様子から2人は自分達が思っている以上に事態が深刻化している悟った。


「……ピュイはどう思う?俺は乗りかかった船だし最後までやりきりたいと思うけど」


「……そうだね。正直準備に不安があるけど、これ以上現れる魔物を放ってはおけない」


 ウェルはニヤリと笑うとあえて聞き返した。


「じゃあ?」


「うん。僕達エンゲラーブも調査隊に加わろう」


 ピュイの参加表明を聞いたセレネは不安そうな表情から一転し嬉しそうに笑みを浮かべた。


「ありがとうございます。ウェルさん、ピュイさん。今大注目されているウェルさんとAランクのピュイさんが参加していただければ心強いです!」


 それを聞いたウェルは目を大きく見開いて驚きの声を上げた。


「えぇー!?ピュイってAランクなのか!?」


 驚くウェルにキョトンとしたピュイは、


「そうだよ。あれ?言わなかったっけ?」


「聞いてない!年齢の事もそうだったけどピュイは自分の事を話さなすぎるだろ!」


 そう詰め寄るウェルに対し、ピュイは困ったように頬をかいた。


「全く……年齢聞いて驚いたよ……まさかピュイが50近いおっさんだったなんて……」


 その言葉にピュイの動きがピタリと止まった。


「……ちょっと待ってウェル……おっさんは聞き捨てならないな……エルフって言うのは寿命が長く、少なくとも150歳ぐらいまでは生きるんだ。……僕なんてまだまだ若い方なんだよ?」


「……でも俺からしたらおっさんじゃね?」


「人の話きいてるぅ!?第一ウェルだってギルドランクも年齢も知らない相手のクランに入る?無計画過ぎるでしょ!?」


「そ、それはその場の勢いとかあるだろ!」


 そんな不毛な2人の争いを静かに見ていたセレネは口元を隠して堪えきれなかったように笑った。


「ふふふ……お二人共仲が良いんですね」


 そう微笑ましそうに笑われた2人は、恥ずかさで少し俯いたがお互いのいがみ合いのしょうもなさに笑いが込み上げ思わず吹き出してしまった。


 結果受付カウンターは受付嬢と冒険者2人が何故か大笑いしている摩訶不思議空間へと変貌し、周りの冒険者達はその光景を不思議そうに眺めていた。






「ウェル。僕はこの後武器屋に用事があるから今日は解散にしようか」


「うん?ああ、わかった」


 迷宮調査クエストの登録を済ませ、羽牛討伐の報酬を受け取り外に出た2人は今日の活動を終了する事にした。


「武器屋で何を買うんだ?」


「買うんじゃなくて修理を依頼しているものがあるんだ。たぶんまだ出来てないけど今日一応ね」


 ピュイは残念そうに肩をすかした。


「へー」


「それがあれば今度のクエストももう少し力になれると思うんだけど……」


 残念そうにため息をつきながら落ち込むピュイ。


「まぁ、その分俺が頑張るから元気出せよ」


 ウェルが自信満々にそう伝えるとピュイは嬉しそうに笑った。


「ありがとう。とりあえず明日は元々予定してた魔物討伐クエストをやって明後日は準備時間にあてよう」


「わかった!」


「よし。じゃあウェル、また明日」


「ああ、また明日」


 別れを告げるとピュイは武器屋の方は歩き去って行った。



 1人になったウェルは人知れず小さく体を震わせた。


(いよいよ……迷宮攻略……腕がなるな……)


 遂に迎える未知なる迷宮に好奇心を抱きながら嬉しそうに笑う。はやる気持ちを抑えながらウェルは1人月の光亭への帰路についた。

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