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天地戦争から1000年後の世界  作者: てるひこ
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第17話 魔法使い

 強力な魔法を放った紺色のフード付きコートを着た人物は構えた杖を腰のホルダーに戻すと丘の上から坂を滑り下り始めた。しかし坂を下り切る直前で石につまずき、


「うわっ!」


 と、小さく悲鳴を上げるとウェルの足元まで豪快なヘッドスライディングを披露した。


「だ、大丈夫か?」


 ウェルは慌てて手を差し伸べる。


「だ、大丈夫。ありがとう」


 フードの人物はウェルの手を握り返しそのまま引き上げられた。パンパンと土で汚れたコートを払う人物にウェルは改めて礼を述べた。


「改めてありがとう!君がいなかったらあの人達はやられたよ。俺はウェル・アーバンス。君は?」


「僕はピュイ・オビエント。間に合って良かったよ」


 2人は改めて握手を交わした。その時ウェルは握ったピュイの手が小刻みに震えてるのに気がついた。


「えっと……大丈夫?なんかすごい震えてるけど……」


 ウェルは心配して自分より少し低い位置にあるフードに隠れたピュイの顔を覗き込んだ。若干フードの影に隠れてはいたが綺麗に整った中性的な顔がそこにあった。顔だけ見れば美男子、美少女どちらでも通用しそうだがそれよりウェルの目を引いたのは、


「……汗凄くない?」


 ダラダラと流れ出る冷や汗の量だった。ピュイは覗かれたことに驚き少し後ずさるとハンカチを取り出し顔を拭き始めた。


「だ、大丈夫!いつものことだから……」


「いつも?」


 ピュイはうなだれながら話始めた。


「実は僕……かなりの小心者で……さっきも久しぶりに上位魔法なんか使ったけど、もし外して他の人に当たってたらなんて思ったら今頃恐怖が……」


 ピュイは自分の身を抱く様に小刻みに震えながらそう話した。


(あんな凄い魔法が使えるのに……変わった人だな)


 そんなピュイを不思議そうに見ているとアランが近づいて来た。


「すまない。ちょっといいだろうか?」


「うん?」


「は、はい」


 ウェルとピュイはアランに向き直る。アランはビシッと背筋を正すと、


「私はディアバルト家護衛隊の隊長を任されているアラン・マッケンという。この度は助力いただき本当に感謝している!」


 名乗り感謝を告げる。腰を折り曲げお手本の様な綺麗なお辞儀をした。


「君達のおかげで我々はなんとか生き残ることができた。本当にありがとう」


 顔を上げた後再び感謝を述べてお辞儀をするアラン。ウェルも少しかしこまって言葉を返した。


「いや。俺は自分のクエスト中にたまたま居合わせただけだからそんな気にしないでくれ」


 飛び出す直前に木の下に置いて来たキノコ満載の籠を指差すウェル。それに乗っかる形でピュイも、


「僕もたまたま通りがかっただけですから」


 と謙遜した。


「……隊長」


 比較的軽傷だった隊員の1人がアランに声をかける。


「すまない。少し離れる」


 そう謝るとアランは部下とともに2人から少し距離を置いた。状況の報告だろうか、とても小さい声だが部下との会話は2人に届いていた。


「……と……はなんとか命を取り留めましたが……と……は首の傷が深く……」


 部下の報告を神妙な面持ちで受けるアラン。


「そうか……遺体は俺たちの馬車に……連れて帰って……ああ、遺族への説明は俺が……」


 ウェルはアランの強く握られた拳から血が滴っているのに気づいた。それを見てウェルも言い表せない敗北感に襲われる。


「ウェルくん?大丈夫?」


 表情に出ていたのだろうか。今度はピュイが様子を伺う様に顔を覗き込んできた。


「ん?ああ、大丈夫。ただ……もし俺がもう少し早く駆けつけていたらあの2人も助けられていたのかなって……」


 その言葉に覗き込んでいたピュイは前に向き直り回答した。


「そうだね……そうだったかもしれないし、そうじゃなかったかもしれない。今回は僕も君も間に合ったけど、もしかしたら間に合わなかったかもしれない……今はとりあえず出来なかったことを後悔せずに出来たことを喜ぼうよ」


 ピュイはそう諭すとウェルは小さくああ、と返した。しかし、その表情から悲しみの色が消えたわけではなかった。





 そのまま待つこと数分後。アランは2人の元に駆け寄って来た。


「待たせたな。今負傷者の治療と出発の準備が完了した。我々はこのままシルバリオンヘ向かおうと思う。君達はどうする?」


 アランにそう問われるとウェルとピュイは顔を見合わせた。


「俺はもうクエストは終わってるから良かったら一緒にシルバリオンヘ戻るよ」


 そうウェルが提案するとピュイも賛同した。


「僕も帰る途中だったのでよければ同行しますよ」


 2人の返答を聞いたアランはまた礼を述べると、主人が乗っている馬車を見た。


「2人の提案に感謝する。我らの主人も直接感謝を伝えたいとのことだが、いかんせん危険がまだあるかもしれない。だが街に着いたら会ってほしい」


 2人が頷くと、アランは馬車の手綱を握り待機している部下たちに号令を出した。


「出発するぞ!目標はシルバリオン!警戒を怠るな!」


 一同はシルバリオンを目指し歩み始めた。






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