第85話 イリオス迷宮攻略 後編
おお~~
真っ暗闇
一寸先は闇
とにかく
何が言いたいのかというと
暗くて何も見えないということだ。
さっきまでいた迷宮は
ある程度の間隔で火がともされていたため、
明るかった。
ということは、
ここはさっきの場所ではないということだ。
やはりあの光に包まれる前に俺が見たのは
召喚の魔法陣で間違いないだろう。
はてさてどこに召喚されたのやら……
まさか死んだとかないよね。
いきなり女神が現れて的な流れじゃないよね!?
「ナツキ」
「ひっ!?」
お、おおお、おう
何かにしがみついていた俺は
先ほどよりもさらに力を入れる。
ほどよい弾力。
ほどよいあたたかさ。
ほんのりとしたいい香り。
なんともいい感じだった
「レイか
脅かさないでくれよ」
「いや、えっと……
そろそろ離してくれると助かる」
……………………
誰だレイの足にしがみついている野郎は!!
全くけしからん
暗闇で女の子の足にしがみつくなんて
とんだクズ野郎だな
……ゴホン
「灯りつける?」
手探りで薪を探しながら聞くと
レイは待ったをかけた。
「なにがいるかわからない。
少し離れてくれ」
言われた通り数歩下がる。
「【五十風】」
スンッ
声と共に剣が振り抜かれる風の音
そして、
おそらくレイを中心にして風が吹いた。
さほど強さはない。
髪を揺らす程度の風だ。
「大丈夫だな
ここらへんには私たちしかいない」
「今のでわかるの?」
「ああ、五十風は西風流の技の一つで
風による索敵ができる。
絶対でないがおそらく大丈夫だろう
油断しないように行こう」
敵はいないということで
あらためて薪を取り出し、
灯りを得る。
「にしてもすごいな
索敵までできるのかぁ
そういえば、道場って西風流の道場なん?」
レイ、オリジナルの技は
確か西風流と東海流の組み合わせといっていたが、
どちらの流派の道場か聞いていなかった。
「道場は東海流だな
ただ、師範がかなり多くの流派を扱えるらしく教えてもらった」
「レイの師範かぁ~
今度会ってみたいな」
「ならナツキも道場に来ればいい」
「おお、いいのか
行ってみたい!行ってみたい!
あ、ちなみに名前は?」
レイの師範
超絶美人の女剣士かも
この世界は女性剣士が多いし、
その上美人も多い。
レイ以外にも
セシリアやメリッサさん
今日会った金髪の子も美人だったし。
「東海流聖級“獅子”
そういえば名前は知らなかったな」
「…………」
せいきゅう!?
あ、会うのはアレだな。
また今度にしよう
向こうも忙しいだろうし
機会がなくとも俺は
残念だとあきらめられる男だ。
「そ、そうか
でも聖級ならきっと忙しいだろうしな
俺は無理しないから――」
「以前ナツキのことを話したら
興味を持っていたから心配ないだろう。
次の聖の日にでも一緒に行こう」
「おおおおおおおお、ぉぅ」
興味って何!?
いやいやレイさんいったい何話したの?
次の聖の日がやってこなければいい
そうと思うナツキであった。
***********
歩き始めた俺とレイは
いくつか行き止まりに合いながらも歩みを進めていた。
時間にしておおよそ3時間程度。
何かに遭遇することはなかった。
魔物もいなければ、人もいない。
適度に休憩と軽食を挿みながら
2人はある場所へとたどり着こうとしていた。
「ナツキ、灯りを消してくれ」
「え?
あ、うん」
俺は灯りを消す。
すると訪れるはずの暗闇はやってこなかった。
「え?
明るい?」
「この先の空間から光が漏れているんだろうな」
レイを前衛に、
俺が後衛で二人はその空間に足を踏み入れた。
「これは――」
「すげ~クリスタルか?
いや石自体が発光しているのか!?」
その空間はかなり広く、
天井付近に突き出した結晶が発光していた。
お土産に一つ持って帰りたいくらいだ。
そのおかげで灯りがなくとも
視野を確保することができた。
「ナツキ!」
レイの鋭い声で俺の動きがピタと止まる。
「何かいるぞ」
「え?」
「奥だ」
何かいる
敵かもしれない。
念のためポーションを飲み、
《身体強化》
《視力強化》
奥を見つめて、
強化された俺の視覚は、
すぐに“それ”を捉えた。
燃えている。
一言で表すと“それ”は燃えていた。
現在進行形で、だ。
燃えている“それ”は馬のシルエット
(……イ…………グ……………ロ)
しかし、ただの馬ではない。
大きな一本の角を持っている。
俺の知識にあてはめるなら、
それは地球ではユニコーンと呼ばれている生物だ。
「燃えるユニコーン!?」
小さな、
小さなつぶやきだ。
意識せずに口から漏れ出た。
地球では絶対に存在すること無いその生物に俺の目は奪われていた。
(……イ…………スグ……ニ……ロ)
だが、その小さなつぶやきは、
ユニコーンに聞こえてしまっていたのか
こちら向いた。
「カカカ、ヒトか!?」
おお~~
しゃべったぞ!
馬がしゃべった!?
こちらに向かって軽やかに歩いてくるユニコーン。
警戒を顕わに、剣の柄に手を添えたレイ。
両者の間が5mほどの距離となった
(イマスグニゲロ)
その時――
「カカカカカアカカカカカカカカカカカカカカカアカカカカカカカカ」
それは、おそらく笑っているんだろう。
馬が笑っている。
アニメや漫画でしか見たことはないが、
おそらく間違いない。
愉快そうに笑っていた。
「何者だ!?」
レイの鋭い声にも動じず、
それ――ユニコーンは天を仰ぎ、
そして俺を見た。
俺を見た!?
なぜ!?
「異物を探しに来たら――
まさか!!
カカカアカカ!!」
(テオクレダ)
頭の奥が
ズキンッ
と痛むが目の前の光景が
そんな些細なことを忘れさせた。
「カカカ
主と連絡が取れずどうしようかと思っていたが――
こんな強運に恵まれるとは!
カカカ」
ユニコーンは再び俺を見る。
「ああ、これは神獣となれる日も近いカカカ」
炎を纏うユニコーンの口調は、
楽しげだった。
何かを喜んでいる
そんな感じがした。
「では、“保有者”よ
カカカカカ
死ね」
いきなりユニコーンが襲い掛かってきた。
お読みいただきありがとうございます
今日も晴れ




