第9話 異世界を知ろう 後編
「相沢様、手続きが必要ですが、自室で読むことができるそうです。」
それは良かった。
今回は異世界の勇者一行としての特別措置らしい。
本来、この場で立って読むのがふつうのようだ。
いくつか本を選んで運ぶ。
薬草辞典
人と魔物の歴史
勇者イースの冒険
騎士の心得
皇帝の栄光
とりあえずこの五冊を借りた。
明日返すにしろ延長するにしろまた手続きが必要らしい。
めんどくさいが仕方ない。
帰り道でリアが全部持つと言ってきたが
さすがに13歳の子に本を持たせて自分は手ぶらというのは、男としてどうなのかと思い、
2冊だけ渡して3冊は自分で持った。
夕食までは読書だ。
リアはどうするのかと思ったら、逆にどうすればいいのか?と聞かれた。
なんでも専属使用人は、主に仕えるように厳命されてるみたいで、
ほかのクラスメイトのメイドさんや執事さんは、
掃除などが終わったら訓練や訓練の見学をしているクラスメイトのところに向かったみたいだ。
リアに好きなことをしてもいいよ、というとまた困った顔をされた。
ので、とりあえずこの部屋の掃除あと洗濯をお願いした。
夕食前。
本を読んでわかったのは、なにも分からないということだった。
一番役に立ったのは、薬草辞典。
手書きの絵も上手く、どの植物が薬に使えるのか、どの植物が危ないのかなど書かれていた。さすがに、内容を覚えることはできなかった。
俺はそんなに暗記が得意ではないのだ。
一番役に立たなかったのは、皇帝の栄光。
なんていうか、作り物感が半端なく、ウソが書いてあると端から見てもよくわかった
どうにも帝国ヨイショの本が多い。
勇者イースの冒険も騎士の心得も帝国万歳な本だった。
客観性に富んだ本が欲しいとことだ。
人と魔物の歴史の本もまだ他に比べてマシだが、どれほど信憑性があるのか分からない。
とにかく魔物の非道な行いに人が苦しめられたということが大半。
これを真実と断定するには早計な気がする。
後でリアにでも聞いてみようかな。
食事は昨日よりは豪華でないが、それでもこの国の高水準だろう様々な料理を堪能した。
**********
自室にて
「リアはこの本のこととかってどう思う?」
部屋に戻り、俺はリアに尋ねた。
「相沢様、申し訳ありません。
リアは文字がそれほど読めないのです。」
この国の識字率はかなり低く、貴族や皇族以外は文字の読み書きはできない人が大半。
もともと文字の読み書きはそんなに必要でないとのことだ。
でもリアはこの帝国の城に勤めるほどなんだから教育とかは受けてないのかな!?と思っていたら顔に出ていたようだ。
リアが説明してくれた。
「実はこの帝城に来てまだ1ケ月経っていないのです。」
リアがこの城に来たのはおよそ一ケ月前。
それまでは皇帝陛下の持つ、別の城の下っ端メイドとして働いていたそうだ。
今回の勇者召喚で陛下お抱えのメイドさんを勇者一行のお付きにするため、欠員が出た。
もっとも、お抱えのメイドは妾の様なものだったので、いなくても仕事は回るそうだが。
そして、メイドさんの異様な美人率の高さの謎が解けた。
そんなわけでリアは文字が読めないそうだ。
「なら俺が教えようか?
つっても俺は読みしかできないけど。」
「えっ?
いいのですか?
リアは使用人ですよ?」
この世界の価値観というヤツだろう。
俺のことも今だに相沢様って呼んでるし。
「いいよ。ただ、俺のことはナツキって呼んで。相沢様ってのはちょっと恥ずかしいし」
リアと相談の結果、他の人の居ないところではナツキさんと呼んでもらえることになった。
やっぱ13歳の子に様付けさえるのは、嫌だよな。
なんていうか、人としてやっちゃいけないことのような気がする。
俺の一日のサイクルが決まった。
午前 勉強会
軽く流す感じで時間が過ぎるのを待つ
午後 自由時間
昼食後に図書館に行き、本を借りて読む。
夕食後 ほかのクラスメイトはしっぽりタイム
俺はリアとの勉強会
俺がリアに読み方を教え、俺はこの世界の言語の書き方を勉強した。
この世界の言語は日本語として理解できている。
書物の見たこともない言語は読むことはできるし、会話もできるが、書くことだけはできなかった。
よってまず俺は文字を覚えることから始めた。
他のクラスメイトは、午後に訓練、もしくは見学。
夕食後は言わずもがな。
聞くところによると女子も日本で言うところのホストクラブ状態らしい。
数人の女子はイケメンに骨抜き状態らしい。
逆に一部はそういうのを嫌っているとか。
俺はクラスに会話できる人がいないから、リアから聞いた話だが。
何とも情けない。
クラスメイトのことを他者から聞くことになるとは。
**********
そんなこんなで1週間たった日のこと。
相変わらずの豪華な廊下を歩いているとき、俺、声に呼び止められた。
それは昼食後の自由時間のことだった。
「おい、相沢君
君も訓練に参加すべきじゃないか?」
声の持ち主は、クラスの英雄、帝国の勇者こと坂本だった。
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