第90話 新たなる力のカタチ
「………………………………
いやいや、
冗談はよそうぜ」
声が上ずる。
足が震える。
なんか風邪でも引いたのだろう
寒気もする。
マズいんじゃね!?
対神!?
最終!?
決戦兵器!?
もう、俺の理解超えたわ
「いえ、冗談ではありません
事実です
およそ2億の敵戦力を
一瞬にして滅殺することも可能です!」
おお、言い切りやがったぞ
2億!?
2億の敵戦力って……
もうおうちに帰りたい…………
「どうやらまだ信じてもらえないようですね」
「え?いやもう信じたよ
(だからこっちに来ないで!!)」
「致し方ありません
ご覧に入れましょう」
「は?ちょ!!
ご覧にって待って待って!!」
まさか地上を火の海に!?
どこから取り出したのか手にはバケツが。
そこには満タンの水が入っていて――
「せいっ!!」
ぎゃぁぁぁ~~~
思いっきり水を吹っかけられた。
「……おい、
なにしてくれるんだ?」
「敵戦力の消滅の確認です
さっぱりしましたね」
「…………」
「どうぞ」
布を渡された。
拭けってことか!?
今ので少しわかってきた
「ちなみにほかにはどんな攻撃ができるんだ?」
「お皿を――」
「洗い物か」
「服を――」
「洗濯か」
「部屋の――」
「掃除だろ
てかもういいよ!!
ただのメイドロボじゃねぇーか!!」
「ちまたではそうとも言いますね」
どんなちまただよ。
そうとしか言わねーよ
「にしても本当に機械なのか?」
「私は機械ではありません
まぁ魔法の世界ですから
魔法で出来た人形とでも思ってくださいな
(本当は違いますけど)」
「ざっくりだな
まぁどうでもいいか
それより名前は?」
「私ですか?
個体識別名以外にはありませんね
強いて名乗るなら“神をも超える者”
ですかね」
よくわかった。
あれだな
彼女の制作者はきっとあの病気、
中学2年生あたりで発症するあの病を患っているに違いない。
「そうか、
でもまぁ名前がないと不便だよな
神を超える者とか呼びたくないし
ん~~AI(人工知能)から取ってアイってのはどう??」
「安直すぎますね、
赤ちゃんでももう少し頭を使いますよ」
口答えまでするのかよ
アイがダメなら……
「じゃぁアンってのは?」
ピタッ彼女は止まった。
なにか驚いたような顔をして――
「アン、いい名前です
マスターありがとうございます」
「お、おう」
アンドロイドから取ってアンってのは言わないでおこう。
「よしアン、これからよろしく、でいいのか?
いろいろと聞きたいことがあるんだが――」
「はい、順を追ってお話していきます」
アンは背筋をピンッと伸ばして語り始めた。
「ここはアンダーグラウンドと呼ばれています
まぁそのまま地下ということです。
この場所は迷宮の真の踏破者に開かれる場所として位置付けられています
基本的に私は私の起動者にお仕えするようプログラムが組まれています
ですから相沢ナツキさん、貴方が私のマスターです
マスターは私に対する上位の命令権限を有します
ただし、私の既存プログラムへの介入は認められていません」
「な、なるほど」
話にあまりついていけなかった。
「アンは俺のメイドになるってことでいいんだよな?」
「…………
ええ、もうそれでいいです」
「この場所とかって――」
「この場所は迷宮踏破者であるマスターに全所有権があります」
「マジですか!?」
「マジです」
いきなり家までゲットとか美味しすぎだろ
あ、でも仕事があるし、
そもそもイリオス州にどうやって帰ればいいんだ!?
「アン、帰り方ってわかる?
やっぱ来た道を引き返さないとダメなのか?」
「帰りというより
この家の地下に空間転移の魔法陣がありますのでそれを使ってっください
あと、来た道は引き返せません
マスターがこの場に入ると外との繋がりが切れますので」
「おお、テレポートできるのか
すげぇ!!!
どこにでも行き放題かぁ」
「いえ、どこにでもというわけではありません
魔法陣のある行先にしか行けません」
「え、そうなの?
じゃイリオス州は?」
「イリオス……
おそらく一箇所あったはずです
のちほど確認いたします」
これで帰りもOKだな。
「あ、そういえばこの屋敷にあった刀は?
あれももしかして」
「はい
マスターの物です
ただ、マスターに扱えるとは思いませんけど
宝の持ち腐れとはまさにこのことですね」
さらっと毒づき
わかってはいたさ
俺には使えないだろうことは
「まぁ気を落とさずに
そんな無能でお荷物ってるマスターにとっておきの魔法なアイテムがありますよ」
「え、魔法アイテム!?」
「はい、この倉庫と家の地下の倉庫に数多くのアイテムがあります
それを凡人でも使えるようなものを厳選して探せば
きっと、
きっとマスターでも人並みの力を得られるでしょう」
「いちいちトゲがあるな」
「美しいメイドにトゲはつきものですよ」
本人曰くそうらしい。
初めて聞いたけどな
*********
魔法アイテムとやらを早く試してみたいが、
まずレイにアンを紹介した。
ロボットとか人工知能とかそこら辺の話は難しい
どうしようかと悩んでいたら
アンが勝手に話を進めてしまった。
魔法人形ってこの世界じゃ普通なのかな?
