第76話 イリオス州立中央学校
イリオス州立中央学校
イリオスタワーの裏手にあるそれはデカかった。
今は懐かしのグラウンドも複数完備。
校舎も俺の通っていた高校のような感じだ。
ただスケールが10倍くらいはある。
ほんと懐かしい。
大きな門があり、外壁はレンガのようだ。
レイと俺はセシリアの案内でその正門を通り、
真っ直ぐ進んだ。
正門より一番近い、
目立つ建物が目的の場所だった。
5階建てくらいの長方形の建物。
正面入り口にはひとり門番が立っている。
その門番を通り過ぎ、
室内に入ると複数窓口があり、
その各窓口に列になっていろいろな人が並んでいる。
騎士や魔法師、幼子を連れたお母さん、おじいさんまで。
「おお、結構混んでるな」
「まぁね、ここは人気だから
あ、こっちよ」
俺が列に並ぼうとすると止められた。
「予約してあるから大丈夫」
とのことだ
悪いな。
行列に並ぶ諸君よ
俺たちはサークルチケット持ちなんだ。
セシリアの案内で個室にやって来た。
待つことしばし。
バンッ!
「お待たせですわ!!」
……それはやってきた!
扉が壊れるのではないかと思うほど大きな音を立てて
「エルマですわ!!」
彼女は
やってきた。
「「……」」
高えな~
テンション高えな~
「セシリアさん
お久しぶりですわ!」
「ええ、
エルマも元気そうね」
「あなたたちがお客様ですの?」
エルマと呼ばれた女性は俺たちに視線を移す。
くりくりっとした大きな目が特徴的だ。
「あ、ナツキです」
「レイだ」
「セシリアさんから聞いていますわ
よろしくですわ!」
大きめのテーブルの一方にレイ、俺、セシリアが、
もう一方にエルマさんがつく。
「いや~~助かりましたの!
あともう少しで留年確定だったのですの!
実はすっかりこの仕事やるの忘れてて~~
ほんと助かりますわ!
わたくし運がついてますの!
来ましたわ!!
あ、それで何が聞きたいんですの?
おっとと、自己紹介がまだでしたね」
弾丸トークだな。
留年とかあるんだな。
学校っていうよりは大学に近いのかな。
てゆうか音量を落としてほしい。
聞こえるよ。
そんな大声出さなくても聞こえるよ。
「初めまして!
イリオス州立中央学校5回生
なんとなんと次席
魔法学魔法分類学科専攻のエルマですわ」
「魔法分類学科?」
あ、しまった
この人の目がキラッってなったわ
口に出てしまったものは
もう取り消せない……
「分類学に興味がおありで?
ええそうなんですのね
言わずともわかります
わかりますわ!!」
「い、いえ、自己紹介の続きを――」
「いいでしょう
みなさんは不思議に思ったことはありませんか?
ステータスプレートの属性や使える魔法について
あるステータスプレートの火属性と
別のステータスプレートの業火という属性
同じ火を関しているのに一方は火しか使えない。
もう一方は風系統の属性にも適性がある」
ほう、ステータスプレートについてか
それは俺も不思議に思っていたところだ
聞きたいのだが、
話し始めたエルマさんの表情が恍惚とし始めた。
よだれが出そうなのを我慢しているような感じだ。
なんというか怖い。
エロいではなく怖い。
「はたまた、
性質を直接表わす属性ではなく、
色や花、気候や生物の名を属性としているものもあります
皆さんは不思議に思いませんか?」
色……そういえば帝国では
青だか赤だかっていう属性だったな
これにも理由があるのか
「エルマ、長くなりそうだから
また今度にしてね」
「おっとわたくしとしたことが」
あ、元に戻った。
この話は時間のある時にお願いしよう。
「とにかくわたくしは魔道具の分類学の研究をしていますわ
まぁ他にも魔法性質や亜人族についての研究もかじっていますわね」
おお、これはいろいろ聞けそうだな。
「そしてわたくし!
