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天地戦争から1000年後の世界  作者: てるひこ
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第11話 教訓

「セレネさん。今日はどうもありがとう!」


 ウェルは外まで送ってくれたセレネにそう礼を告げた。外はすでに日が沈みかけており街は茜色に染まっている。


「こちらこそありがとうございました。ウェルさん、これからのご活躍を期待しております」


 会釈しお互いに別れを済ませるとウェルは解体屋に向かって歩き出した。





(もう夕方かー。色々ありすぎて昼飯食いそびれたから腹が減ったなー)


 解体屋に着いたウェルは背中にくっつきそうなお腹をさすりながら扉を開けると、昼間とは違いダグラスがカウンターで本を読んでいた。


「……戻ったか」


 ダグラスは読んでいた本をパタンと閉じるとウェルの方へ向き直った。


「ただいまダグラスさん」


 満面の笑みで嬉しそうに近づいてくるウェルに、


「登録出来たようだな。アルには会ったのか?」


「アルって……アルフレッドさんのことか?ならあったよ。というかむしろ会えなかったら冒険者になれなかったような……」


「?」


 自分の行いを思い出しボソボソと口をすぼめるウェル。気を取り直してポーチからカードを取り出しダグラスに突き出した。


「それより見てくれよ。俺のギルドカード!」


「……Eランクか……アルのやつ回りくどいことを…」


「えっ?」


「なんでもない ……アルは何か言ってたか?」


「あー、俺のじいさんのこと頑固じじいって言ってた」


「ふっ、そのとおり……」


「ダグラスさんことは無愛想じじいって言ってたな」


 ダグラスの目がカッと見開かれると全身の筋肉が怒りにより一瞬膨張した。その圧に圧倒されるウェル。


「お、おお……」


「……ふん、キザじじいめ……まぁいい、着いてこい」


 冷静になると同時に少し萎んだように見えるダグラスはウェルを隣の部屋に招いた。連れられてきた部屋には大きなテーブルと解体に使うであろう様々な器具が置いてあり、テーブルの上には肉塊が並べてあった。


「あっ……これってもしかして……」


「お前が持ってきた角猪だ」


 それは綺麗に解体された角猪だった。元の大きさがかなりなものだったのもあり肉塊はテーブルを隅々まで占領していた。


「ずいぶんと美味しそうになっちゃって……」


「かなり良い質の個体だったからな素材から肉まで全部買い取らせてもらう」


 ダグラスはそういうと重たそうな布袋を取り出した。


「うちの解体料はその獲物の価値の10%だ。これは解体料を差っ引いたお前の取り分10000リラが入っている。問題なければ受け取れ」


 差し出された布袋の正体を聞きウェルの目の色が変わった。


「いっ!10000リラ!?俺の溜め込んできた全財産の倍だ!」


 驚きつつも何を食べようかなーなどと呑気に呟きながらウェルは差し出された布袋に手を伸ばす。が、その手は虚しく空を切った。掴む直前でダグラスがひょいと布袋を持ち上げたからだ。


「……えーと?」


 不思議そうに自分を見るウェルにダグラスは深くため息をついた。


「……半分だ」


 唐突にそう言い放つダグラスにウェルは思わず、


「何が?」


 と聞き返した。


「今お前に渡そうとした金額は相場の半分だって言ったんだ」


 そう説明したダグラスは呆れたようにもう一つ同じ布袋を取り出した。それを見たウェルは目をまん丸と見開いた。


「えー!じゃあ20000リラ!?……でもなんで?」


 なんで嘘をついたのか全く理解できなさそうにウェルは首を傾げた。ダグラスの呆れ具合が加速する。


「お前……俺の言葉に何も疑いを持たなかったな。もし俺が悪どい解体屋なら、何も知らないお前はカモにされていたぞ」


「うっ……」


 痛いところを突かれたウェルは言葉に詰まる。


「どうせあの頑固じじいのことだ。常識の部分はあまり教えてなかったんだろう」


(ごもっとも……)


 ウェルは心の中で肯定した。


「この街にはお前のいた村とは比べ物にならない程人がいる。中にはお前の力を目的に良からぬことを考える奴もいるだろう…そんな輩に騙されない為にもまずは相手を疑うことを知れ」


「あ……ああ、わかった」


「アルのやつもそれを危惧してお前をEランクにしたんだろう…いきなり新人が高ランクだと目をつけられるだろうしな」


(そういうことだったのか……)


 自分が色んな人に心配されていることを感じたウェルは自分の戦闘の面以外の弱さを改めて痛感した。


(ダンジョン攻略して……みんなに感謝されて……冒険者になったけど、俺まだまだガキだった……)


 自分の不甲斐なさを噛み締めるウェル。ダグラスはそんなウェルに再度布袋を差し出した。


「……分かったらこれを受け取れ。いいな?言われたことを忘れるな」


「……ああ!」


 ウェルは力強く頷くと今度こそしっかり代金を受け取りバッグにしまい込んだ。





 ——2人が外に出ると日は完全に落ち、街灯の光だけが夜の街を照らしていた。


「もう宿は取っているのか?」


「まだだけど月の光亭に行こうかなと思ってる。いきなり行って泊まれるかな?」


 ふむ、とダグラスは顎に手を置いた。


「あそこは酒場が一緒になっていて夜は賑わうが宿が混むのかは分からん。行って聞いてみるのがいいだろう」


「分かった!」


「あと宿屋の娘にこう伝えろ。『明日1日は

 待つ』と」


「?うん、伝えとく」


「また獣や魔獣を捕まえたら持ってこい。じゃあな」


 ダグラスはそう言い残すと足早に店の中に戻って行った。あまりのあっさりした別れに、


「……無愛想じじい……」


 ウェルがそうボソリと呟くと店のドアが数センチ開きそこから鋭い眼光がウェルを刺す。ウェルはそのドアをそっと閉じ、月の光亭に向けて歩き出した。

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