「ということはこの刀とやらは全てナツキの物か」
「はい、マスターの所有物になります」
アンの言葉通りじゃないが、
俺が今さら日本刀を持っても仕方ない。
てか普通に危なそうだし。
「レイ、よかったらもらってくれ」
「な、いいのか?
相当な業物だぞ」
「まぁ今回のでレイの剣も何本か折れてるし
ちょうどいいんじゃないの?」
「本当にいいのか
いやそうだなでは1本頂こう」
「3本ともいいよ」
「いやそれはさすがに――」
「俺が持ってても使わないし」
話し合いの結果
レイが2本もらうことになった。
本当に3本とももらってくれてもよかったんだが……
アンは3本の刀の解説を始めた。
「では、まずはこちら
“神無刀”
銘を布都
刀身が透き通るっているのが特徴です。
ある程度の刀速に達すると刀身が見えなくなります
不可視の斬撃を繰り出す刀として非常にお高い一品。
次が“ヒトの剣”
銘を天叢雲
3本の中ではもっともオーソドックスな刀といえるでしょう。
奇をてらわず、扱いやすいのが特徴で
攻守ともに信頼のおける一品になります。
最後は“光越の太刀”
銘を刀光剣影
この刀の特徴は何といっても非常に薄いことにあります
扱いが難しく、並みの振り方では対応できないでしょう。
ですが、光をも超える剣撃を繰り出し得る刀として評価されています。」
「ほう……
ナツキはどれがいい?」
「いやレイが好きなの選んでいいよ
俺は余ったので」
「いいのか?」
「どうぞどうぞ」
こんなに輝いた目をしたレイは初めて見たな
レイは試し切りなどして選ぶことにするそうだ。
「では、マスター
地下へ行きましょうか」
*******************
「では、今のポンコツマスターにも使いこなせるマジックアイテムをご紹介!!」
ポンコツは余計だ
連れてこられたのは
地下にある一室。
その部屋の中はとにかくものであふれかえっていた。
アンは、どこからかいくつかのモノを持ってきた。
「まずは指輪シリーズ
時空の指輪“歪の泉”
使い方は簡単、
指輪をはめた指で対象物を触れ、
それを登録すれば、
指輪の中に出し入れ自由自在。
基本的に生物は収納不可ですが、
それ以外なら大抵は大丈夫です。
攻空の指輪“空圧弾”
こちらは3種類あります
それぞれ圧縮空気いわゆる衝撃波を放つことができます
違いは効果範囲。
指向性、多弾式、波状
指向性の場合は弾丸といった方がいいかもしれませんね
状況に応じて使い分けができます
守空の指輪“空圧障壁”
こちらも3種類
固定、動的、多重
それぞれ言葉の通りです。
動的は、自動で攻撃を防ぎますが
ある速さ以上の場合や数が多い場合、
防ぎ切れないことがあるので注意してください。
また守空の指輪の“空圧障壁”の固定にはオプションがあります
反射、溜攻です。
そのまま、それぞれ、
攻撃を反射する、
攻撃を蓄える
ことができます。
どちらともある程度の許容限界があることは頭の片隅に置いておいてください。
絶空の指輪“最後の砦”
これは2つで一つの指輪です
左右の手にそれぞれつける必要があり、
緊急防御に使えます
一時的にあらゆる攻撃から身を守ることができ、
効果は絶大ですが、それゆえ使用制限もあります
一戦闘では一回と考えてください。
まぁこれを使うような状況なら頑張らず逃げてください
マスターではぺちゅん確定ですので」
ぺちゅんって……
俺なら使う前に逃げるよ
情けないが。
「こんなところでしょうか?
ああ、あとは天翔る靴“俊靴”
履けば速く走れます
今までご紹介した物は全て音声認識です
練習すれば、お猿さんでも使える安心設計になっています
それ以外にもまだまだありますが、
今のマスターでは……」
可哀想な者を見る目で俺を見るなよ。
俺ってそんなにダメなのか?
「この地下もだけどすごいな
なんか研究所みたいな雰囲気がある」
母が大学の教授で、
何度か研究施設を見せてもらったことがあるが、
その時と似た印象を受けた。
「ええ、研究所みたいな、ではなく
ここはもともと研究施設だったのです
それゆえ世界中の目ぼしい魔法道具が保管されていますよ」
「え、そうなの?
誰が研究を?
てか日本家屋とかも誰かが作ったってことか?」
「残念ながらそこら辺の詳しいデータは私の中にはありません
この施設を詳しく調べれば何かわかるとは思いますが」
「まぁ施設は置いておくにしても
これは俺、めちゃめちゃ強くなったんじゃね!?
魔法と併用すればかなり戦術の幅が広がるな」
「それはできません
マスターはマスターなので
まだわからないでしょうが、
ぷぷ
マスターは既に魔法が使えないのですよ」
こいつ今笑いやがったぞ
ん?魔法が使えない!?
「こちらをどうぞ
一般的な魔石です
この魔石から魔力を取り出そうとして見てください」
「こうか?」
いつも通り魔石を握る。
魔力を感じ――
パリン
「とまぁこんな具合に
マスターはもう魔法が使えないのですよ
おわかり??」
「だからなんでそんな挑戦的な口調なんだよ」
「マスターですから
ぷぷ」
そこはかとなくイラっとくるな。
しかし、ついに魔石を握るだけで壊してしまうようになってしまったのか
もう魔法が使えないなんてなんか残念だな。
お読みいただきありがとうございます
今日も晴れ




