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黄泉がえりの東條英機  作者: 広田昭和
76/81

第76夜 F機関出動する

「東條閣下、今晩は。ご機嫌はいかがでありますか。」


「頗る良い。」


「それでは、お話の続きをお願いします。」


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


昭和17年1月16日、07:00、ジットララインのイギリス軍は、慌ただしい早朝を迎えた。コタバルに日本軍が上陸したとの連絡が司令部に入ったのだ。ジットララインに日本軍が侵攻するまで2,3日の余裕があると考えた司令部は、作業を急がせた。

 ハリマオ達労務者は、日本軍が来ると戦争に巻き込まれると騒ぎ出した。イギリス軍の将校が日本軍の攻撃の前に必ず避難させるからと言っても労務者の騒ぎは収まらなかった。結局、労務者の半分がその日のうちに姿を消した。

 結局、陣地の構築は、対戦車壕、一部の陣地が構築された程度で、急いで鉄条網、対戦車地雷、通信線が配備された。


「我々は、最後の破壊工作を行った後、それぞれ分散、撤収する。」


 ハリマオは、伝令を走らせ、破壊工作を行い撤収することを伝えた。ハリマオ達は暗くなって車両の燃料タンクに砂糖を放り込んだ。そして、イギリス軍の歩哨に出会うと


「すみません。命あってのもの種ですので、見逃してください。」


 言い訳しながら、暗い夜道を逃亡するのだった。



 同じく16日早朝のバンコク日本大使館の武官室。藤本少佐は、他の将校と一緒に東京放送のラジオに噛り付いていた。

チャイムが鳴り、男性のアナウンサーが緊迫した声で臨時ニュースを告げた。


「臨時ニュース、臨時ニュースを申し上げます。大日本陸海軍部午前7時発表、帝国陸海軍は、本日16日未明、英領マレー及びシンガポールにおいて、英国と戦闘状態に入れり。」


 藤本少佐は、ついに始まったか、自分たちは、IILのブリタム・シン氏と連絡を取らなければならないと思った。


「おい、山口中尉。日本軍がマレーに侵攻したら、我々は、シン氏のインド兵に対するインド独立の宣撫活動を支援しなければならないぞ。」


「そうですね。ついに我々の出番ですね。」


「うむ。マレー独立軍には、高村大尉が付いている。日本軍の上陸侵攻に連携し、彼が、マレー独立軍を指導してくれるが、ヤーコブ氏と連絡を採らねばならない。一方、我々の方は、日本軍の進撃と行動を伴にし、インド軍の捕虜の宣撫をしなければならない。夜になるのを待って、シン氏のアジトに行き、1月17日にはバンコクを出立できるよう連絡してくれ」。


 午前12時、ラジオから再び臨時ニュースが流れた。


「大日本陸海軍部午前11時発表、本日16日午前7時、帝国海軍は、シンガポール方面の英国東洋艦隊並びに航空兵力に対し決死の大空襲を敢行し、シンガポールその他を大爆撃しました。

大本営海軍部、今日午後一時発表。

一、帝国陸海軍は、イブラヒム・ヤーコブ率いるマレー独立軍とともに、英領マレーの強襲上陸に成功せり。二、帝国海軍は同日未明、シンガポールを爆撃し、英国の戦艦プリンス・オブ・ウエールズ、空母インドミタル他多数を撃沈し、英国東洋艦隊を撃滅せり。」

 これらのニュースに続き、開戦の詔勅、東條総理の訓示、君が代が流れ、武官室は、興奮の坩堝に包まれ、一同は頬を紅潮させ、歓喜した。

 昼ごろになり、大使館から急使が飛んできて、ピブン首相が見つかり、交渉成立を伝えた。藤原少佐は、緊張が解け、快い興奮に浸ることができた。やっとこれで堂々シン氏と会談ができると一安心した。


 午後になると、バンコクのルンピニー公園に日本軍が続々集結してきた。しかし、日本軍の軍紀は厳粛に保たれ、市内は平穏だった。


 日本軍が南タイのシンゴラの飛行場を確保し、日本軍戦闘機が進出しているとの報を受けたので、藤本少佐は、ブリタム・シンに明日、ドンムアン飛行場に集合することを提案したところ喜色を浮かべて同意された。


 翌日午前7時、ブリタム・シン氏、アマール・シン氏は、純白の印度服に身を固め、一行6人が自動車で武官室に乗り付けた。日本側も乗馬服に身を固め、藤本少佐は、階級章を襟に、参謀章を肩に付けていた。ブリタム・シンは、藤本少佐の服装を見て、ちょっとびっくりしたようだった。


