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『〜♪』
とある昼下がり、とある学校で流れる、とある流行曲。それもただただ流行に乗っただけのチョイスではなく、昼飯を駄弁りながら食べる輩、木陰に身を寄せ寝転がる人、あるいは試験のために日々努力し勉学に励むもの・・・・・・そんな人たちに合わせ数分数秒をチョイスするのが俺の日課だ。そう、これはこの学園にいる皆に幸福が訪れるようにと願う良心深い少年によ––––
「独り言が長い!」
ガスっ、と俺は二冊合わせの鈍器で後ろから頭に食らった。クリティカルヒットだ。
「・・・ってーな! いきなり後ろかな殴るなよバカ!!」
「うっさいわねバカ。あんたがいつも変なナレーション喋りしているから注意してんのよ! あんたのその癖で何人の友達消したと思ってるの? あと学園じゃないし!」
腕組みして仁王立ちなそいつは、ゴミ見る目で睨みつけてくる。いや、確かに独り言で気味悪がられているのは知ってるが・・・さすがに後ろから鈍器はナイワー・・・・・・。
「・・・ほら。」
「うわっと!?」
突然彼女が後ろに隠すように持っていたものを投げ渡され、とっさに受け止めたものを見て呆れた。
「・・・お前、また俺の机からかっさらったな?」
「逆に聞くけど、あんた教科書類を持ってこないで放送室来てた時、5時限目が移動の時にまともに道具揃っていたの? ・・・・・・いえ、そもそもここで寝過ごしていたわね。」
言い返せねー・・・。
「いい、今日はちゃんと来なさいよ?」
彼女はそう言うとドアを開けて出て行った。
俺は二冊の薄い本を器材の上に置いて、代わりに置いてあったアイマスクをつけた。もうあとは曲が止まるのを待つだけ。つまり残り3分弱を寝て過ごす。まあ寝過ごしたら寝過ごしたでまあいいのだが。
彼女、『守谷 琥咲』とは腐れ縁というやつで、保育園からの付き合いだ。だから多少は彼女を知り、俺を知られている。
しかしそういう関係にはよくある悪しきイベントがあり、俺も例に漏れず小学三年の頃には『あいつがからかわれる事』が嫌でほぼ無関係に近い距離感となった。中学は(俺が直前でギリギリの成績の中で志望校変えて)別々になったため、正直高校上がるまではもうこの縁は切れたとさえ思っていた。だがその高校で彼女と再会した、これまた典型的な形で・・・。
最初に見つけたのは俺だった。探すのは容易く、しかも探そうとしてなくても目に入るのだから。
彼女を最初に見たのは入学式。彼女は一年生代表として壇上に立ち、周りの生徒を騒がせた。それもそうだ。彼女は昔から『容姿』は良かったから、それに磨きがかかっていれば誰だってざわめく。何より最後に彼女を見た小6の頃でさえ、コミュ力はかなり高かったからか卒業式で記念写真の大行列で、その地点で完全に疎遠だった俺にさえ、校門から昇降口にいる彼女がよく見えるほどだ。
しかしだからとは言え、俺がはじめに声をかけたわけじゃない。つうかむしろ声かけないで影薄れて誰にも気づかれない独りライフを満喫しようとしていたくらいだ。てか幼馴染ってのにすがるようですごく嫌だし、そもそも距離置いたの俺だし……
でも、彼女は俺をあっさり見つけた。
「とにかく、ちゃんと出席しないと単位落とすわよ!」
「俺の勝手じゃ––––」
「なんか言った?」
ふっと静かに殺気だすのやめて、本当に怖いから。
「…わかったよ。今日は行くから。」
「絶対よ!」
そういうと、コサキは駆け足でいなくなった。おそらく何か友達と用事があったのだろう。気にしなくて本当に良かったのに。
そんな中、癒されるような曲に切り替わって、俺はだんだん眠気に逆らえなくなっていく。ああやばい、もう限界だ。
そのまま机に突っ伏した俺は、ふと「こんな曲あったか?」と思いながら眠りについた。