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無能お荷物の逆転!!異世界転移  作者: 今日も晴れ
第4章 セントフィル都市連合編 ~俺もそれなりに強くなります~
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第80話 これから 前編

 



 エルタニア保有の会館


 その一室で感応者に混じって

 レイはベッドで眠っている。

 ベッドの近くには

 レイを心配そうに見つめるサシャと

 机に座り何かを書いているセシリアがいた。


「セシリア様

 少しやり過ぎではありませんか?」


 レイの手当てをしていたサシャに視線を向けつつ

 ばつの悪い顔をしてセシリアが応えた。


「……少し力が入っただけよ」


 セシリアの無茶は今に始まったことではない。

 それでも他者に対してここまで干渉するのは

 サシャが知る限りでもめずらしいことであった。


「思うところでもあったのですか?」


「似ていたのよ

 昔の“救世主”とか言われ始めて

 使命と重責で一杯いっぱいのときの私にね」


「……

 セシリア様はどのようにして?」


 どのようにしてそれを超えたのか?

 それはなかなか言葉では言い表せない。

 理屈じゃなかった。

 当時すでに聖級だった海龍に

 それはそれはスパルタで鍛えられた。


「よくわかんないわ

 でも想いの乗った“剣”は届くのよ」


 それも師の教えの一つだったような気がする。


「それよりあいつは見つかった?」


「はい、

 現在東方三国同盟軍の駐屯地にいらっしゃるそうです」


「ランデン州の東ね

 今から行ってくるわ」


「セシリア様が?」


「私が行った方が早いでしょ

 2、3日で戻るわ」


 全は急げ、

 思い立ったが吉日

 ということですぐさまランデン州に向かおうとして――


「あっと、

 忘れてたわ

 これ」


 そう言って、

 セシリアはサシャに三つ折りにたたまれた紙を手渡した。

 今まで書いていたものである。


「これは?」


「レイが起きたら渡しといて

 道場の推薦状よ」


 セントフィル都市連合には数多くの剣術道場が存在する。

 大きな流派だけでなく小さな流派も数多くあり、

 イリオス州だけでも10を超えている。


 その中のひとつに東海流の剣術道場があった

 そこへの推薦状をセシリアはしたためていた。


「私はうまく教えられないしね

 レイが良ければここで学んでもらうのがいいでしょ」


「承りました」


 セシリアは東方三国同盟軍駐屯地に向けて駆けだした。





 **********





「うっ」


 ――ここは!?


 レイが目覚めるとそこはベッドの上だった。

 セシリアとの試合の途中までは記憶がある。


 剣が折られて、

 それからが思い出せない。


 それでも意識が薄れる前に

 “おもい”がどうのと聞いたような気がする。


「体調はいかがですか?」


 不意に右手から声を掛けられた。


「あなたは?」


「エルタニア王国所属の者です。

 レイさんの手当てを担当させていただきました」


「それは助かった

 体調は悪くない」


 そう言いながらレイは身体を少し動かす。

 痛む箇所はない。

 少しダルさはあるが、

 問題ないとレイは判断した。


「セシリアは?」


「2、3日で戻る、

 妹を頼むと」


「……そうか」


 セシリアには聞きたいことが多少ある。

 妹を残しているのなら、

 帰ってくるのだろう。

 その時に聞けばいい。

 そうレイは考えたが――


「それとこちらを預かっています」


「ん?

 これは?」


 渡された紙を手に取り、

 首をかしげる。


「道場への推薦状だそうです」


「推薦状?」


 表に道場の名前が書かれたそれを

 まじまじと見つめる。


 つまり、

 先の試合の意味はそこで学べ

 そういうことだろう。


 未だに剣が軽いという

 あの時のセシリアの言葉はよくわからないが、

 レイが弱いのは事実だ。


「あり難く使わせてもらう」


 そうレイが言うと

 隣の女性は微笑んだ。


 少しは上達して

 セシリアの鼻を明かしてやりたい

 そう思うレイであった。




 ****************





 東方三国同盟軍駐屯地


 太陽が南中する少し前。

 駐屯地という明確な区切りがあるわけではないが、

 一応それらしい一帯がある。

 そこへセシリアは一人走ってたどり着いた。


「案外遠いわね」


 ほぼ一日(・・)走りっぱなしだったセシリアだが、

 休むことなく目的の人物のもとを訪ねた。



「メリッサいるー?」


 訓練中の騎士に向かって大声で尋ねた。

 訓練中の、

 である。


 セシリアを訝しげに見る大多数。

 セシリアに気が付き、

 大慌てする少数。


 その少数の一人、

 セシリアを勇者と知るメリッサが駈け寄った。


「セ、セシリアさん

 何してるんですか?」


「ちょっと来てくれない?」


「い、いえ今は訓練中でして」


「いいわよね?」


 セシリアはメリッサの後ろに来ていた

 この騎士団を預かるおそらく隊長クラスだろう人物に投げかける。


「わ、私では判断しかねますので――」


「もちろん

 今から上の連中に掛け合ってくるから

 安心しなさい」


「そういうことでしたら」


 ということでセシリアはメリッサを連れ、

 東方三国同盟軍上層部のいる建物へ。




「入るわよ」


 大きな扉を壊さずに開ける。

 と、中からは笑い声とアルコールの充満した臭い。

 テーブルにはカードとお金が積まれていた。


「へぇ~

 いい身分ね」


 一応勇者は人類連合最高クラスの将校である。

 ゆえに各駐屯地の司令クラスとは同等かそれ以上なのだが、

 悲しいかな目の前の女性=勇者と知らない者もいた。


「なんだ!?貴様はッ!!」


 そう声を上げた男は、

 一歩踏み出し、

 二歩目は踏み出せず沈黙した。


「休憩時間かしらね」


「そそそそそうなんですよ

 ちょーど今まさに休憩中でして」


「お酒も飲むのね」


「そそそそそうなんですよ

 シェルミア王国大使の方の勧めでして」


 見れば、

 テーブルの片側はシェルミア王国の紋章を付けた役人が座っていた。



 ――ここでもシェルミアね

 やっぱり潰した方がいいんじゃないのかしらね


 物騒なことを考えつつ、

 思考を元に戻す。


「腕の立つ人材を探しているの

 この東海流最上級“閃光”を連れていきたいんだけど」


 東海流最上級“閃光”

 今もっとも聖級に近い東海流の使い手として

 名を轟かせている女騎士(24歳独身彼氏募集中)。

 一時期セシリアと共に東海流を学んだ旧友(後輩)でもあった。


「そ、それは困ります

 彼女はこの基地でも重要な戦力でして……」


「ならいいわ

 あなたたちを連れていくことにするから」


 この言葉で場が凍り付く。

 勇者が最前線で魔族を押しとどめていることは常識だ。


 その“勇者”が腕の立つ人物を必要としている。

 いったいどれほどの敵と戦わせられるのか。

 勇者と共に行くことは、

 彼らにとって死刑宣告と等しい。


「いや、そうでした

 彼女には休暇を出す予定でしたな」

「ええ、その予定でした

 すっかり忘れていましたな」

「我々も職務で忙しいですからな」

「いや勇者殿からの頼みとあらば

 断ることなどできますまい」


 口々に手のひらを返す司令官たち。


「すがすがしいレベルね」

「ほんと申し訳ない」

「メリッサが謝ることないでしょ」

「同じ騎士として情けない」


 かくして平和的に解決(?)し、

 セシリアとメリッサは、イリオス州へ向かった。



お読みいただきありがとうございます

今日も晴れ

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