「その恰好を見ると実に立派です。」


「ミスター・シンも立派です。武者震いがしますよ。」


 田村武官がささやかな乾杯の用意をした。


「印度独立のため、シン氏たちの門出を祝し乾杯!」


 乾杯が終わった時に、第15軍司令官の飯田祥二郎中将が長駈、仏印国境から参謀を伴って丁度到着した。


「上官に敬礼!」


「いや、そのままでよい。」


「飯田中将閣下、こちらは、ILLのブリタム・シン氏であります。」


「貴殿のことは藤本少佐から聞き及んでいます。我々日本軍は、印度独立に対するあらゆる支援を約束します。ご要望があれば、藤本少佐にお申し付けください。」


「有難うございます。飯田閣下と日本国に満腔の謝意を申し上げます。」

 

 藤本少佐とブリタム・シン一行11人を乗せたダグラス機は、午前10時、シンゴラ飛行場を目指し、離陸した。ダグラス機がシンゴラ上空にかかると沖合に10数隻の輸送船とそれを護衛する駆逐艦と巡洋艦の艦隊が見えた。

 機は2回旋回した。草原のような滑走路に戦闘機が破壊され、がらくたになっているのが見えた。

松井機長が盛んに振られている赤旗を見つけた。


「着陸するな。引き返せと言っていますが、着陸します。頭を手で覆って、前屈みになってください。」


 ダグラス機は、着陸すると泥濘のハネをまき散らしながら突走った。たちまち滑走路の端が迫り、機体はオーバーランし、危うく居並ぶ日本軍機に接触する寸前で止まった。松井機長は、何事もないように言った。


「着きました。お疲れ様でした。」


「有難うございました。寿命が縮むかと思いました。」


 指揮所から自動車が猛スピードで走ってきた。


「おいコラッ、信号がみえないのか馬鹿モン。」


 大佐の徽章の将校が怒鳴った。


「敵機が迫っている。すぐにこのダグラスを退けろ。戦闘機が飛べないぞ。」


 松井機長が丁寧に謝ったので、藤原少佐もいかにも申し訳ないという様子で丁重に詫びた。

ダグラス機は、たちまちエンジンの回転数を上げ、難なく離陸していった。松井機長のような老練なパイロットで良かったと一同は胸を撫で下ろし、直ちに退避した。ここは、もう戦場であった。

 

 土持大尉が、シンゴラの内陸部のハジャイ(ハートヤイ)から自動車で駆けつけた。ハジャイからダグラス機が見えたそうだ。藤本少佐は、土持大尉にブリタム・シン氏一行をハジャイに先行させるように命じ、情報を収集すべくシンゴラ郊外の第25軍司令部に出頭した。


「特務機関長藤本少佐、ただ今、第25軍に合流すべく現着いたしました。」


「ご苦労である。」


「ただ今の戦況をご教示ください。」


 杉田参謀が藤原少佐の対応をしてくれた。


「第5師団主力(5D)は、16日未明にタイ軍の妨害もなくシンゴラに上陸し、

佐伯部隊は、サダオに到達したとの報告が入っている。また、同じく16日未明、侘美支隊が、英軍の抵抗があったもののコタバルに上陸、占領を成功させた。なお、17日、本日、カンタン・メルシン上陸作戦を遂行中である。」


「マレーシア独立軍は、コタバル上陸の侘美支隊とメルシン上陸の第48師団に同行しています。我々F機関は、これを補佐します。」


「F機関には期待している。植民地の解放後の政権の樹立、インド独立軍創設は、君たちに掛っている。」


「過分な評価です。ご期待に添える様頑張ります。私は、直ちに、IILのシン氏と共にインド兵を味方にすべくジットラに赴きます。参謀には、もしメルシンの敵部隊にインド兵が含まれた場合には、ご連絡いただきたい。」


「了解した。」


 藤本少佐は、山口中尉と自動車に乗りこみ、ジットラ目指して、日本軍を追いかけた。


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 黄泉がえりの続きはまた、明日、お話しします。


 原田節子さんの部屋を夜遅く見回りに行くと電灯は消え、非常灯だけが薄暗く辺りを照らしていました。ベッドを覗くと節子さんが眼を開きました。


「起きていらしたのですか?」


「あなたを待っていたのよ。最近、声もかけてくれないじゃないの。」


「わざと声を掛けなかったのです。」


「冷たいのね。」


 私は、彼女の顔を覗き込んだ。


「この先どうしたらいいのか。それを考えていたのです。」


「どういうこと?」


「あなたの二つの依存症を治すことが一番大切です。アルコールの方は、ここに入院していれば、先生方が治してくれるでしょう。でも、依存症は、結局、あなたの脳がその行為を快楽と感じ、やめようとしてもやめられない状態なのです。

 でも、私が貴女を支えます。必ず、2つの依存症から立ち直れるようサポートします。」


「私は、貴方を頼っていいのね。」


「ええ、頼ってください。」


「でも、私の病気が治ったら私は退院する。そしたら、私は誰に頼ったらいいの。」


「誰にも頼ることなく自立するのです。貴女ならそれができる。」


「貴方は、着いてきてくれないの。」


「貴女がそう望むなら、着いていきます。でも病院のなかではもうセックスは控えましょう。治療できませんから。それに、バレたら仕事を失うことになります。」


「分かったわ。」


 話が終わると私たちはキスをしたのだ。



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