第72話 俺と人さらいと感応者 後編
大切なことは、
ほう・れん・そう!
ということで、
俺たちはまず侵入計画を相談することにした。
「館内の見取り図とかってある?」
「一応持っているわ」
セシリアが館内の見取り図を持っていた。
用意のいいことだ。
ありがたい。
見取り図といっても手書きの大雑把なものだったが。
これを見る限り出入り口は一つだけだな。
「レイ、セシリア
殺さずに無力化することはできる?」
この提案には、人殺しをしたくないという以外に理由がある。
もし、この場に妹さんとセシリアの知り合いがいなかった場合だ。
情報を聞き出すためにも最低一人は必要だ。
「厳しいな」
とはレイ。
「余裕よ」
とはセシリア。
「自身の力を過信するのは危険だ」
「事実よ」
あらあら……
2人はそりが合わないのだろうか?
まぁレイが厳しいというなら、
そうなのだろう。
セシリアの実力はわからないが、
レイほどではないだろうからな。
うちのレイさんは超強いのだ!!
「とりあえず
突入後、人数が多いと判断した場合は
殺しもやむを得ないってことで。
その場にいる人が全員犯罪者ってわけじゃないだろうしね」
「ああ、わかってる
確認もせずに斬りつけるような頭のおかしいことはしないさ」
「ちょっと!
誰のこと言っているの?」
「誰と言っていない
でも心当たりがあるのだな」
だめだ。
なんかレイもピリピリしてる。
でも仁王立ちがさまになっていてカッコイイ
「まぁまぁ
とにかく行こう」
心配を抑え、計画を詰めていく。
結局、出入り口が一つと想定して作戦を立てた。
俺が地下室全体で連中の気を引く。
その瞬間、レイとセシリアが突入。
出口が別にあった場合、
セシリアが優先的にその場へ
レイは地下内の警戒
という感じだ。
レイなら5、6人は余裕だろう。
問題は俺だな。
しっかり連中の気を逸らさないとな。
***********
見取り図どおり、
一階の奥に地下へと続く階段があった。
レイ、俺、セシリアの順で続く。
おりた地下は、
廊下となっていて、左右にそれぞれ一部屋。
右の部屋のみ明かりがついている。
中からは笑い声も聞こえてくる。
複数人はいる。
木製の扉で、
四角い手のひらサイズの、のぞき窓が付いていた。
中は思いのほか広い。
室内の壁際にいくつもの檻があり、
その中には幼い少女が入っている。
ここで間違いない。
中央にテーブルがあり、
4人の男がカードをしていた。
奥にもう一人、
あれは――料理でもしているのか?
何かを作っているようだが、
後ろ姿では判断できない。
「いいか?」
「ああ」「ええ」
よし、
扉を開け放ち、
素早く魔石から魔法を発動する。
《回復魔法》《地震8.0》
右手を地面につけ、
想像する。
地下室内で地震が発生し、男たちはバランスを崩す。
立っていられないほどの揺れに、
男たちは皆、地面に釘付けだ。
直後、
レイとセシリアが風のように
男たちに肉迫し、無力化していく。
そして俺は、
俺の左手に持つ魔石より
回復魔法が発動する
――はずだった。
魔石は光を放ち、
そして――
砕け散った。
クソッ
回復魔法まで使えなくなったのか!?
片膝を付き、倦怠感、疲労感に耐える。
チカラを抜いたらそのまま倒れ込みそうだ。
「なんだこりゃ!?」
怒鳴り声。
俺の背後!?
しまったッ!
動こうにも動けず、
どうにか後ろを向けば、
ガラの悪そうな男が俺に剣を振り下ろしている。
そんな光景が目に入って来た。
くッ
ガードするための腕さえ上げられない状況。
出来たのは目を閉じるくらいだ。
…………
あれ?
痛みが来ない……
恐る恐る目を開けるとそこには胸を切られた男が倒れ込む。
そんな姿が目に入った。
倒れきった男の周囲は赤く染まる。
すでに息はない。
「大丈夫かナツキ」
駈け寄ってきてくれたのはレイだ。
「あ、ああ
今のはレイが?」
「いや私じゃない」
え?レイじゃないの?
レイではないとすると残るはもう一人!?
「危なかったわね
ナツキ」
「そうか
セシリアか
助かったよ
いやほんと助かった」
「どういたしまして
それより立てるの?」
「あ、ああ」
チカラを振りしぼり、なんとか立ち上がる。
ダルさマックスだが、
やることがあるのだ
「シーナさんいますか?」
やや大きめの声で呼びかける。
大小の檻、それぞれに少女が入っている。
一応シンから特徴は聞いているが、
自己主張してくれた方が手っ取り早い。
「あの子じゃないか?」
誰も声を発しない中、
レイは奥のひときわ大きな檻を指さして言った。
おお、確かに聞いていた特徴に一致しているし、
驚いた顔をしている。
俺はすぐにその前に向かい、
「あなたのお兄さんから頼まれた者です
シーナさんですか?」
「え……
シン兄から……?」
声は震えていて、すごく小さい。
でも確かに聞こえた。
シン、
確かにそう言ったのだ。
これで決まりだろう。
「お兄さんのところに帰りましょう」
その言葉で、彼女は泣き出してしまった。
すごく怖かったのだろう。
男を縛り上げていたレイが
カギを渡してくれた。
カギを解錠し、シーナを助け出す。
腕の中で声を押し殺しながら泣く少女の姿を見ると
頑張ってよかったと思う。
……もっとも頑張ったのは、レイとセシリアなんだが。
*****
セシリアは目的の檻を自身の剣で斬る。
「ユリア!
だいじょ――」
「遅い!
ほんと遅い!!
もう少しで売られるとこだったのよ!」
「えっと、
元気そうで何よりだわ」
若干引き気味にそれでもホットしてセシリアはユリアを助け出した。
ユリアも口では強がっていたが、
どうやらほっとしているようで
地面に座り込んでいる。
そんなユリアを見ているとレイが近づいてきた。
どうやらナツキたちも目的の人を助け出せたようね。
「セシリア、他の子はどうする?」
「ん?
どうしたいの?」
セシリアにとって今はユリアが第一だ。
他の子供に興味はない。
それにこの場のユリア以外は感応者だと感じていた。
ならあとはこの後に来る連中に任せようと思っていた。
「ナツキなら助けたいというだろう。
でも私は、今はそれがいいのかわからない」
「そう、
感応者だから?」
「ああ
感応者は対魔族戦においてのかなめだと聞いている」
「そうね
正しいわ。
でも最近はそうでもないわよ」
最近の感応者の需要はもっぱら大国だ。
それゆえここ数年最、前線で感応者をセシリアは見ていなかった。
「正しいのかそうでないのかは
自分で考えなさい。
盲目になれば、何かを失うわ」
自身の過去を思い出し、言葉を紡ぐ。
セシリアは考えた。
それゆえ、失わずにすんだ人がいる。
ユリアもその一人だとセシリアは考えていた。
「肝に銘じておく
それとナツキを助けてくれてありがとう」
「別にいいわよ」
ナツキ。
先ほどの魔法をセシリアは見たことがなかった。
最前線で魔法師の使う攻撃魔法はかなりの数、種類見てきたが、
どれにも当てはまらない。
地面を割ったり、土槍を走らせたりする魔法とは違う。
地面のみを揺らす魔法。
そういえば、とセシリアは思う。
あの魔法使いやその弟子たちは、
見たこともない魔法を次々に使っていた。
確か創成魔法とか言っていたような……
次にあったら聞いてみよう
お読みいただきありがとうございます
今日も晴れ




