第88話 異世界の“異物”
ナツキが意識を失った直後――
ユニコーンはその胴に穴を開けながらも
4本の足で立ち上がった。
「カ……カカ
抜かった――
カカ
だが、詰めが甘い
カカカ」
胴に大穴を開けたユニコーンは
眼前に倒れている二人を見下ろす。
「カカカ
致し方ない
主の力を借りるカ」
もはや自力での回復ができないほどの
ダメージを負っていたが
それも主に力を借りさえすればどうとでもなる
回復したらすぐにでも二人を殺し、
異物を破壊しよう。
ユニコーンはそう決意する。
「『盟約に従いて
我が身を譲渡せん』」
ユニコーンの纏っていた炎が勢いを増す。
「『象徴たる第四の素を以って
道を開かんとす』」
炎がユニコーン全体を包み込み――
「ん?
カカカ
なぜ……
主へ接続できない!?」
一転ユニコーンは真面目な顔つきで、
事態の把握に努める。
カツン、カツン
カツン、カツン
カツン、カツン
一定のリズムが響き渡る。
音は次第に大きくなっていた。
ユニコーンは何かが自身へと近づいていることに気が付く。
「カカカ、
何者だ!?」
暗闇から姿を現したのは、
1人の青年。
「名乗るほどの者じゃないさ
それより第四の素をつかさどりし聖人“サラマン”は死んだぜ」
「――な、に!?」
青年の言葉が理解できず
固まる。
現れた男は
ナツキとレイを見下ろした。
「詰めが甘い
確かにその通りだな
でもそれは貴様も同じだぜ」
「主が死んだ、だと!?
そんなわけ――」
「実際に連絡が付かないだろ?
魔術を使っても」
「な!?
なぜ魔術のことを――」
「いや、別にお前にいろいろ教えてやるつもりはない
ただ、死んでくれ」
「《劫火》」
一瞬にして衝撃波が広が――
るかに思われたそれは、
広がることなくユニコーンの眼前の
一転に収束した
「な、なにをした!?」
「技とかじゃねぇーよ
ただ押しとどめた
それだけだ」
「貴様はいったい……」
「『万物第4の素を以って塵とかせ“獄炎火”』」
「ま、魔術まで!?」
「言ったろ
――――――って」
その言葉を聞き、
ユニコーンは悟る。
目の前の人物が何者であるかということを。
それがユニコーンの最期となった。
灰となったユニコーンにはもう目もくれず、
青年はレイに近づく。
どこからか取り出した小瓶の液体をレイの傷口へ。
数分後、
その場に青年の姿はもうなかった。
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「――キ
―ツキ
ナツキ!ナツキ!」
誰かの呼ぶ声で俺は目覚めた。
「痛つつ」
「よかったナツキ」
おお!
レイが俺の頭を胸元で抱えている。
これはいわゆるラッキーイベント!
なんてアホなことを考えている場合じゃない。
意識が覚醒し、
置かれた状況をだんだん思い出す。
ユニコーンとの対決。
俺はどうなったのか
とりあえず、生きていることには違いないが、
ならユニコーンは!?
意識を失う前のあの攻撃で倒せたということだろうか?
「レイ、ケガは?」
「大丈夫だ
起きたら治っていた
ナツキか?」
「え、ああ、そうか
ポーションだと思う」
「そうか、ありがとう
それよりユニコーンは?」
「一応倒せたのかな
俺もギリギリでよく覚えてないんだが……」
状況を見るに
どうやらユニコーンに勝ったらしい。
とはいえ、
すごくいい状況というわけでもない。
ポーションは全て使い切った。
魔石も残りわずか
リュックの中の水や食料など
大半が燃えていて使い物にならない。
この迷宮を何とか脱出する必要がある
それも時間的猶予はあまり残されていないだろう。
「レイ、この先に進もうと思うんだけど」
「異論はない
助けは来ないだろう
ならどのみち行くしかあるまい」
散らばった魔石やまだ使えそうなものをリュックにしまい、
レイと共に出発する。
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会話がなかった。
レイが何か思いつめたように
真剣な表情だったことも少なからず関係しているだろう。
話しかければ、答えてはくれるが、
心ここにあらず。
なにか別のことを考えているようだった。
もともとレイはおしゃべりな方ではないが、
こんなに口数が減っていたのは初めてだった。
天井に結晶があり、
辺りは少し明るい。
そんな大きな空間は、
1時間ほど歩いても未だ続いていた。
どれだけ広いのか。
「あ、出口か?」
正面に小さな入り口もとい出口。
その先は俺たちが入ってきた時と同じように暗闇だった。
「どうする?」
問題は先に進むかだ。
この先がどうなっているのかなんてわからない。
それにこの空間からの出口がここだけとは限らない。
「薪はどれくらいある?」
リュックを下ろして確認する。
「えっと……
あと5本だな」
基本的にイリオス迷宮は管理が行き届いているので
薪や松明は必要なかった。
それでも気分を出したくて俺が持ってきた。
そのためもともとそれほど数を用意していない。
「ナツキ、来てくれ」
悩んでいたら、
一足先に出口に向かっていたレイに呼ばれた。
「これは――」
そこはただの出口、通路ではなく、
階段だった
「誰かが意図して造ったってことだな、だぶん」
「先に進むか?」
「そうだな……
よし行こう」
この場にいても仕方ない。
下に続いていた階段は、
かなり長い方だと思う。
もう10分くらいだろうか
ひたすら降りると少し開けた空間に行き当たった。
「行き止まりか?」
「いや、あれは――
扉?」
俺が見つけたのは、扉だ。
行きついた開けた場所に、
この地下空間にはふさわしくないような
大きな扉があった。
「開くぞ」
「え?待っ――」
心の準備もなしにレイがその扉を開けた――
一瞬視界が奪われた。
扉の先の光がまぶしすぎた。
目が夜目になっていたため、
しばらく目がチカチカした。
それもすぐに回復し、
改めて、扉の先を見ると――
「おお~~
ってなんじゃこりゃ!?」
地上と遜色ないほど明るく、
まるで太陽があるかのようだ。
その空間はかなり広く、
先がわからない。
そして“緑”に覆われていた。
生い茂る木々。
川や池もある。
右手には森が、左手には草原が広がっている。
そして、
そして何より
何よりも特筆すべきは、
ちょうど真正面にある建物だ
平屋の木造、一軒屋。
その手前には池や大きめの石。
俺は知っていた
こういった建物をなんというかを。
「なんで“日本庭園”と“日本家屋”がこんなところにあるんだよ」
‘カタン’
ご丁寧に竹のやつ(鹿威し)まである始末。
それはどこからどう見ても
日本庭園と日本家屋であった。
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今日も晴れ