エルマはなんとなんと!!」
テンション高いだけじゃなく身振りも激しい。
今なんか両手をバッと上げている。
「ふふ、ふふふ!!」
「聞いて驚きなさいですわ!!
なんとあの八大英雄にして!!!!
大賢者エルド・エレッツ!!!!
その――」
その――
発言を聞く前に
すかさず俺は声を上げた。
「セシリア、
チェンジで!!」
「「え?」」
「他の人にしよう」
「えええですわ
どうしてですの???
ちょっと待ってくださいな」
近い。
なんていうか近すぎるよ。
テンション高いのも変態チックなのも許そう。
でも八大英雄?
なんじゃそりゃ?
やはり異世界には英雄とか賢者とか
そういう人がやはりいるようだ。
俺の個人的な見解によるとだ、
こういう異世界転移したところに英雄だか魔王だか
それっぽい人と関わるとろくなことにならん。
英雄?戦争?
よそでやってくれ。
ラブアンドピース!
平和を愛する俺に英雄は相性が悪い。
もう厄介事には巻き込まれたくないのだよ
レイとまったりのんびり平和にいきたいんだ!
「ちょっと考えてみてくれ
英雄とかその弟子とか
魔王とか勇者とか
それっぽいすごそうな人と関わると
ろくでもないことにしかならない予感がするんだ
というわけでチェンジで」
「ちょっとおまち!!
くださいですわ
単位が!
留年がかかってますの!
待ってくださいわわわ!」
「言葉がおかしいですよ
服引っ張らないでください」
「誤解ですわ
最後までお聞きくだざいでずわ」
力強いな。
涙と、つばが飛んでくる
口閉めてくれ。
仕方ない最後まで聞いてやるか
「八大英雄の大賢者 はぁはぁ
エルド・エレッツは
はぁはぁ ここの卒業生で、
わたくしと同じ分類学専攻と はぁはぁ
言うだけですんわ」
「息上がってますけど
大丈夫ですか?」
「だ、大丈夫ですわ
でもそれより、
それならなんでセシ――(ぐはっ)」
「お、おい、
どうした?」
エルマがいきなり突っ伏した。
意味の分からない言動の多い奴だな。
「せ、セシリアさんですわね(ぐはっ)」
「エルマ大丈夫?(私のことは黙ってなサイ)」
「ええ大丈夫ですわよ(ご自身のことはおっしゃってないんですの?)」
「(驚かせてやろうと思っていたのよ)」
「(今からでも遅くはありませんわ)」
「(単位困るんじゃないの?)」
「(ぐっここはお互いに黙っているというのはどうですの?)」
「(そうね、そうしましょう!)」
2人が部屋の隅で、
小声で相談し始めた。
「二人ともどうした?」
「ええ、なんでもありませんわ」
「大丈夫よ」
「んじゃまぁエルマさんでいいかな」
「ほんとですの?
嬉しいですわ
あ、エルマで結構ですわの!!」
「レイもそれでいい?」
一応レイに確認
ということで隣を見れば……
「へ??」
「い、いやどうした?」
「な、なんでもないぞ」
「いやでも“へ”って高い声出さなかったか?」
「なんでもない
それより私に異存はない」
おかしな3人だ。
どうしたんだろ?
ひとまずそんなわけで担当者がエルマに決まった。
「まず何から知りたいんですの?」
「そうだな」
ここは異世界転移の基本中の基本
チュートリアルを済ませよう。
知りたいことは山ほどある
というか言ってしまえば全てだ。
とりわけ知らなければならないこと、
それは各国のことや魔法についてだ。
特に帝国の立ち位置は
葉山や大沢たちと今後どうするかを決める上でも重要になってくる。
あと剣術についてもだ
レグルスの使った不可視の技、
俺が動体視力を強化しても追えなかった技についても知りたい。
「各国についてと、あと魔法
出来れば剣術の技とかも知りたいっす」
「なるほど!」
「へぇ~」
エルマにはなぜか頷かれ、
セシリアには不思議がられた。
少ししてエルマのこの世界についての解説が始まった。
異世界転移チュートリアルの始まりだ!
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今日も晴れ




